オアシス「リヴ・フォーエヴァー」【Classic Songs】

1994年8月27日付の全英シングル・チャートでは、ウェット・ウェット・ウェット「愛にすべてを」が13週目の1位を記録していた。1967年にザ・トロッグスが全英シングル・チャートで最高5位を記録した曲のカバーバージョンで、ヒュー・グラントが主演して大ヒットしたロマンティックコメディ映画「フォー・ウェディングの主題歌であった。他には4位にユッスー・ンドゥール&ネナ・チェリー「7セカンズ」、8位にマイケル・マクドナルドの1982年のヒット曲「アイ・キープ・フォーゲッティン」をサンプリングしたウォーレン・G&ネイト・ドッグのギャングスタ・ラップ「レギュレイト」などがランクインしていた。そして、10位には先週の初登場から2週連続でオアシス「リヴ・フォーエヴァー」がランクインしている。デビューシングルの「スーパーソニック」が最高31位、その次の「シェイカーメイカー」が最高11位に続いて、3作目のこのシングルで初のトップ10入りを果たした。この2日後にはこれらすべてのシングル曲をも収録したデビューアルバム「オアシス(原題:Definitely Maybe)」がリリースされ、全英アルバム・チャートで初登場1位に輝くことになる。ちなみにこの週の全英シングル・チャートでオアシス「リヴ・フォーエヴァー」の1ランク下、11位にランクインしていたのは、ロンドンのコギャルなどと呼ばれ日本でも話題になっていた女性2人組、シャンプーの「トラブル」であった。

それはそうとして、1994年4月11日にシングル「スーパーソニック」でデビューして以来、というか実際にはそれ以前から「NME」「メロディー・メイカー」などの読者の間ではかなり話題になっていたオアシスだが、「リヴ・フォーエヴァー」はライブで最も盛り上がる曲だともいわれていた。それで、8月8日に発売されたので西新宿のラフ・トレード・ショップで買って聴いてみたところ、確かにこれはメロディーがとても良く、素晴らしいのではないかと感じたのであった。しかし、記憶に間違いがなければ、この「リヴ・フォーエヴァー」は「NME」のシングル・オブ・ザ・ウィークには選ばれていなかったのではなかっただろうか。確かスマッシュ「(アイ・ウォント・トゥ)キル・サムバディ」が選ばれていたような気がする。1994年がはじまった頃には「NME」ではスマッシュ、ジーズ・アニマル・メン、エラスティカなどを中心とするNWONW(ニュー・ウェイヴ・オブ・ニュー・ウェイヴ)がシーンとして盛り上がるのではないかと予測して、かなり推してもいたのであった。しかし、オアシス、ブラー、パルプ、スウェードなどによるブリットポップが本格的に盛り上がっていくと、いつの間にかなかったことにされていたような感じで、エラスティカもブリットポップのバンドということになっていたのだった。

「リヴ・フォーエヴァー」はノエル・ギャラガーがまだオアシスに加入する以前には、すでにできていたといわれている。ブリティッシュ・ガスの下請けの工務店で働いていた頃、怪我のためより負担の少ない倉庫勤務となり、時間ができたために曲づくりがはかどり、「リヴ・フォーエヴァー」もこの時にできたのだという。ローリング・ストーン「メインストリームのならず者」に収録された「ライトを照らせ」からも影響を受けているというこの曲をノエル・ギャラガーがオアシスの他のメンバーに聴かせたのは1993年のはじめであり、その反応はすさまじいものだったようだ。

タイトルからしてひじょうにポジティヴで肯定的な楽曲だが、これは当時、流行していたグランジ・ロック、特にニルヴァーナのカート・コバーンによる「アイ・ヘイト・マイセルフ・アンド・アイ・ウォント・トゥ・ダイ」、つまり自分ののことが嫌いで死にたい、というようなフレーズにたいするアンチテーゼのようでもあった。ノエル・ギャラガーは音楽的にはニルヴァーナを好んでいたのだが、グランジ・ロックのこのようなアティテュードにはまったく共感できずにいたようである。

カート・コバーンは1994年4月8日、シアトルの自宅にて遺体で発見されるのだが、偶然にもそのわずか3日後にイギリスではオアシスのデビューシングル「スーパーソニック」がリリースされていた。これが陰鬱なグランジ・ロックから享楽的なブリットポップへのトレンドの変化にもつながり、歴史上ひじょうに分かりやすいことになっている。

「リヴ・フォーエヴァー」のデモテープに収録されていたバージョンはアコースティックギターのイントロからはじまっていたということだが、最終的にこれは省かれることになった。そして、短い口笛の後に「Oh yeah」という言葉が入り、ドラムのビートが期待感を高めてくれる、あのおなじみの構成になったようだ。

シングルのジャケットにはジョン・レノンが子供の頃に住んでいたというリバプールの家の写真が使われ、ミュージックビデオの一部にはニューヨークのセントラルパークにあり、ジョン・レノンのメモリアルスポットでもあるストロベリー・フィールドで撮影されている。また、かつてライブで「リヴ・フォーエヴァー」が演奏された際にはステージ上にいまは亡くなってしまったポップ・ミュージック界のレジェンド、エルヴィス・プレスリー、ジミ・ヘンドリクス、ボブ・マーリー、シド・ヴィシャスなどのスライドが映しだされ、最後はジョン・レノンで締められていた。

「リヴ・フォーエヴァー」はオアシスやインディー・ロックの名曲、あるいは歴代ベスト・ソング的な企画などで上位に選ばれがちで、ひじょうに根強い人気があることが分かる。様々な追悼や鎮魂に際して演奏されることも少なくはなく、生命の肯定というテーマが選ばれているうえに楽曲そのものが優れていることもあり、今後も末永く聴かれ続けていくのではないかと思われる。