ケミカル・ブラザーズ「セッティング・サン」【Classic Songs】

1996年10月12日の全英シングル・チャートでは、ケミカル・ブラザーズ「セッティング・サン」が初登場で1位に輝いた。2位は先週の1位からダウンしたディープ・ブルー・サムシング「ティファニーで朝食を」であり、90年代を代表する一発屋的ヒット曲の1つとして、当時、フジテレビ系で放送されていた「BEAT UK」を見ていたような人たちの印象には残っているかもしれない。3位は初登場でベービーバード「ユーアー・ゴージャス」なのだが、とにかくものすごいハイペースでいろいろな作品をリリースし続けていた、スティーヴン・ジョーンズというアーティストのソロプロジェクで、この曲はラジオフレンドリーでメジャーに売れていた。他にはビューティフル・サウス「ロッテルダム」が6位、マニック・ストリート・プリーチャーズのアルバム「エヴリシング・マスト・ゴー」から3作目のシングルとしてカットされた「ケヴィン・カーター」が9位に初登場している。

ケミカル・ブラザーズはトム・ローランズとエド・シモンズによって結成された音楽ユニットで、当初はダスト・ブラザーズという名前であった。ところが、ベックやビースティ・ボーイズなどともかかわりがある同じ名前のユニットがアメリカにあったため、90年代の半ばに改名している。最初はヒップホップ、テクノ、ハウスなどを主にプレイするDJユニットだったのだが、次第に自分たちで音楽をつくるようにもなっていった。ブリットポップが本格的に盛り上がりはじめていた1994年にはヘヴンリー・サンデー・ソーシャル・クラブというパーティーのレジデントDJとなり、常連客であったノエル・ギャラガー、ポール・ウェラー、ジェームス・ディーン・ブラッドフィールド、ティム・バージェスらとも親交を深めていく。

ブリットポップムーヴメントにはオアシスやブラーをはじめとしたインディーロックバンドの印象がひじょうに強いのだが、実際にはクラブカルチャーとも親和性は高く、ブリットポップ映画ともいわれる「トレインスポッティング」のエンディングテーマがアンダーワールド「ボーン・スリッピー」であったことなどがそれを象徴してもいるように思える。この「ボーン・スリッピー」なのだが、映画の大ヒットがもちろん影響していたとはいえ、この年に全英シングル・チャートで最高2位のヒットを記録していた。ブリットポップのバンドでもシングルにダンスミックスを収録するのがわりと流行りでもあり、マニック・ストリート・プリーチャーズやプライマル・スクリームなどがダスト・ブラザーズにリミックスを依頼している。

ダスト・ブラザーズには「ケミカル・ビート」という曲がありなかなか人気があったのだが、ユニットの改名にあたりケミカル・ブラザーズという新しいユニット名はこの曲のタイトルにも由来している。そして、最初にリリースしたアルバムは「さらばダスト惑星」というタイトルで、ダスト・ブラザーズ時代に別れを告げるようなものであった。ベス・オートンのボーカルをフィーチャーした「アライヴ・アローン」なども収録したこのアルバムは、全英アルバム・チャートで最高9位といきなりなかなかのヒットを記録したのであった。その後、ザ・シャーラタンズのティム・バージェスのボーカルをフィーチャーした「ライフ・イズ・スウィート」がシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高25位を記録した。

ケミカル・ブラザーズの音楽を元々気に入ってもいたオアシスのノエル・ギャラガーは、ザ・シャーラタンズのティム・バージェスのように、ぜひともボーカルで参加することを希望し、ケミカル・ブラザーズはそれ用のトラックをつくってノエル・ギャラガーに送った。そして、ノエル・ギャラガーは一晩で曲を完成させたという。ビートルズのアルバム「リボルバー」の最後に収録された「トゥモロー・ネバー・ノウズ」からの影響を感じられるこの楽曲の仮のタイトルは、「トゥモロー・ネヴバー・ノエル」だったという話もある。どこが「トゥモロー・ネバー・ノウズ」的かというとマイルドなサイケデリック感のようなものがそれにあたると思われるのだが、ビートはいわゆるビッグ・ビートなどとも呼ばれたいかにもケミカル・ブラザーズ的なタイプのものであった。

この頃のオアシスといえばアルバム「モーニング・グローリー」やシングルカットされた「ワンダーウォール」「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」などの大ヒットからの夏には伝説のネブワースでのライブがあったばかりであり、人気も評価も最高潮であった。思い返せばあれがブリットポップムーヴメントのピークだったともいえるわけだが、当時はまだまだ続くのではないかと思われていたのかもしれない。

ケミカル・ブラザーズはこの翌年にアルバム「ディグ・ユア・オウン・ホール」をリリースし、「セッティング・サン」も収録されるのだが、先行シングルの「ブロック・ロッキン・ビーツ」共々、全英チャートで1位に輝き、メインストリームでも完全に売れ切ったといえる状態であった。インディーロックをメインに聴いているリスナーでも、当時の旬の音楽であったいわゆるテクノのCDなども買っておきたいと思った時に、ケミカル・ブラザーズ、プロディジー、オービタルなどはわりと手を出しやすかったような気もする。

また、いわゆるビッグ・ビートと呼ばれるサウンドをクラブからお茶の間(イギリスの場合は紅茶の間とでもいった方が適切かもしれないが)に広めた功績も大きかったように思われる。