ノヴァ・ツインズ「スーパーノヴァ」

ロンドンで結成された2人組音楽ユニット、ノヴァ・ツインズの2作目のアルバム「スーパーノヴァ」が2022年6月17日にリリースされた。11曲が収録されていて、約30分50秒というサイズ感がとても良いのだが、音楽性から視覚的なイメージまですべてにおいて、表層的なポップ感覚と本質的な強度に優れている点が特徴である。アルバムのリリースに合わせて公開された「チューズ・ユア・ファイター」のミュージック・ビデオなどはビデオゲームやスーパーヒーローもののTVシリーズなどを思わせる世界観が展開されていて、音楽はサウンドトラックとしてひじょうに相応しいものである。

メンバーの2人は幼い頃からの友人同士であり、ボーカルとギターのエイミー・ラヴはイランとナイジェリア、ベースのジョージア・サウスはジャマイカとオーストラリアの血を引いている。結成は2014年でいくつかのシングルやEPと2020年にはデビュー・アルバム「フー・アー・ザ・ガールズ?」をリリースしている。レイジ・アゲインスト・ザ・マシン、オーディオスレイヴ、パブリック・エナミー、サイプレス・ヒルのメンバーによるスーパーグループとして話題になったプロフェッツ・オブ・レイジのサポートを務め、トム・モレロから絶賛されるなどもしていた。

デビュー・アルバムがリリースされたタイミングで新型コロナウィルスによる世界的なパンデミックがあり、その後はライブなどの活動ができなくなっていたのだが、今回の「スーパーノヴァ」に収録された楽曲はその間につくられたものなどである。ラップ・メタル、オルタナティヴ・ロック、グランジ・ロックなどからの影響が感じられるのだが、それらのジャンルにまとわりつくホモソーシャル的な退屈さはこのメンバー編成なのでもちろん完膚なきまでに払拭されていて、良いところばかりが残っている。アルバムジャケットにもあらわれているのだが、音楽性や視覚的なイメージはデビュー・アルバムに比べるとくっきりとキャラ立ちしていて、ロック・リバイバルやジェンダーやエスニシティの多様性といったいまどきのトレンドにもマッチしている。数年前に実現したブリング・ミー・ザ・ホライゾンとBABYMETALのコラボレーションなどにも、よく似たフィーリングが感じられる。

それで、ノヴァ・ツインズをそのようにカタカナ表記するかという、わりとどうでもいいといえばいいような気もする問題なのだが、なるべくそれっぽくするならノヴァ・トゥインズということになるのかもしれない。しかし、80年代に「ホールド・ミー・ナウ」をヒットさせたり日本でもマクセルカセットテープのCMに出演するぐらい人気があったニュー・ウェイヴ・グループ、トンプソン・ツインズはトンプソン・トゥインズではなかったり、1988年に公開されたアーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画は「ツインズ」であって「トゥインズ」ではなかったり、「帰ってきたウルトラマン」に登場した古代怪獣やヘアスタイルの名称であるツインテールのことをトゥインテールとは表記しないことなどから、トゥインズではなくツインズの方が良いような気はする。そして、ノヴァの方はノバではなくてノヴァの方が良いのではないかと思うのだが、「渋谷陽一の社長はつらいよ」ではノバ・ツインズなどと表記されていたりもする。駅前留学のキャッチフレーズで一世を風靡した英会話教室、NOVAはノヴァだが、一時期、農業にいそしむ老婆の意味だと思われる農婆をNOVAおばさんとしてテレビCMに出演させていたので、そういう意味ではノバなのかもしれない。アルバムタイトルの「スーパーノヴァ」は超新星の意味であり、Kポップ・グループの超新星は英語圏だとスーパーノヴァになる。

というような話はわりと本当に取るに足らないのだが、1992年にグランジ・ロックがメインストリーム的にも盛り上がってきた頃に、ロサンゼルス出身のメンバー全員が女性のロック・バンド、L7が「プリテンド・ウィーアー・デッド」という曲をリリースした。グランジ・ロックのバンドというのはほとんどが白人男性によるものだったのだが、暗くて陰鬱なところに特徴があった。そこへいくとL7のこの曲などは、音楽的にはグランジ・ロックに近いところもあったのだが、クールでユーモアのセンスが感じられるところなどがとても良かった。それから30年後にあたる2022年にノヴァ・ツインズを聴いていると、なんとなくそれに近い感覚もありながら、しっかりアップデートされているようにも思える。表層的なイメージはひじょうに新しくトレンド感もあってとても良いのだが、実はソングライティングが意外にもしっかりしていて、クラシック・ロックやポップスのファンにもアピールするだけのポテンシャルを持っているように感じる。メタルやロックといったオーセンティックな音楽をベースにしていながら、2022年におけるポップ・ミュージックの最新型と評してしまうのもやぶさかではない、とてもフレッシュもぎたて真夏の果実的な、良いアルバムなのではないかと思うのである。