モット・ザ・フープル「すべての若き野郎ども」【Classic Songs】

1972年9月9日の全英シングル・チャートではスレイド「クレージー・ママ」がロッド・スチュワート「ユー・ウェア・イット・ウェル」を抜いて、「だから君が好き」「恋のバック・ホーム」に続く通算3曲目の1位に輝いていた。スレイドはさらにこの翌年の1973年には「カモン!!」「スクゥイーズ・ミー」「メリー・クリスマス・エヴリバディ」でも全英シングル・チャートで1位に輝くなど、グラムロックブームを代表するバンドの1つとしてひじょうに人気があった。

そして、先週の5位から2ランクアップして3位にランクインしたのが、これもまたグラムロックを代表する名曲として知られるモット・ザ・フープル「すべての若き野郎ども」である。たとえばスレイドなどは、当時のヒットチャートの順位などを見ると、グラムロックバンドの中でも特に売れていたといえるわけだが、ポップ・ミュージック史における歴代ベストソング的なリストなどでは、モット・ザ・フープルの方が「すべての若き野郎ども」によって高く評価されていたりもする。

それにしても、この曲は邦題がとても良い。「すべての若き野郎ども」というのはかなりインパクトがあるわけだが、原題は「All the Young Dude」で、つまりはほとんど直訳だということになる。ポイントは「Dude」を「野郎」と訳した点であろう。「Dude」は英語で「奴」「お前」「彼」など男性を指す単語ではあるのだが、19世紀後半に「Dandy」にかわって「お洒落な男」というような意味で広まったともいわれ、その後はカリフォルニアのサーファーの間で流行ったりしたらしい。

エアロスミス「デュード」やクーラ・シェイカー「ヘイ・デュード」などのことがすぐに思い出されるわけだが、クインシー・ジョーンズ「愛のコリーダ」のアルバムの方の原題が「The Dude」だったり、ジョエル・コーエン監督の映画「ビッグ・リボウスキ」の主人公の愛称が「デュード」だったりもした。

モット・ザ・フープルの前身となったバンドは1960年代後半に結成され、活動していたのだが、レコードデビューにあたって新しいボーカリストがオーディションで選ばれ、それがイアン・ハンターであった。その後、そこそこファンもついていて、全英アルバム・チャートでは50位以内にランクインしたりもするのだが、シングルは1曲もランクインすらしない、という感じであった。モット・ザ・フープルのファンであったデヴィッド・ボウイは「サフラジェット・シティ」を提供しようとするのだが、バンドのスタイルに合わないとかで却下され、自身のアルバム「ジギー・スターダスト」に収録することになった。

そして、モット・ザ・フープルが解散するという話をメンバーから聞いたデヴィッド・ボウイは、それはもったいないと「すべての若き野郎ども」を提供することになる。この曲はモット・ザ・フープル側にも大好評であり、ドラマーのデイル・グリフィンなどはこんな良い曲を提供してくれるなんて、デヴィッド・ボウイはどうかしているのではないか、とすら思ったという。

タイトルからも若者を称えるアンセムのように思われがちなこの曲だが、実はデヴィッド・ボウイ「ジギー・スターダスト」ともつながっていて、世界はあと5年間で終わるというニュースを伝えることなどがテーマになっている。また、歌詞の一部やバンドのイメージからの連想から、モット・ザ・フープルは多くのグラムロックバンドと同様にヘテロセクシャルなメンバーから成っていたにもかかわらず、「すべての若き野郎ども」はゲイのアンセムとして見なされることもある。

デヴィッド・ボウイは「すべての若き野郎ども」を楽曲提供したのみならず、プロデュースやバックコーラスでレコーディングに参加もしている。そして、この曲は全英シングル・チャートで最高3位のヒットを記録し、モット・ザ・フープルはもう少しの間、解散しないことになった。全英シングル・チャートには、その後も何曲かがランクインしていた。全米シングル・チャートでは最高37位を記録したこの曲が、モット・ザ・フープルにとって唯一のトップ40ヒットとなっている。

「すべての若き野郎ども」がヒットした後、デヴィッド・ボウイは後にアルバム「アラジン・セイン」に収録される「ドライブ・インの土曜日」もモット・ザ・フープルに提供しようとするのだが、自作曲の「ホナルーチ・ブギ」がヒットしていたこともあり、却下されたようである。

その後、モット・ザ・フープルは「すべての若き野郎ども」に匹敵するレベルのヒット曲は生み出していないが、「ロックンロール黄金時代」などタイトルからして興味をそそられる作品をリリースしたりもして、熱心なファンはひじょうに多い。スピッツの草野マサムネも2022年7月にはTOKYO FMの番組「SPITZ 草野マサムネロック大陸漫遊記」において、モット・ザ・フープルを特集したりしていた。

ザ・クラッシュの1978年のアルバム「動乱(獣を野に放て)」に収録された「すべての若きパンクスども」はこの曲にインスパイアされていて、日本のロックバンド、THE YELLOW MONKEYが1996年にリリースしたシングル「JAM」は、日本の「すべての若き野郎ども」をイメージしたともいわれている。

1995年に公開されたアリシア・シルヴァーストーン主演のとても良い青春映画「クルーレス」のサウンドトラックにはワールド・パーティーがカバーしたこの曲が使われていたり、2007年に公開されたこれもまたとても良い青春映画「JUNO/ジュノ」のサウンドトラックには、モット・ザ・フープルのこの曲が使われていた。