ベストサマーソング100:Part.5

41. ‘夏色のナンシー’ by 早見優 (1983)

早見優は1982年にデビューした女性アイドル歌手で、いわゆる「花の82年組」のうちの1人である。ハワイ育ちで英語の発音がとても良く、健康的なイメージも魅力的であった。個人的には早くもファンクラブに入り、会報か何かでビーチ・ボーイズの音楽が好きなことを知ったのがきっかけで、旭川のレコード店、ミュージックショップ国原で日本で企画した2枚組ベスト・アルバム「サマー・プレゼント」を買ったりもした。

しかし、肝心のシングル曲がどうにも暗く、その良さをじゅうぶんに生かし切れていないように感じてもいた。そして、5枚目のシングルとしてリリースされたのが、本人が出演するコカ・コーラのテレビCMソングでもある「夏色のナンシー」であり、「恋かな Yes! 恋じゃない Yes!」といきなり明るくてとても良かった。オリコン週間シングルランキングで最高7位、「ザ・ベストテン」で最高4位と、初のトップ10入りも果たした。

42. ‘Cruel Summer’ by Bananarama (1983)

バナナラマのアルバム「愛しのロバート・デ・ニーロ」にも後に収録されたシングルで、全英シングルチャートで最高8位、全米シングルチャートでは翌年に映画「ベスト・キッド」で使われた後に最高9位を記録した。当時の邦題は「ちぎれたハート」であった。

サマーソングには陽気でアップリフティングなものも多いが、この曲では暑い夏に恋人が去って一人ぼっちという残酷な状況が描写されている。

ミュージックビデオは猛暑のニューヨークで撮影されたが、昼食で訪れた地元の居酒屋で知り合った港湾労働者からコカインの小瓶を分けあたえられ、人生で初めて体験した。その前と後に撮影されたシーンでは、メンバーのテンションが明らかに違っている。

43. ‘Fight the Power’ by Public Enemy (1989)

パブリック・エナミーがスパイク・リー監督のオファーに応え、映画「ドゥ・ザ・ライト・シング」のテーマソングとして提供した楽曲で、全米ラップシングルチャートで1位、全英シングルチャートで最高29位を記録した。

アイズレー・ブラザーズ「ファイト・ザ・パワー」にインスパイアされているが、音楽的にはブランフォード・マルサリスのサックスをフィーチャーしたり、歌詞にも登場するジェームス・ブラウン「ファンキー・ドラマー」をはじめ、いくつものサンプリングが使用されている。

反レイシズムアンセムにして当時における最新型のポップミュージックとしてのインパクトはひじょうに大きかったが、その後も評価は高まり、「ローリング・ストーン」が2021年に発表した歴代グレイテストソングス500曲のリストでは、アレサ・フランクリン「リスペクト」に次ぐ2位に選ばれていた。

44. ‘Long Hot Summer’ by The Style Council (1983)

ザ・スタイル・カウンシルの3枚目のシングルで、全英シングルチャートで最高3位を記録した。

シンセベースと打ち込み感覚のハンドクラップが印象的なソウルチューンである。この年の夏、イギリスは猛暑だったというのだが、この曲の他に夏を感じさせるヒット曲としてワム!「クラブ・トロピカーナ」があった。

ザ・スタイル・カウンシルに参加し、ポール・ウェラーと結婚(後に離婚)することにもなるD.C.リーはそれ以前にワム!に関わってもいて、「クラブ・トロピカーナ」のミュージックビデオにもちゃんと映っている。

45. ‘California Love’ by 2Pac feat. Roger Troutman & Dr. Dre (1995)

2パックがデス・ロウ・レコードに移籍してから最初のシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで1位、全英シングルチャートでは最高6位を記録した。

2パックとドクター・ドレーという当時の西海岸ラップ・シーンにおける大物2人の共演に加え、1980年代後半に「ウォナ・ビー・ユア・マン」をヒットさせたことなどで知られるロジャー・トラウトマンの加工したボーカルをフィーチャーしていることも特徴である。

この曲のヒットから数ヶ月後、2パックはボクシングの試合を観戦した後に何者かによって銃撃され、25歳の若さでこの世を去ることになった。ヒップホップの東西抗争の犠牲になったともいわれ、翌年には東海岸ラップの大物であったノトーリアス・B.I.G.が射殺されている。

46. ‘I Like It’ by Cardi B, Bad Bunny and J Balvin (2018)

カーディ・Bのデビュー・アルバム「インヴェイジョン・オブ・プライバシー」からシングルカットされ、全米シングルチャートで1位に輝いた。カーディ・Bにとっては「ボーダック・イエロー」に続く2曲目の全米NO.1ヒットだったのだが、これは女性ラッパーとしては史上初の快挙だったようだ。

ピート・ロドリゲス「アイ・ライク・イット・ライク・ザット」の引用やプエルトリコのラッパー、バッド・バニーとコロンビアのシンガー、J・バルヴィンの参加など、文化的に多様的でありながら、トラップという当時のトレンドも取り入れた素晴らしい楽曲である。

47. ‘マリーゴールド’ by あいみょん (2018)

あいみょんのメジャー5作目のシングルでBillboard JAPAN Hot 100で1位、年間チャートでは2019年の2位を最高位に6年連続して50位以内にランクインし続けているが、オリコン週間シングルランキングでは最高25位(2019年のデジタルシングルランキングでは年間3位)であった。

「麦わらの帽子の君が揺れたマリーゴールドに似てる」のところがあまりにも有名な、サマーアンセムにしてモダンクラシックである。いつかの恋を懐かしんでいるようでありながら、現在進行形でもあるという素晴らしい内容になっている。

音楽的にもフォークやニューミュージック的な懐かしさを感じさせながらも新感覚であり、あいみょんのボーカルも聴きやすいのだが強く印象に残るという流行歌手として俄然強めなものになっている。

48. ‘楽園ベイベー’ by RIP SLYME (2002)

RIP SLYMEの5作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高2位を記録した。

このわずか12年ぐらい前にはスチャダラパーが「日本じゃどうかなヒップホップミュージック」などとラップしていたりもしていたのだが、この頃になるとすっかり市民権を得たというか、メインストリームになってもいて、特にこのRIP SLYMEやKICK THE CAN CREWなどはヒット曲を連発していた。

当時、ルミネ新宿のエスカレーターに乗っていた女子高生たちがRIP SLYMEのメンバーでは誰が好きかというようなことを、アイドルグループについて語るかのようなテンションで話していたことが思い出される。

それはそうとして、この曲は日本のポップミュージック史に残るとても良いサマーソングの1つであり、当時の気分を思い起こさせるのと同時に、これからも夏が来る度にずっと聴かれ続けていくような気もする。

49. ‘夏の思い出’ by ケツメイシ (2003)

ケツメイシの10作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高3位を記録した。

グループ名は中国の薬草である決明石(ケツメイシ)に由来し、東京薬科大学出身者をメンバーに含むなど、ヒップホップ的な音楽をやっていた人気グループの中では知的なイメージも強く、より一般大衆的なリスナーにまで支持されていたような気がする。

「夏の思い出 手をつないで 歩いた海岸線」というわけで、ノスタルジックでありながらエバーグリーンでもある夏の気分をリラックスしたムードのトラックにのせてラップした楽曲としてヒットしていた。

50. ‘睡蓮歌’ by 湘南乃風 (2007)

湘南乃風の6作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高2位を記録した。

歌いだしはしっとりとはじまるのだが途中から急速にギアが上がり、「Ah 真夏のJamboree レゲエ砂浜 Big Wave!!」「濡れたまんまでイッちゃって‼︎」と大いに盛り上がりまくる。

レゲエミュージックを日本の大衆音楽として展開した一例で、「おいしいパスタ作ったお前」のフレーズが印象的な「純恋歌」に続く大ヒットとなった。作曲・編曲はMINMIとの共作となっている。