ザ・ストロークスの名曲ベスト10【Artist’s Best Songs】
ザ・ストロークスは1978年8月23日生まれのジュリアン・カサブランカスを中心に1998年にニューヨークで結成され、2001年にはイギリスのラフ・トレード・レコードにデモテープを送ったことがきっかけで、、「ザ・モダン・エイジ」EPでデビューした後、アルバム「イズ・ディス・イット」をリリースし、これが大いに話題となる。ラップメタルなどが全盛の時代、ニューヨーク的なクールネスとロックンロールの原初性とを兼ね備えたような音楽性は、新しいロック・ミュージックを心底良いとは思えなくなりかけていて、そろそろ現役のロック・リスナーからは引退しなければいけないのではないかというような気分だった大人たちまでをも興奮させ、当時の感覚からいうならばロックンロールの救世主というような表現がけして大げさではなかったような気もする。今回はそんなザ・ストロークスの楽曲から、これは特に名曲なのではないかと思える10曲をカウントダウンしていきたい。
10. Under Cover Of Darkness (2011)
ザ・ストロークスのデビュー・アルバム「イズ・ディス・イット」はほとんど完璧ではないかというぐらいにとにかくすごいのだが、その後、約20年間の間に通算6作のオリジナルアルバムをリリースしていて、すべてがちゃんと良い。しかも、2020年にリリースされたアルバム「ザ・ニュー・アブノーマル」は第63回グラミー賞において、最優秀ロック・アルバム賞を受賞したりもしている。
この曲はザ・ストロークスの4作目のアルバム「アングルス」からの先行シングルで、約5年ぶりの新曲ということで注目をあつめた。ミュージック・ビデオでは約10年前にリリースされた「ラスト・ナイト」のビデオでジュリアン・カサブランカスがマイクを投げていた動作が再現されているようなところもありながら、楽曲そのものはデビュー当時のザ・ストロークスの良いところをセンスはそのままに技術的にアップデートしたような良さがある。そして、「誰もが10年間、同じ曲を歌っている」というようなフレーズまで入れてしまう不敵さがまたとても良い。
9. Juicebox (2005)
ザ・ストロークスの3作目のアルバム「ファースト・インプレッション・オブ・アース」からの先行シングルである。インターネットにリークされたことにより、予定していたよりも早くリリースされた。当時のインディー・ロック界ではデビューしてからまだそれほど経っていないアークティック・モンキーズが話題を独占しているようなところもあったが、ザ・ストロークスも健在であるということを印象づけたような記憶がある。全英シングル・チャートで最高5位という記録を振り返って、こういったタイプの楽曲にもまだ上位にランクインする余地があったことが思い出される。
8. 12:51 (2003)
ザ・ストロークスの2作目のアルバム「ルーム・オン・ファイア」からの先行シングルで、全英シングル・チャートでは最高7位を記録した。衝撃のデビュー・アルバム「イズ・ディス・イット」に続いて、ザ・ストロークスは一体どのような感じで来るのだろうと思っていたところに、このニュー・ウェイヴ的なサウンドとジュリアン・カサブランカスのあまり力の入っていないクールなボーカルが特徴的なこの曲で、これはまた新しくてカッコいいと感じさせられた。ニュー・ウェイヴ的なシンセサイザーのように聴こえなくもないのだが、実はギターで出されているサウンドや、1982年のSF映画「トロン」からインスパイアされたような、ロマン・コッポラ監督によるミュージック・ビデオなどもとても良い。
7. The Modern Age (2001)
ザ・ストロークスがイギリスのラフ・トレードにデモテープを送ったことがきっかけで、初めてリリースされることになったEPの表題曲である。後に再レコーディングされたバージョンがアルバム「イズ・ディス・イット」に収録された。当時、テレヴィジョンと比較されがちだったが、ジュリアン・カサブランカスは聴いたことがないし、影響を受けたのはルー・リードだというようなことを言っていた。ザ・ストロークスのブレイクをきっかけに、ザ・ホワイト・ストライプスをはじめ、アメリカのインディー・ロックに注目があつまり、ガレージ・ロック・リバイバル的なムーヴメントにもつながっていった。いわゆるパンク/ニュー・ウェイヴ的なクールネスから派生したロックンロールはもう流行らないのではないかと思われていた時期も実際にあったのだが、これによって息を吹き返し、イギリスでもリバティーンズやアークティック・モンキーズなどのブレイクに影響をあたえたと思われる。
6. You Only Live Once (2005)
アルバム「ファースト・インプレッション・オブ・アース」の1曲目に収録され、後にシングル・カットもされた曲である。マイルドなトロピカルさすら感じさせるイントロからロックンロールのカタルシス的な激情まで盛り上がっていくところなどがとてもカッコいいのだが、それでも必要以上に暑苦しくなることはなく、ホットでクールなところがたまらなく良い。
5. Reptilia (2003)
「ルーム・オン・ファイア」から2枚目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高17位を記録した。先行シングルの「12:51」がニュー・ウェイヴ的な新機軸が感じられる楽曲でもあったため、「イズ・ディス・イット」からの進化型という意味ではこの曲の方が分かりやすかったような記憶がある。ロック的な厚みのようなものがより加わりながらも、けしてクールネスが失われていないどころか、むしろ確固たるものになっているようなところがとても良い。
4. New York City Cop (2001)
「イズ・ディス・イット」収録曲だが、アメリカ盤ではカットされ、新たにレコーディングされた「ホエン・イット・スターテッド」と差し替えられた。2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が発生し、そこで奮闘したニューヨーク市警察や国民感情に配慮した措置だと思われる。ヨーロッパや日本ではすでにその時点で「イズ・ディス・イット」はリリースされていたため、この曲はそのまま収録されていた。全英アルバム・チャートでは初登場2位のヒットを記録したが、1位は同じ週に発売されたスリップノット「アイオワ」によって阻まれていた。モノクロームでセクシーなジャケットアートワークもアメリカ盤では差し替えられ、「イズ・ディス・イット」はいかにもニューヨーク的なアルバムでありながら、アメリカ以外の国々で発売された方が正式な盤というようにも見なされがちである。警官の横暴な態度などを批判したプロテストソング的な楽曲でありながら、たまらなくポップでキャッチーなところがとても良い。
3. Someday (2001)
「イズ・ディス・イット」から3枚目のシングルとしてカットされ、全英シングル・チャートで最高27位を記録した。ポップでキャッチーでクールでセクシーというザ・ストロークスの良いところが凝縮されたような楽曲でありつつ、必要以上に頑張りたくはないとかもう時間をムダにしたくはないというような、コアなアティテュードが感じられたりもする。同じミュージック・ビデオにガンズ・アンド・ローゼズとガイデッド・バイ・ヴォイシズのメンバーが出演しているのも、なんだかすごいことのような気がしてきたりもする。
2. Hard To Explain (2001)
「イズ・ディス・イット」からの先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高16位を記録した。イントロのリズムからギターのフレーズ、クールなボーカルに至るまで、ポップ・ミュージック史上特に最新のことをやっているわけでもないのだが、その組み合わせやバランスやセンスのようなものが当時のポップ・ミュージックのシーンに欠けていながらも待望されていた何かをほぼ完璧に体現していたというか、そのような衝撃は感じられた。この曲のタイトルがそうであるように、それを言葉で説明するのはなかなか難しいことだとしてもだ。
1. The Last Nite (2001)
「イズ・ディス・イット」からシングル・カットされ、全英シングル・チャートで最高14位を記録した。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズが1976年にリリースした「アメリカン・ガールズ」などでも知られるいわゆるシャッフルビート的なものが導入され、21世紀のインディー・ディスコにアップデートされて帰ってきたという感じでもあったのだが、後にはっきりその曲を参照したことをインタヴューで告白していた。そして、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのオープニングアクトを務めたりもしていた。