洋楽ロック&ポップス名曲1001:2019

Billie Eilish, ‘Bad Guy’

ビリー・アイリッシュのデビューアルバム「ホエン・ウィー・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥー・ウィー・ゴー?」からシングルカットされ、全米シングルチャートで1位、全英シングルチャートで最高2位を記録した。全米シングル・チャートでは2000年代生まれのアーティストによる最初の1位獲得曲となった。

兄でプロデューサーのフィニアス・オコネルによるダークなシンセ・ポップサウンドと、途中からテンポがスローに変化する構成もユニークである。パートナー間の支配をテーマにしていると同時に、自分自身を必要以上に大きく見せようととする人達に対する痛烈な皮肉になっているところもとても良い。

Lil Nas X feat. Billy Ray Cyrus, ‘Old Town Road (Remix) ’

アメリカのラッパー、リトル・ナズ・Xがインターネットに発表し、TikTokで大人気となったのをきっかけにヒットした楽曲のリミックスバージョンで、カントリーシンガーのビリー・レイ・サイラスをフィーチャーしている。

カントリーミュージックとトラップ的なビートを組み合わせたユニークな楽曲であり、オランダ人のティーンエイジャー、ヤングキオことキオア・ルーケマによるトラックはナイン・インチ・ネイルズ「34 Ghosts Ⅳ」をサンプリングしている。

歌詞はリル・ナズ・Xの当時の苦しい生活を反映したりもしているのだが、結果的にこの曲はビルボードのカントリーチャートから説明もなく削除されたことが問題視されたりもした後に、全米シングルチャートで歴代新記録となる19週連続1位の大ヒットを記録し、イギリスやオーストラリアなどいくつかの国々のシングルチャートでも1位に輝いた。

FKA twigs, ‘Cellophane’

FKAツイッグスのアルバム「マグダレン」からのリードシングルとしてリリースされた楽曲である。

すでにほとんど終わりかけている恋愛関係を、それでもなんとか修復しようとする切実な想いが歌われた楽曲で、エモーショナルなボーカルパフォーマンスがとても印象的である。

この曲はFKAツイッグスが交際し、婚約もするのだが、人種差別的なものをも含めた攻撃を受けるなどした後に、結局は別れることになった俳優、ロバート・パティンソンとの関係について歌っているのではないかと解釈されがちである。

FKAツイッグスがポールの周りを踊ったりするミュージックビデオも話題になったり、ピッチフォークメディアの年間ベストソングリストでは1位に選ばれたりもした。

Taylor Swift, ‘Cruel Summer’

テイラー・スウィフトの2019年のアルバム「ラヴァー」に収録された楽曲で、当時からファンの間でひじょうに人気は高かったのだが、なぜかシングルカットはされていなかった。これには、新型コロナウィルスのパンデミックも影響していたのではないかともいわれる。

しかし、2023年からのエラス・ツアーでテイラー・スウィフトがこの曲をセットリストに入れていたことなどもあり、人気が高まってきたのを受けて、レーベルも本格的にプロモーションすることを決意した。その結果、全米シングルチャートで1位、全英シングルチャートで最高2位の大ヒットを記録し、テイラー・スウィフトの代表曲の1つとして認知されるに至った。

セイント・ヴィンセントとしても知られるアニー・クラークと共作したこのシンセポップは、悲しい結末に終わる予感を含んだ激しくも絶望的な夏の恋をテーマにしていて、当時のテイラー・スウィフトが現実的に直面していた状況を反映していながらも、グローバルなポップソングとして深い共感を呼ぶものとなっている。

The Weeknd, ‘Blinding Lights’

ザ・ウィークエンドの音楽にはマイケル・ジャクソンやプリンスからの影響も感じられる80年代ポップスの要素というのが以前からありはしたのだが、シンセポップやAORなども含め、さらにそれを前面に押し出してきたのが2020年にリリースした4作目のアルバム「アフター・アワーズ」である。

先行シングルとしてリリースされた「ハートレス」が2019年には全米シングル・チャートで1位に輝いていたが、翌週にはマライア・キャリー「恋人たちのクリスマス」にその座を明け渡す。年が明けてポスト・マローン「サークルズ」、ロディー・リッチ「ザ・ボックス」に続いて、4月4日付でザ・ウィークエンドの「ブラインディング・ライツ」が1位に輝いた。

それからかなりの期間ずっと全米シングルチャートの上位にランクインしていた。トップ10以内にまるまる1年以上、100位以内に90週間もランクインし続けた曲は史上初ということである。ビルボードが何らかの指標によって集計した結果では、史上最もヒットした曲とされていたチャビー・チェッカー「ザ・ツイスト」(1960年)を抜いて、歴代1位に輝いたのだという。

この曲にまた80年代ポップス的なテイストが全開なのだが、こういったサウンドはフューチャーノスタルジアなトレンドでもあって、さらにはダークなトーンがコロナ禍の気分にもフィットしたのではないか、などといわれてもいた。