ベストサマーソング100:Part.10

91. ‘Surf City’ by Jan and Dean (1963)

ジャンとディーンによる架空のサーフスポットについて歌った楽曲で、全米シングルチャートではサーフロックとしては初となる1位に輝いている。

ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンとジャンとディーンのジャン・ベリーによって書かれた楽曲だが、ビーチ・ボーイズのどの曲よりも先に1位になったこの曲について、ブライアン・ウィルソンの父でグループのマネージャーでもあったマレー・ウィルソンはどうしてビーチ・ボーイズで出さなかったのかと激怒していたようである。

「2ガールズ・フォー・エヴリ・ボーイ」という歌詞のわりには、ジャケットではジャンとディーンの2男性2人に対して、女性が1人しか写っていない。

92. ‘Wipe Out’ by The Surfaris (1963)

ザ・サーファリーズによるインストゥルメンタル曲で、全米シングルチャートで最高2位、全英シングルチャートで最高5位を記録した。

インディーレーベルで100枚ほどプレスされたレコードはコレクターズアイテムとなっているが、その後でメジャーからリリースされ大ヒットを記録した。サーフロックを代表する楽曲の1つとして知られる。

1987年にはラップグループのファット・ボーイズがビーチ・ボーイズとコラボレートしたカバーバージョンがリリースされ、全米シングルチャートで最高12位、全英シングルチャートでは最高2位のヒットを記録した。

海外でも評価されていた日本の過激なパフォーマンス集団、電撃ネットワークがテーマソング的に使ってもいた。

93. ‘Summertime Blues’ by Eddie Cochran (1958)

ロカビリー歌手、エディ・コクランがマネージャーと共作して歌い、全米シングルチャートで最高8位を記録した曲である。

夏だというのにあくせく働かなければいけなく、遊べないので憂鬱だというような不平不満が歌われている。

ブルー・チアーやザ・フーからRCサクセションなどまで、多くのアーティストによってカバーされている。

94. ‘Under the Boardwalk’ by The Drifters (1964)

ボーカルグループ、ドリフターズによって全米シングルチャートで最高4位を記録した楽曲で、「渚のボードウォーク」の邦題で知られる。

リードボーカルを取る予定だったメンバーが病気で亡くなるという悲劇を乗り越えてレコーディングされたこの曲には、グループの以前のヒット曲「アップ・オン・ザ・ルーフ」のフレーズが引用されているところもある。

ボードウォークとはつまり遊歩道のことであり、その下でというシチュエーションに秘密裡的な良さを感じたりもする。

ローリング・ストーンズやトム・トム・クラブなど数多くのアーティストによってカバーされているが、俳優のブルース・ウィリスによるバージョンはイギリスではドリフターズのオリジナルが全英シングルチャートで最高45位だったのに対し、最高2位の大ヒットを記録している。

95. ‘The Girl from Ipanema’ by Stan Getz and Astrud Gilberto (1964)

「イパネマの娘」の邦題で知られる、おそらく世界で最も有名なボサノバの曲である。ブラジル人作曲家のアントニオ・カルロス・ジョビンが作曲し、スタン・ゲッツとボサノバの父ともいわれるジョアン・ジルベルトのアルバムのためにレコーディングされた。

歌詞はブラジル人のヴィニシウス・デ・モラエスによってポルトガル語で書かれたが、後にプロデューサーのノーマン・ギンベルが英語詞を書いた。

当時、アントニオ・カルロス・ジョビンとヴィニシウス・デ・モラエスがよく通っていたバーの前を、ビキニ姿の少女がサンバのように歩いていて、この曲は彼女にインスパイアされたものである。つまり、はっきりとしたモデルが存在している。

ボーカルには当初、サラ・ヴォーンが選ばれていたのだが、急遽レコーディング歌手としての経験がそれほど多くはないジョアン・ジルベルトの妻、アストラッドが歌うことになった。

アルバムバージョンを短く編集したシングルがリリースされると、全米シングルチャートで最高5位のヒットを記録し、翌年のグラミー賞では最優秀レコード賞を受賞した。

96. ‘Sleepwalk’ by Santo and Johnny (1959)

アメリカのインストゥルメンタルロックンロールデュオ、サント&ジョニーのインストゥルメンタル曲で、全米シングルチャートで1位、全英シングルチャートで最高22位を記録した。

メンバーの2人は兄弟であり、ドラムスは叔父が演奏している。スチールギターとアコースティックギターを用いた独特のサウンドが郷愁を誘うとても印象的な楽曲であり、映画「ラ・バンバ」「12モンキーズ」「チャーリーズ・エンジェル フルスロットル」をはじめ様々なサウンドトラックやCMなどで使用されている。

97. ‘Summer Babe (Winter Version)’ by Pavement (1992)

ペイヴメントのデビューシングルで、ボーカルが若干異なるバージョンが、後にアルバム「スランティッド・アンド・エンチャンテッド」に収録された。

アメリカ出身のバンドによるオルタナティヴロックではあるのだが、グランジロックとはまた違っていて、ローファイなどと呼ばれたりもする独特な感じが高く評価された。

デビュー当初はザ・フォールからの影響なども指摘されていたのだが、後にブリットポップから脱却しようとしていた頃のブラーにも影響をあたえる。

98. ‘Summer Beach’ by 岡田有希子 (1985)

岡田有希子の5枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高5位を記録した。

作詞・作曲は尾崎亜美で編曲は松任谷正隆のシティポップ的なアイドルポップスである。グリコカフェゼリーのCMソングにも使われていた。

バブル景気に突入する直前の日本のグルーヴィーな上昇気流が感じられもするのだが、岡田有希子がいた最後の夏でもあった。

99. ‘ふたりの夏物語’ by 杉山清貴&オメガトライブ (1985)

杉山清貴&オメガトライブの5作目のシングルでオリコン週間シングルランキングで最高5位、「ザ・ベストテン」では1位、年間チャートでは安全地帯「悲しみにさよなら」に次ぐ2位を記録した。

日本航空のCMソングに使われ大ヒットしたこの楽曲は超タイトなスケジュールの中、作詞・作曲からレコーディングまでが約3日間で行われたものだという。そんな事情などはまったく知らない当時の一般大衆は、この曲に夏のはじまりの高揚する気分と根拠のない期待感のようなものを感じたりもしていた。

「流星にみちびかれ 出会いは夜のマリーナ」というようなシチュエーションが当時のリスナーたちのうち、どれぐらいの日常に関係があったのかは定かではないのだが、なんとなく手が届きそうなシティポップ感とでもいうような大衆性が人気の要因だったような気もする。

100. ‘キミウタ’ by ナカヤママリ (2022)

栃木県出身のシンガーソングライター、ナカヤママリが初めて作詞作曲した曲らしく、YouTubeにアップロードされている。

「夏の音楽を作ろう」というフレーズがとにかく素晴らしいのだが、ハンドメイド的なミュージックビデオも含め、純度が高い生身の青春が満ち溢れている。

「夏はただ単なる季節ではない。それは心の状態だ」という真実について、この楽曲は無意識にしろ完全に理解しているように感じられる。