ミッシー・エリオット(Missy Elliott)「Get Ur Freak On」
ミッシー・エリオットのシングル「Get Ur Freak On」は2001年4月28日付の全英シングル・チャートで4位に初登場し、結局のところそれが最高位となった。その週の上位3曲はデスティニーズ・チャイルド「Survivor」、ロナン・キーティング「Lovin’ Each Day」、O-TOWN「Liquid Dreams」で、いずれもこの週が初登場である。また、全米シングル・チャートでは2001年6月30日付で記録した7位が最高位であり、この週の1位はクリスティーナ・アギレラ、リル・キム、マイア、ピンク「Lady Marmalade」であった。つまり、同時期にこれよりもヒットしていた曲はあるのだが、2022年現在、いろいろなメディアが発表しがちなオール・タイム・ベスト・ソング的なリストにおいて、「Get Ur Freak On」は、21世紀以降にリリースされた曲としては、アウトキャスト「Hey Ya!」やM.I.A.「Paper Planes」などと並んで、上位に選ばれていることが多い印象である。
バングラ・ビートを取り入れたユニークなビートが特徴的で、中毒性が高いダンス・チューンになっているのに加え、日本のリスナーにとっては冒頭に「これからみんなでめちゃくちゃ踊って 騒ごう 騒ごう」という日本語のフレーズが入り、また、途中にも「1, 2, 3, 4」というかけ声のようなものが、「ワン、ツー、スリー、フォー」ではなく「いち、に、さん、し」と発音されているところなども、親しみやすいポイントとなっている。また、ミュージック・ビデオには、リュダクリス、LL・クール・J、ティンバランド、ジャ・ルール、バスタ・ライムス、マスター・Pといった有名な人たちがたくさん出演してもいる。
この曲はヒップホップに分類されはするのだが、あまりにもユニークでありながらポップでキャッチーでもあったことから、様々なジャンルの音楽リスナーから支持され、「NME」においてもカイリー・ミノーグ「Can’t Get You Out of My Head (熱く胸を焦がして)」を抑えて、年間ベスト・シングルに選ばれている(ちなみにこの年の年間ベスト・アルバムは、ザ・ストロークス「Is This It」である。
バングラ・ビートとは、インドとパキスタンにまたがるパンジャブ地方において、農業の収穫祭でのパーティー音楽として親しまれるバングラをベースとして、イギリスで発展したダンス・ミュージックであり、90年代にはアパッチ・インディアンやパンジャビMCがヒットを記録していた。
ミッシー・エリオットはアメリカのヴァージニア州ポーツマス出身のラッパーだが、当時は4人組グループ、シスタのメンバーとして活動していた。ジョデシィのディヴァンテ・スウィングの紹介により、レーベルと契約を結び、シングルがリリースされるのだが、その後、トラブルが生じ、レコーディングされていたアルバムはお蔵入り、グループも解散してしまった。しかし、楽曲を聴いたフェイス・エヴァンスに認められ、SWV、アリーヤといったアーティストたちに楽曲を提供するようになる。特に1996年にリリースされたアリーヤのアルバム「One In A Million」には、後にミッシー・エリオットのプロデューサーとしてかかわることになるティンバランドも参加していた。
1997年のデビュー・シングル「The Rain (Supa Dupa Fly)」はアン・ピープルズの名曲「I Can’t Stand The Rain」を引用し、全英シングル・チャートで最高16位のヒットを記録した。他のアーティストの楽曲にフィーチャリングされ、ヒットを記録するケースも少なくはないのだが、特にイギリスにおいてはスパイス・ガールズのスケアリー・スパイスことメラニーBのシングル「I Want You Back」をプロデュースすると共にフィーチャリング・アーティストとしてもクレジットされ、全英シングル・チャートで1位に輝いている。
ミッシー・エリオットのミュージック・ビデオはそれまでハイプ・ウィリアムスによって監督され、トレードマークともなっていた未来的なイメージが強調されてもいたのだが、「Get Ur Freak On」のビデオにおいては初めてデイヴ・マイヤーズを起用している。よりワイルドでプリミティヴな印象をあたえるこのミュージック・ビデオは、カリフォルニア州グレンデールのベーカリーで撮影されたということである。
アルバム「Miss E…So Addictive」はすでに完成されかけていたのだが、なんだかいま一つ物足りないような気がしていたところに、この曲が追加されることになったのだという。ネリー・ファータドをフィーチャーしたリミックス・バージョンは、プレイステーションのゲームソフトを原作とするアクション映画「トゥーム・レイダー」のサウンドトラック・アルバムで、ケミカルズ・ブラザーズ「Galaxy Bounce」とアウトキャスト・フィーチャリング・シーロー・グリーン&ジョイ「Speedballin」の間に収録されていた。