ミーガン・ジー・スタリオンのベストソング10選(The 10 essential Megan Thee Stallion songs)

ミーガン・ジー・スタリオンはアメリカはテキサス州オースティン出身のラッパーで、ソーシャルメディアプラットフォームに投稿したフリースタイルのビデオが注目をあつめたことがきっかけでデビューを果たし、2020年にはビヨンセをフィーチャーした「サヴェージ・リミックス」、カーディ・Bとのシングル「WAP」が連続して全米シングルチャートで1位に輝き、本格的に大ブレイクした。

セクシュアリティを前面に押し出したセルフエンパワメント的なアプローチに特徴があり、グラミー賞やアメリカンミュージックアワード、BETアワードをはじめ、様々な音楽性も受賞している。銃撃事件の被害者になったり、以前のレーベルとの間で起こった法的紛争など話題にも事欠かない一方で、慈善活動を積極的に行っていることでも知られる。

今回はそんなミーガン・ジー・スタリオンの楽曲からこれは特に重要なのではないかと思える10曲を厳選し、簡単な説明なども付け加えていきたい。

‘Big Ole Freak’ (‘Tina Snow’, 2018)

ミーガン・ジー・スタリオンが2018年にリリースしたEP「ティナ・スノー」からシングルカットされた楽曲である。

性的な魅力で相手を虜にして思い通りに操っているというような内容の官能的で自信に満ち溢れたクラブバンガーで、低くしゃがんだ体勢でお尻を動かして挑発的に踊るトゥワークダンスのコンテストが「#BigOleFreakChallenge」のハッシュタグのもとソーシャルメディアで話題になった。

この曲はミーガン・ジー・スタリオンにとって最初のヒット曲となり、全米シングルチャートでは最高65位を記録した。

イマチュア「イズ・イット・ラヴ・ディス・タイム?」やアル・B・シュア!「ナイト・アンド・デイ」がサンプリングされている。

‘Hot Girl Summer (featuring Nicki Minaj and Ty Dolla Sign’ (Single, 2019)

ミーガン・ジー・スタリオンがラッパーのニッキー・ミナージュとシンガーのタイ・ダラー・サインをフィーチャーしたシングルとしてリリースした楽曲で、全米シングルチャートで最高11位を記録した。

この楽曲がリリースされる以前から「ホット・ガール」というワードはミーガン・ジー・スタリオンのキャッチフレーズでもあるかのように用いられていて、ソーシャルメディアにおいてはミーム化してもいたのであった。

「ホット・ガール」の定義は自分らしくいること、楽しむこと、自信を持つこと、自分の真実を生きること、パーティーの中心人物になること、などである。

そして、「ホット・ガール」のサマーアンセムいうべきこの楽曲においては、ミーガン・ジー・スタリオンとニッキー・ミナージュの激しく露骨なラップを、タイ・ダラー・サインの滑らかなボーカルが称賛しているようでもある。

ミュージックビデオはネオンカラーのプールパーティーをテーマにしていて、フレンチ・モンタナ、アリ・レノックス、ダニ・リー、ドリージー、サマー・ウォーカー、リコ・ナスティ、ララ・アンソニーといった有名人たちも出演している。

ミーガン・ジー・スタリオンはMTVビデオミュージックアワードでこの曲をパフォーマンスし、ベストパワーアンセム賞を受賞した。

‘Savage Remix (featuring Beyoncé)’, (Single, 2020)

ミーガン・ジー・スタリオンのEP「シュガ」からシングルカットされたオリジナルバージョンは自身の上品で気取っていて荒っぽく生意気で気分屋で意地悪な複雑さを称賛するような内容になっていて、新型コロナウィルス禍中に振付師のキアラ・ウィルソンがTikTokに投稿したダンスチャレンジ動画がきっかけで、大いに盛り上がった。

そして、ミーガン・ジー・スタリオンと同じくテキサス州オースティン出身のビヨンセをフィーチャーしたリミックスバージョンはオリジナルの良いところを残しながらも、その魅力をさらに拡張するようなものであった。

全米シングルチャートではミーガン・ジー・スタリオンにとって初となる1位に輝き、グラミー賞では最優秀ラップパフォーマンス賞と最優秀ラップソング賞を受賞した。

主要部門の1つである年間最優秀レコード賞にもノミネートされたのだが、受賞したのはビリー・アイリッシュ「エヴリシング・アイ・ウォンテッド」であった。しかし、ビリー・アイリッシュ自身は「サヴェージ・リミックス」こそが受賞に値するとコメントしていた。

「サヴェージ・リミックス」の収益はすべてヒューストンのCOVID-19救援活動に寄付された。

‘Girls in the Hood’, (‘Good News’, 2020)

ミーガン・ジー・スタリオンのデビューアルバム「グッド・ニュース」からリードシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートで最高28位を記録した。

伝説のヒップホップグループ、N.W.A.のメンバーでもあったイージー・E「ボーイズ・ン・ザ・フッド」を大胆にサンプリングしているが、内容はオリジナルに含まれていた女性蔑視的な暴力性を反転させたセルフエンパワメント的なものになっている。

日本のアニメをこよなく愛していることでも知られるミーガン・ジー・スタリオンだが、この曲の歌詞にもコミック原作のテレビアニメ「NARUTO-ナルト-」の登場人物の名前が入っている。

‘WAP (Cardi B featuring Megan Thee Stallion’, (Single, 2020)

アメリカのラッパー、カーディ・Bがミーガン・ジー・スタリオンをフィーチャーしたシングルとしてリリースした楽曲で全米シングルチャートで4週連続1位、全英シングルチャートでも1位となる大ヒットを記録したのみならず、ピッチフォーク、ローリング・ストーン、NMEなどによってこの年の年間ベストソングに選ばれたりもしていた。

タイトルは「Wet Ass Pussy」の略であり、フランク・スキー「ホーア・イン・ジス・ハウス」をサンプリングした中毒性の高いトラックにのせて、性的に露骨なファンタジーが陽気で快活にラップされている。

COVID-19のパンデミックが世界を不安に陥れていた夏の大ヒット曲として記憶されているこの楽曲は、女性の性的な主体性を謳歌した素晴らしいポップソングであり、それゆえに広く支持されたのだが、同じ理由で保守的な政治家や評論家たちを怒らせたりもして、彼らが潜在的にかかえているであろうミソジニー(女性に対する憎悪や嫌悪)を浮き彫りにした。

‘Body’ (‘Good News’, 2020)

ミーガン・ジー・スタリオンのデビューアルバム「グッド・ニュース」からシングルカットされ、全米シングルチャートで最高12位を記録した楽曲である。

「body-ody-ody-ody」と繰り返されるこの楽曲は、ミーガン・ジー・スタリオンが新型コロナウィルス感染症のロックダウン中に自身の体型にインスピレーションを受けて書いたものであり、体のサイズ、形、肌の色、ジェンダー、身体能力に関係なく、すべての身体に対して前向きな見方をしようというボディポジティブの考えを反映している。

ミュージックビデオではミーガン・ジー・スタリオンがバックダンサーたちと共にラップを披露し、リアリティ番組に出演していたジョーディン・ウッズ、俳優のタラジ・P・ヘンソン、モデルのブラック・チャイナとタブリア・メジャースといった有名人たちも出演している。

‘Thot Shit’ (‘Something for Thee Hotties’, 2021)

ミーガン・ジー・スタリオンがデビューアルバム「グッド・ニュース」の後で最初のシングルとしてリリースした楽曲で、コンピレーションアルバム「サムシング・フォー・ジー・ホッティーズ」にも収録された。全米シングルチャートでは最高16位を記録している。

タイトルに入っている「Thot」という単語は「That Hoe Over There(あそこの女)」の頭文字をとったもので、「遊び人」を意味するスラングとして性差別的に使われがちだが、それを女性たちの元に取り戻したいという願望が、この曲の背景にはあるのだという。

ミーガン・ジー・スタリオンの生々しくて攻撃的な別人格、ティナ・スノーとして繰り出されるラップは自信に満ち溢れ、性的な解放感を感じさせる。

ミュージックビデオでは「ボディー」のミュージックビデオに性差別的なコメントを書き込む保守的な男性に対して執拗に復讐をし続ける痛快な内容になっていて最高である。

‘Plan B’ (‘Traumazine’, 2022)

ミーガン・ジー・スタリオンの2作目のスタジオアルバム「トラウマジン」から2曲目のシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートで最高29位を記録した。

タイトルの「プランB」はアフターピルとして知られるレボノルゲストレル緊急避妊薬のことであり、別れた恋人に対して、二人の間に子供をもうけることがないようにこれを飲むのだという辛辣な内容になっている。

コーチェラヴァレーミュージックアンドアーツフェスティバルのステージで初めてパフォーマンスしたこの曲について、ミーガン・ジー・スタリオンはきわめて個人的なものだと説明していたが、それと同時に多くの特に女性リスナーにとっては深く共感できる内容になっていて、高い支持を獲得している。

ジョデシィ「フリーキン・ユー」をサンプリングした90年代R&Bを思わせるトラックと、激しく攻撃的なラップトが絶妙にマッチしていてとても良い。

‘Cobra’ (‘Megan’, 2023)

ミーガン・ジー・スタリオンの3作目のスタジオアルバム「ミーガン」からリードシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートで最高32位を記録した。

1501サーティファイドエンターテインメントとの法廷闘争を終え、レーベルを移籍してから最初にリリースしたシングルで、エレクトリックギターのリフやギターソロを効果的に用いたサウンドが特徴的である。

タイトルの「コブラ」についてミーガン・ジー・スタリオンは勇気と自立心の典型で、困難に直面しても勇敢に立ち向かい、脅威を克服するために自分自身を頼ることを教えてくれる、などと説明をしている。

これは両親の死や元恋人との破局とその後のうつ病との闘いといった苦難を経験したミーガン・ジー・スタリオン自身のリアルな心情を反映したものである。

「蛇が脱皮するように、私たちも過去を何度も脱皮しなければならない」というセリフではじまるミュージックビデオではミーガン・ジー・スタリオンが蛇の口から這い出て、脱皮した後で自殺願望に立ち向かうことについてラップし、他の女性たちとダンスルーティーンを披露する。

カナダ系アメリカ人のオルタナティブメタルバンド、スピリットボックスをフィーチャーしたロックリミックスバージョンもリリースされた。

‘Hiss’ (‘Megan’, 2024)

ミーガン・ジー・スタリオンのアルバム「ミーガン」から2曲目のシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートでは「サヴェージ・リミックス」「WAP」に続いて3曲目となる1位に輝いた。

蛇のイメージは「コブラ」から継続され、この曲ではミーガン・ジー・スタリオンに敵対したり貶めようとする人たちに対しての反撃がメインテーマになっている。

そのターゲットとなっている人物について歌詞では明言されていないのだが、推察することはそれほど難しくもなく、特にかつてコラボレーションもしていたラッパー、ニッキー・ミナージュとの確執はアンサーソングがつくられるほど加熱した。

熱量の高さに応じてスキルも確実にアップしているような堂々たるクオリティが際立つこの楽曲が、メインストリームのヒットソングとしても通用してしまうところがなかなか痛快である。

蛇のイメージはアルバム「ミーガン」から後にシングルカットされた「マムシ」にも引き継がれ、その曲ではかつてKOHHというアーティスト名でも知られた日本のラッパー、千葉雄喜をフィーチャーし、ミーガン・ジー・スタリオンも「お金稼ぐ 私はスター」などと日本語でラップしている。

アルバム「ミーガン」には「オタク・ホット・ガール」という曲も収録され、歌詞にはコミック原作のテレビアニメ「呪術廻戦」の登場人物が出てきたりもするのだが、約4ヶ月後には続編的なアルバム「ミーガン・アクトⅡ」がリリースされ、BTSのEMをフィーチャーした「ネヴァ・プレイ」やTWICEをフィーチャーした「マムシ」のリミックスバージョンを収録するなど、K-POPアーティストたちとのコラボレーションも積極的に行っている。