エルヴィス・コステロの名曲ベスト10【Artist’s Best Songs】

エルヴィス・コステロは1954年8月25日にロンドンで生まれ、パブロックのシーンでキャリアをスタートした後、1977年にはニック・ロウのプロデュースでデビューして、パンク/ニュー・ウェイヴのアーティストとして大きな注目をあつめた。ジ・アトラクションズと共にいくつかの優れたアルバムを発表した後は、シンガーソングライターとしてより音楽性の幅を広げていき、グラミー賞を受賞したりブリット・アワードにノミネートされたり、ロックの殿堂入りを果たしたりするなど、ポップ・ミュージック史上ひじょうに重要なアーティストの1人としての評価が定着していった。今回はそんなエルヴィス・コステロの楽曲の中から、これは特に名曲なのではないかと思える10曲を選び、カウントダウンしていきたい。

10. Veronica (1989)

エルヴィス・コステロの1989年のアルバム「スパイク」からの先行シングルで、ポール・マッカートニーとの共作曲である。ポール・マッカートニーはこの曲でベースを弾いている。アルツハイマー型認知症を患っていたエルヴィス・コステロの祖母にインスパイアされた、記憶を失っていく年老いた女性をテーマにした楽曲である。全米シングル・チャートでは最高19位と、エルヴィス・コステロのキャリアにおいて最も高い順位を記録している。

9. I Want You (1986)

1986年にエルヴィス・コステロはザ・コステロ・ショウ名義で「キング・オブ・アメリカ」、エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズで「ブラッド&チョコレート」と2作のアルバムをリリースした。「ブラッド&チョコレート」からの先行シングルは「トーキョー・ストーム・ウォーニング」というタイトルだったが、当初、日本盤は発売されなかった。この曲は「ブラッド&チョコレート」から2枚目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートでの最高位は79位と高くはないのだが、後に評価が高まっている。純粋なラヴバラードかと思いきや、実際には偏執狂的とでもいうべき歪んだ愛情についてものすごい熱量で歌われている。

8. (What’s So Funny ‘Bout) Peace, Love and Understanding (1978)

オリジナルはニック・ロウがパブ・ロック・バンド、ブリンズリー・シュウォーツ時代に作詞・作曲し、1974年にリリースされていた。エルヴィス・コステロによるカバーバージョンはニック・ロウの1978年のシングル「アメリカン・スクワーム」のB面に、ニック・ロウ&ヒズ・サウンドの名義で収録された。エルヴィス・コステロはかつてブリンズレー・シュウォーツのファンで、ニック・ロウはエルヴィス・コステロのレコードをプロデュースしていた。タイトルがあらわしているように愛と平和と理解について歌われたこの曲は、たとえば2020年の新型コロナウィルス禍においてもニック・ロウによる新しいバージョンが配信されるなど、スタンダード化しているようなところもあるが、有名にしたのはエルヴィス・コステロのバージョンであることは、ニック・ロウも認めている。当時、エルヴィス・コステロのアルバム「アームド・フォーセス」のアメリカ盤にも収録されていた。

7. Radio Radio (1978)

1978年にエルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズのシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高29位を記録した。エルヴィス・コステロがパブ・ロック・バンド、フリップ・シティのメンバーだった頃にブルース・スプリングスティーンにインスパイアされて作詞・作曲した「Radio Soul」という曲をベースにしているが、イギリスのラジオが商業化していることを批判した、よりアグレッシヴな楽曲に仕上がっている。アメリカの人気テレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」に出演が予定されていたセックス・ピストルズがビザの問題で渡米できなくなり、ラモーンズにも出演を断られた結果、エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズが出演することになったのだが、予定されていた曲の演奏をやめて、勝手にこの曲をやったことによってプロデューサーが激怒して、しばらく番組を出禁になっていた。1999年に出演した際には、ビースティ・ボーイズをバックにそのシーンが再現されたりもしていた。

6. Pump It Up (1978)

エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズとしての最初のアルバム「ディス・イヤーズ・モデル」からシングル・カットされ、全英シングル・チャートで最高24位を記録した。とにかくテンションが高く、勢いのあるロックンロール・チューンだが、内容はセックス&ドラッグ&ロックンロール的な快楽主義を批評したもので、ボブ・ディラン「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」からの影響も受けている。ナックの大ヒット曲「マイ・シャローナ」の印象的なドラムビートは、この曲にインスパイアされたのだという。

5. (I Don’t Want To) Go to Chelsea (1978)

「ディス・イヤーズ・モデル」からの先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高16位を記録した。エルヴィス・コステロがコンピューター・プログラマーとして働いていた頃に、他に誰もいなくなった夜のオフィスで書かれた曲である。エルヴィス・コステロが当時よく見ていたという60年代のロンドンを舞台にした映画や、幼い頃に父に連れられてロンドンの富裕層が住むエリアとして知られるチェルシーに行った時の記憶などをモチーフにしていて、音楽的にはザ・フーやザ・キンクスから影響を受けている。

4. Watching the Detective (1977)

エルヴィス・コステロの4作目のシングルで、全英シングル・チャートで最高15位を記録した。これが初めてのヒット曲である。エルヴィス・コステロはザ・クラッシュのデビューアルバム「白い暴動」を初めはそれほど気に入らなかったのだが、何度も聴いているうちにだんだん好きになり、真夜中にヘッドフォンで聴きまくった後で、この曲をつくったという。ジ・アトラクションズはまだ結成されていなく、グレアム・パーカーのバンド、ザ・ルーモアのメンバーなどが演奏している。レゲエ的なリズムとシニカルな歌詞が特徴的であり、不穏なムードに押し殺された怒りのようなものがヴィヴィッドに感じられる。

3. Shipbuilding (1983)

クライヴ・ランガーが作詞・作曲をしたのだが、歌詞に納得がいっていなく、ニック・ロウが主催したパーティーでエルヴィス・コステロに聴かせたところ、数日後に歌詞ができてきた。1982年に起こったフォークランド紛争によって、造船業は繁盛するのだが、それだけ兵士の命は奪われていくという皮肉について歌われたこの曲は、反戦歌としても知られるようになる。1982年にロバート・ワイアットによるバージョンがシングルでリリースされ、当初はヒットしなかったが、翌年に再発されると全英シングル・チャートで最高35位を記録し、これがラフ・トレード・レコードにとって初の全英トップ40シングルとなった。エルヴィス・コステロによるバージョンは1983年のアルバム「パンチ・ザ・クロック」に収録され、チェット・ベイカーのトランペット演奏をフィーチャーしている。1995年にリリースされたチャリティーアルバム「The Help Album」においては、スウェードがこの曲をカバーしていた。

2. Oliver’s Army (1979)

エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズのアルバム「アームド・フォーセス」からシングル・カットされ、全英シングル・チャートで3週連続2位を記録したが、1位はビー・ジーズ「哀愁のトラジディ」、グロリア・ゲイナー「恋のサバイバル」によって阻まれた。イギリスではエルヴィス・コステロにとって最大のヒット曲となっている。北アイルランド問題にインスパイアされ、イギリスの軍隊や帝国主義について批評的に歌ったこの曲はひじょうに政治的な内容でありながら、楽曲そのものはABBA「ダンシング・クイーン」からも影響を受けたひじょうにキャッチーなものであり、このギャップが高く評価されてもいる。一方で、歌詞に出てくる「white nigger」とう単語が人種差別的ではないかと非難を浴び、一部の放送局ではこの部分をカットして放送したりもしているという。エルヴィス・コステロはアイルランド系の血を引いてもいて、このフレーズも実際に祖父が兵士だった頃にそう呼ばれていたという現実から生まれたものだという。しかし、現在この曲をつくったとするならばおそらく他の表現を用いていたであろうとも語っていて、この曲はもうライブでも演奏しない可能性が高いとされているようだ。

1. Alison (1977)

エルヴィス・コステロのデビューアルバム「マイ・エイム・イズ・トゥルー」のためにレコーディングされ、先行シングルとしてもリリースされた。エルヴィス・コステロの楽曲の中でも最も有名なものの1つだが、当時は全英シングル・チャートにランクインしていない。エルヴィス・コステロがスーパーマーケットで働いている女性を見かけ、そこから想像力をふくらませてつくった曲だといわれている。ジ・アトラクションズはまだ結成されていなく、バックバンドのクローヴァーは後のドゥービー・ブラザーズやヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのメンバーを含む。エルヴィス・コステロ自身はこの歌詞の内容についてあまり具体的に説明していないのだが、人生において避けがたい失望についての、ペーソスとユーモアとささやかな救いが含まれているようにも感じられる。