ミーガン・ジー・スタリオン「Traumazine」【Album Review】

ミーガン・ジー・スタリオンの2作目のアルバム「Traumazine」が、2022年8月12日にリリースされた。ジャケットアートワークはモノクロームで、3種類の表情をしたミーガン・ジー・スタリオンが写っている。タイトルの「Traumazine」というのはよく分からないのだが、おそらくトラウマこと心的外傷と関係があると思われる。

ミーガン・ジー・スタリオンは1995年2月15日にテキサス州サン・アントニオで生まれ、その後すぐにヒューストンに移り住んだという。母親もラッパーだったようなのだが、娘であるミーガン・ジー・スタリオンも14歳の頃にはすでにラップをはじめていたという。年齢のわりには性的な表現が多いと感じられる作風だったようである。2013年に大学生になるとインターネットにフリースタイルの音源を上げるようになったり、後にミックステープを発表したりするようになった。2020年にリリースしたEP「Suga」に収録されていた「Savage」がTikTokでヒットして注目をあつめるようになると、ビヨンセをフィーチャーしたリミックス・バージョンをリリースし、これが全米シングル・チャートで1位に輝く。そしてこの年にはカーディ・Bとのシングル「WAP」もリリースして、これもまた全米シングル・チャートで1位、イギリスをはじめ様々な国のシングル・チャートでも1位に輝いた。大ヒットしただけではなく、様々なメディアが発表する年間ベスト・ソングのリストにおいても、1位に選ばれていることがひじょうに多かった。中毒性の高いトラックにのせて、性的にオープンなラップが特徴であり、いろいろと話題になったりもしたのだが、それによって潜在的なミソジニーやセクシズムを露呈させる人たちも少なくはなかった。

そして、デビュー・アルバム「Good News」をリリースすると、全米シングル・チャートで最高2位を記録するのだが、ラッパーのトリー・レーンズに銃撃されて負傷するという洒落にならない実体験を、早くもトピックとして扱っていた。様々な音楽賞も受賞して、まさにホット・ガールというキャッチフレーズを地で行くような勢いが感じられた。それだけにアンチも少なからず生んだようであり、しかもその大半はインターネット上の顔の見えない人たちだったようである。

「Traumazine」はミーガン・ジー・スタリオンがこれだけの規模の人気アーティストになってから初めてのアルバムということができるが、作品には個人的な悩みや苦しみのようなものも反映しているようである。身内と思っていた人たちからの裏切りともいえる行為が仕事上で発覚したりもして、そのことも楽曲で取り上げられている。サウンドはミニマリズム的であり、アイズレー・ブラザーズなどがサンプリングされていたり、90年代のGファンクのようなフィーリングが感じられる曲もある。歌詞にアイス・Tやホイットニー・ヒューストンといったアーティストの名前が登場したりと、ポップ・ミュージックの歴史にたいするリスペクトが感じられる。

これまでのミーガン・ジー・スタリオンの楽曲にはあまり見られなかった、弱気で不安定な告白的なところがある一方で、目に見えないアンチに精神をむしばまれないように、自分自身を鼓舞しているような表現もひじょうに目立っている。そして、ミーガン・ジー・スタリオンの作品を特徴づけてもいる、セクシーな路線もさらに進化している。先行シングルとしてリリースされ、全米シングル・チャートで最高15位を記録したデュア・リパとのコラボレート曲「Sweetest Pie」はアルバムの最後に収録されているが、ポップソングとしての強度が圧倒的である。他にはフューチャーやリコ・ナスティをフィーチャーした曲もあり、参加アーティストもバラエティーにとんでいる。

レーベルとの法的闘争の渦中にいることもTwitterで発表したミーガン・ジー・スタリオンだが、急激にスターになったことによる困惑や混乱を含め、リアルな現状を楽曲に取り入れながら、アーティストとして確実によりクオリティーが高いものをつくってきていることが確認できるアルバムという印象である。