ベストサマーソング100:Part.7

61. ‘Heat Wave’ by Snail Mail (2018)

アメリカのシンガーソングライター、リンジー・ジョーダンによるソロプロジェクトがスネイル・メイルで、この曲はデビューアルバム「ラッシュ」に先がけてシングルとしてもリリースされた。

特に大きなヒットになったわけではないのだが、モダンクラシックとしてのポテンシャルを持ち合わせているのは夏の気だるげなムードと退屈しのぎ的なロマンス感覚、それからギターソロがとてもクールだから、などの理由による。

62. ‘Summer Girl’ by HAIM (2019)

ルー・リード「ワイルド・サイドを歩け」を引用した「BREEZEが心の中を通り抜ける」曲なのだが、タイトルはメンバーのダニエル・ハイムの恋人、アリエル・レヒトシェイドが重病と闘っていた時に、私があなたのサマー・ガールになるわ、という思いでこの曲をつくったことに由来する。

アルバム「ウーマン・イン・ミュージック Part Ⅲ」にはボーナス・トラックとして収録された。

63. ‘Sunny Afternoon’ by The Kinks (1967)

キンクスが1966年6月にリリースしたシングルで、全英シングルチャートで2週連続1位に輝いた。

夏をテーマにした名曲としても挙げられがちではあるのだが、スカッとした爽快感はほとんど無く、イギリスのミュージックホール調のサウンドに乗せて、税金の高さが愚痴られたりもしている。これは同じ年にリリースされたビートルズ「リボルバー」収録の「タックスマン」にも通じるテーマである。

初期のハードでヘヴィーな音楽性から、よりデフォルメしたイギリスらしさを強調するような方向性にシフトしていて、この辺りはブリットポップ直前のブラーなどにも強く影響を与えているように思える。

64. ‘Miserlou’ by Dick Dale and His Del-Tones (1962)

楽曲そのものはかなり昔から存在し、誰がつくったのかすら定かではないようなのだが、ディック・デイルと彼のデル・トーンズによるサーフロックバージョンが1962年にリリースされ、それから32年後の1994年にはクエンティン・タランティーノ監督の映画「パルプ・フィクション」に使われ、さらにポピュラーになった。

イントロでハッ、ハッ、ハーッと合いの手を入れたくなる。

65. ‘Summer Wind’ by Frank Sinatra (1965)

フランク・シナトラのボーカルはとてもゴージャスで聴きごたえがあるので、隙あらばこういったリストにも入れておきたいものだが、サマーソングということになると、アルバム「夜のストレンジャー」に収録され、全米シングルチャートで最高25位、イージーリスニングチャートでは1位を記録したこの曲だろうか。

これよりも先にまずはウェイン・ニュートン、それからボビー・ヴィントンやペリー・コモもレコーディングしていたのだが、フランク・シナトラのバージョンが最もポピュラーである。

ブルース・スプリングスティーンがもしも残りの人生で聴ける曲が1曲だけだったら、というような質問に対してこの曲のフランク・シナトラによるバージョンだと答えたぐらいの素晴らしいレコーディング作品である。

66. ‘お嫁においで’ by 加山雄三 (1966)

加山雄三の代表曲で、この曲も「君といつまでも」と同様に作詞が岩谷時子、作曲が加山雄三のペンネームである弾厚作である。

加山雄三のボーカルはこの曲においても最高なのだが、サウンドもハワイアン的だったりしてとても良い。後に加山雄三の主演で映画化もされている。

2015年にはヒップホップアーティスト、PUNPEEをフィーチャーした「お嫁においで2015」がリリースされたりもしていた。

67. ‘ヴァケーション’ by 弘田三枝子 (1962)

コニー・フランシスが1962年7月にリリースして、全米シングル・チャートで最高9位のヒットを記録した楽曲の日本語カバーで、作詞はまたしても漣健児である。

伊東ゆかり、青山ミチ、金井克子、安村昌子らもカバーして競作となるが、弘田三枝子のバージョンがダントツで売れた。夏のバケーションの印象が強いが、発売されたのは11月であり、春夏秋冬それぞれの休みについて歌われている。

当時の日本のポップシンガーの中でもパンチのあるボーカルとポップ感覚が圧倒的であり、山下達郎や桑田佳祐をはじめ、偉大なアーティスト達からもリスペクトされている(サザンオールスターズの1983年のアルバム「綺麗」には弘田三枝子のことを歌った「MICO」が収録され、弘田三枝子もアンサーソングとしてシングル「O-KAY」をリリースしていた)。

68. ‘Dancing in the Street’ by Martha and the Vandellas (1964)

モータウンの女性ボーカルグループ、マーサ&ザ・ヴァンデラスのヒット曲で、全米シングルチャートで最高2位、全英シングルチャートで最高4位を記録した。

ソングライターはマーヴィン・ゲイ、アイビー・ジョー・ハンター、ウィリアム・”ミッキー”・スティーヴンソンで、デトロイトをドライブしているときに見た、暑い夏の日に路上で消火栓を開けて遊んでいる人々の姿にインスパイアされたという。

それでストリートで踊ろうと歌われることになるのだが、当時は公民権運動がひじょうに盛んな時代でもあり、それで路上で異議申し立てをしようというようなメッセージソングとしても受け取られるようになっていった。

1980年代にはヴァン・ヘイレンによるカバーバージョンが全米シングルチャートで最高38位、1985年にはデヴィッド・ボウイとミック・ジャガーがデュエットでカバーし、全英シングルチャートで1位を記録した。

69. ‘Good Vibrations’ by The Beach Boys (1966)

ビーチ・ボーイズが1966年にリリースしたシングルで、アメリカやイギリスのシングルチャートで1位に輝いた。

初期のビーチ・ボーイズはサーフィンやホットロッドといった若者の流行をテーマにしたよりシンプルなロックをやっていたが、この頃にはブライアン・ウィルソンがスタジオワークに凝りまくり、より複雑で実験的な音楽性に変化していっていた。

特にこの曲の完成には莫大な時間と費用を要し、実に約90時間分の録音された素材から編集されたともいわれる。録音芸術のある時点における1つのピークでもあり、そのように常軌を逸したものがしっかり大衆に受け入れられもしたというのが、またすごいところである。

70. ‘Here Comes the Sun’ by The Beatles (1969)

ビートルズのアルバム「アビイ・ロード」に収録された楽曲である。メンバーのジョージ・ハリソンがビートルズの度重なるビジネスミーティングにうんざりして、キャンセルし、友人でもあるエリック・クラプトンの家を訪れた時にできた曲らしい。

春の訪れに安堵する気持ちなどがあらわされているといわれ、レコーディングされたのが夏だったとしてもサマーソングとはけしていえないのではないかというような気もしていたのだが、夏のコンピレーションアルバムやプレイリストなどに選曲されているのを見たり聴いたりしているうちに、なんとなくサマーソングということでもいいのではないかという気分になっていった。