ブリトニー・スピアーズのベストソング10選(The 10 essential Britney Spears songs)
ブリトニー・スピアーズは11歳の頃にディズニーチャンネルのバラエティ番組「ミッキーマウスクラブ」のオーディションに合格し、レギュラー出演した後、16歳だった1998年にシングル「ベイビー・ワン・モア・タイム」でポップシンガーとしてもデビューした。
アメリカやイギリスをはじめ世界各国のシングルチャートで1位を記録するなどいきなり大ブレイクを果たすのだが、ハイスクールの制服姿で歌い踊るミュージックビデオも大きな話題となった。
その後もティーンポップスターとしてヒット曲を連発するのだが、よりセクシーで大人っぽいイメージや音楽性にシフトしていき、途中にプライベートな問題などにより停滞したりそこから完全復活を遂げたりしながら、2000年代に最も売れた女性アーティストとして認定されるに至った。
また、ティーンポップの復権を先導したアーティストでもあり、ロック至上主義的な価値観が根強く残っていたポップミュージック批評界において、メインストリームのポップミュージックが正当に評価される時代の到来にも大きく貢献したということができる。
今回はそんなブリトニー・スピアーズの楽曲からこれは特に重要なのではないかと思える10曲を厳選し、簡単な説明なども加えていきたい。
‘…Baby One More Time’ (‘…Baby One More Time’, 1998)
ロック批評の草分け的存在として知られるアメリカの雑誌「ローリング・ストーン」は2020年に歴代で最も優れたデビューシングルベスト100のリストを発表したのだが、ジャクソン5「帰ってほしいの」、セックス・ピストルズ「アナーキー・イン・ザ・U.K.」などを抑えて1位に選ばれたのは、ブリトニー・スピアーズのデビューシングル「ベイビー・ワン・モア・タイム」であった。
「寂しすぎて死にそう」というような印象的なフレーズからも分かるように、ティーンエイジャーの苦悩をヴィヴィッドに表現したこの楽曲は、オールディーズと呼ばれるポップス黄金時代の名曲たちの本質を正しく継承しながらも、同時代的なリアリティーを感じさせる最新型のポップミュージックとしてアップデートしたマスターピースだということができる。
楽曲やサウンドプロダクションの素晴らしさももちろんなのだが、この曲の最大の魅力はやはりブリトニー・スピアーズの個性的なボーカルなのではないかというような気がする。当初はより低く、ポップではない声質だったようなのだが、デビューに向けてプロデューサーのエリック・フォスター・ホワイトのもとで働いていたときに、あのブリトニー節とでもいうべき独特なボーカルスタイルが誕生したのだという。
マックス・マーティンによって書かれたこの楽曲は当初、「ヒット・ミー・ベイビー・ワン・モア・タイム」というタイトルで、バックストリート・ボーイズTLC、さらにはイギリスのボーイズグループ、ファイヴなどに提供しようとしたのだが、すべて却下された後に回ってきたものである。
ブリトニー・スピアーズもレーベルのA&R担当もこの曲を聴いてすぐにヒットを確信したのだが、タイトルに「ヒット・ミー」と入っているのはドメスティックバイオレンスを連想させたりして良くないのではないかということになり、「ベイビー・ワン・モア・タイム」になったようである。
レコーディング前日の夜、ブリトニー・スピアーズは80年代シンセポップの名曲であるソフト・セル「汚れなき愛」を聴いて、なんてセクシーな曲なのだろうと感激したらしく、それもこの曲のボーカルに影響をあたえたという。
歌詞の内容は恋人と別れたことを後悔していて、復縁を切望しているということで、ドメスティック・バイオレンスを連想されると一部から非難されることもあった「ヒット・ミー」という歌詞についても、物理的に殴ってという意味ではなく、電話で連絡をしてとかそういうニュアンスだったようである。
これについては、作詞をしたマックス・マーティンがスウェーデン人であり、英語を少し間違えて使っただけという説もあるようなのだが、結果的に楽曲にポップソングとしてのインパクトを加えたといえるかもしれない。
ミュージックビデオは当初、完成したものとはまったく別のコンセプトで企画されていたのだが、ブリトニー・スピアーズの強い主張によって、学校を舞台に高校の制服姿で歌い踊るものに変更された。シャツを前で結んでいるのも、衣装がちょっとダサかったから可愛くしようというブリトニー・スピアーズ自身によるアイデアだったようである。
撮影に使用されたロサンゼルスのベニスハイスクールは、オリヴィア・ニュートン・ジョンとジョン・トラヴォルタが主演した1978年の大ヒット学園ミュージカル映画「グリース」が撮影されたのと同じ場所である。また、このビデオで恋人役を演じている男性は、ブリトニー・スピアーズの実のいとこである。
スコットランドのインディーロックバンド、トラヴィスはこの大ヒット曲をジョークのつもりでカバーしはじめたのだが、そのうち楽曲そのもののクオリティの高さに気がつき震えたともいわれる。このカバーバージョンはトラヴィスのシングル「ターン」にカップリング曲の1つとして収録されていた。
他にはトーリ・エイモス、ボウリング・フォー・スープ、ファウンテンズ・オブ・ウェイン、テネイシャスD、日本のパンクロックバンド、NICOTINEなどにもカバーされている。
この曲はアメリカやイギリスをはじめ、世界各国のシングルチャートで1位に輝き、ブリトニー・スピアーズの存在を広く知らしめたのだが、特にイギリスでは1999年の年間シングルチャートでも1位を記録した。
‘Oops!….I Did It Again’ (‘Oops!….I Did It Again’, 2000)
ブリトニー・スピアーズの2作目のアルバム「ウップス!…アイ・ディド・イット・アゲイン」からリードシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートで最高9位、全英シングルチャートでは「ベイビー・ワン・モア・タイム」「ボーン・メイク・ユー・ハッピー」に続き、通算3曲目の1位を記録した。
デビューシングル「ベイビー・ワン・モア・タイム」と同じくマックス・マーティンによって書かれた楽曲で、音楽的にも延長線上にあるのだが、より大人っぽくソフトにサディスティックなところもあるのが特徴である。
恋愛をゲームのようにとらえ、好意を寄せてくる相手の心を弄ぶタイプの女性にブリトニー・スピアーズがなりきり、個性的なボーカルで「私はそんなに純粋無垢じゃない」などと歌う。
ブリッジにはレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットが主演した1997年の大ヒット映画「タイタニック」から引用したセリフが入ってもいる。
ミュージックビデオでは赤いラテックス製のボディスーツを着たブリトニー・スピアーズが火星で自分に恋をした宇宙飛行士に語りかけるように歌い踊る。
2000年のMTVビデオミュージックアワードではローリング・ストーンズ「サティスファクション」のカバーバージョンを歌いながら着ていた黒いスーツを脱ぎ捨て、よりセクシーな肌色の衣装になると、続けてこの曲をパフォーマンスしたシーンが視聴者にスリリングなポップ感覚をあたえた。
‘I’m a Slave 4 U’ (‘Britney’, 2001)
ブリトニー・スピアーズの3作目のアルバム「ブリトニー」からリードシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートで最高27位、全英シングルチャートで最高4位を記録した。
それにしても全米シングルチャートでの最高位がこの頃のブリトニー・スピアーズ、しかもアルバムからのリードシングルとしてはかなり低いように感じられるのだが、CDシングルではなく12インチシングルとして発売されたからだ、というような説もあるようである。
それはそうとしてそれまでのティーンポップ的なイメージとは何もかもが明らかに異なり、かなりセクシーで大人っぽく、成熟という表現もふさわしい楽曲になっている。
ザ・ネプチューンズのチャド・ヒューゴとファレル・ウィリアムスによる作詞・作曲・プロデュースで、ミニマルでエレクトロニックなサウンドプロダクションが特徴的なのだが、タイトルを見ると「for you」が「4 U」と表記されていて、これはおそらくプリンスを意識しているようにも感じられる。
さらには視覚的にはジャネット・ジャクソンからの影響がかなり濃厚ではある。それでいて、ブリトニー・スピアーズの楽曲以外の何物でもないという記名性がすさまじく、個性を強烈に主張している。
当時、賛否両論はあったのだが、明らかにエポックメイキングではあり、後にマイリー・サイラスやセレーナ・ゴメスといった次世代のポップスターたちもこの曲からの影響を認めている。
また、2001年のMTVビデオミュージックアワードにおける、ニシキヘビを肩に乗せてのパフォーマンスはポップミュージック史に残るベストモーメントの1つとして語り継がれるレベルで実に素晴らしかった。
ポップミュージックの醍醐味の1つは性衝動の爆発でもあるわけだが、そういった意味においてこの楽曲は実に正しく、価値が高いものとして聴き続けられていくべきであろう。
‘Toxic’ (‘In the Zone’, 2003)
ブリトニー・スピアーズの4作目のアルバム「イン・ザ・ゾーン」からリードシングルとしてリリースされたのはマドンナをフィーチャーした「ミー・アゲインスト・ザ・ミュージック」で、全米シングルチャートで最高35位、全英シングルチャートで最高2位を記録したのだが、よりヒットしたのは次にシングルカットされた「トキシック」であった。
キャッチーなダンスポップソングではあるのだが、インド映画音楽からの影響やサーフギターの導入など、個性的で中毒性が高いこの楽曲は全米シングルチャートで最高9位と「ウップス!…アイ・ディド・イット・アゲイン」以来のトップ10入りを果たし、全英シングルチャートでは通算4曲目の1位に輝いた。
デビュー以来、グラミー賞に何度もノミネートされていたブリトニー・スピアーズだが、この曲で初めて最優秀ダンスレコーディング賞を受賞することになった。
裸にダイヤモンドをちりばめたような姿で歌い踊ったり、客室乗務員に扮した秘密諜報員として男性たちを罠にかけるブリトニー・スピアーズが見られるミュージックビデオも話題になったが、スーパーボウルのハーフタイムショーでジャネット・ジャクソンの胸が露出した当時のご時世などもあり、セクシーすぎてMTVでは深夜に放送していた。
‘Gimme More’ (‘Blackout’, 2007)
ブリトニー・スピアーズの5作目のアルバム「ブラックアウト」からリードシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャート、全英シングルチャートいずれにおいても最高3位のヒットを記録した。
「ブリトニーよ、ビッチ」というセリフからはじまるEDM的なダンスポップで批評家などからの評価も概ねひじょうに高かったのだが、MTVビデオミュージックアワードでのパフォーマンスは酷評された。
当時のブリトニー・スピアーズは結婚、出産、離婚などを経て、自らバリカンで坊主頭に剃ったり、パパラッチを傘で叩いたりしたことが奇行として報道されたりして、正直なかなかしんどい状況ではあったのだった。
ミュージックビデオも自ら指名した監督の指示に従わなかったりした結果、ストリッパーのポールダンスのような内容になり、ブリトニー・スピアーズ自身も後に人生で最悪と評しているレベルである。
‘Piece of Me’ (‘Blackout’, 2007)
ブリトニー・スピアーズのアルバム「ブラックアウト」から2曲目のシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートで最高18位、全英シングルチャートで最高2位を記録した。
音楽的にはEDMカテゴライズすることができ、ブリトニー・スピアーズのボーカルは加工され、ピッチも絶えず変化している。スウェーデンのポップスター、ロビンがバックボーカルで参加している。
当時、私生活がスキャンダラスに報じられたりもしていたブリトニー・スピアーズの実情をパロディー化したような楽曲になっていて、「17歳の頃からミス・アメリカン・ドリーム」というような歌いだしではじまる歌詞は自伝的な内容を含んでもいる(作詞をしたのはブリトニー・スピアーズ自身ではないが)。
マイルドにエッジの効いたメインストリームポップに仕上がってはいるものの、そこにはゴシップ的なマスメディアやそれをありがたがる一般大衆の一部に対しての痛烈な批判が込められているようにも感じられる。
ポップスターとゴシップ的なマスメディアとの関係性をテーマにしたミュージックビデオはMTVビデオミュージックアワードにおいて、年間最優秀ビデオ、最優秀女性ビデオ、最優秀ポップビデオの3部門での受賞を果たした。
‘Womanizer’ (‘Circus’, 2008)
ブリトニー・スピアーズの6作目のアルバム「サーカス」からリードシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートではデビューシングル「ベイビー・ワン・モア・タイム」以来となる1位を記録した。他にも10カ国以上のシングルチャートで1位を記録するが、すでに4曲が1位に輝いていた全英シングルチャートでの最高位は3位であった。
タイトルの「ウーマナイザー」は「女たらし」とでも訳すことができる単語で、この曲は不貞をはたらく男性に対しての警告のようにもなっている。EDM的なサウンドプロダクションや「トキシック」の続編的な意味合いもあるミュージックビデオも概ね高く評価され、私生活での混乱なども含め停滞していたキャリアからの完全なカムバックを印象づける楽曲であった。
ミュージックビデオのコンセプトはブリトニー・スピアーズ自身によって考案されたものであり、サウナのシーンは長年にわたって受けてきた体重についての攻撃に対するリアクションであった。MTVビデオミュージックアワードでは最優秀ビデオを受賞している。
リリー・アレン、フランツ・フェルディナンド、ガールズ・アラウド、オール・アメリカン・リジェクツをはじめ、様々なアーティストたちがこの曲をカバーした。
‘3’ (‘The Singles Collection’, 2009)
ブリトニー・スピアーズの音楽業界10周年を記念してリリースされたベストアルバム「コンプリート・ヒット・シングルズ」に収録された新曲で、リードシングルとしてもリリースされた。全米シングルチャートでは初登場1位、全英シングルチャートでは最高7位を記録した。
全米シングルチャートで1位になった楽曲の中で史上最もタイトルが短い楽曲だということだが、「1、2、3、あなたと私だけじゃない」と歌いはじめられるように、3人でプレイすることについて歌われていて、邦題は「スリー☆禁断のラヴ・エクスタシー」である。
60年代のフォークグループ、ピーター・ポール&マリーの名前を性的なスラングのように歌詞で使い、「1、2、3」と韻も踏んでいるのだが、このシングルがリリースされる約2週間前にメンバーのマリー・トラヴァースが亡くなったので、あまり良いタイミングではなかったかもしれない。
ブリトニー・スピアーズのボーカルはオートチューンで加工されているのだが、EDM的なサウンドに絶妙にマッチしていて、マイルドにセクシーなミュージックビデオもとても良い。
‘Hold It Against Me’ (‘Femme Fatale’, 2011)
ブリトニー・スピアーズの7作目のアルバム「ファム・ファタール」からリードシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートでは「スリー☆禁断のラヴ・エクスタシー」に続いて、2曲連続で初登場1位を記録した。これを達成したのは、マライア・キャリーに続いて史上2人目ということであった。全英シングルチャートでは最高6位を記録した。
タイトなドレスを着ていたケイティ・ペリーの姿にインスパイアされた楽曲であり、提供もされる予定だったのだが、よく考えると実は向いていないのではないかとも思われ、結果的にブリトニー・スピアーズが歌うことになったという経緯がある。
インダストリアルやトランスといった音楽の要素をメインストリームのポップソングとしてまとめ上げたような楽曲であり、ブリトニー・スピアーズの挑発的にセクシーなボーカルもとても良い。
‘Till the World Ends’ (‘Femme Fatale’, 2011)
ブリトニー・スピアーズのアルバム「ファム・ファタール」から2曲目のシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートで最高3位、全英シングルチャートで最高21位を記録した。
世界の終わりまで踊り続けようというようなことが歌われるエレクトロニックなダンスポップで、繰り返される「Whoa-oh-oh-oh」というコーラスが特に印象的である。
この曲の作詞・作曲者でもあるポップシンガーソングライターのケシャとラッパーのニッキー・ミナージュをフィーチャーしたリミックスバージョンも素晴らしく、シングルチャートでの順位をふたたび押し上げることに貢献した。
ミュージックビデオの冒頭には2012年12月21日であることをあらわす文字が表示されるが、この日はマヤ暦でバクトゥンと呼ばれる世界が終わる日だとされていた。