洋楽ロック&ポップス名曲1001:2018

Janelle Monáe, ‘Make Me Feel’

ジャネール・モネイのアルバム「ダーティ・コンピューター」からリードシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高99位、全英シングルチャートで最高74位を記録した。

プリンスからの影響が感じられるファンキーな楽曲だが、実際に生前のプリンスはこの曲を含むジャネール・モネイのいくつかの楽曲の制作を手伝っていたという。

プリンスが80年代にレヴォリューションというバンドを率いていたその意味は人種や性別を超えることでもおそらくあったのだが、パンセクシャルであることを公言してもいるジャネール・モネイはその理想を継承するのにふさわしいアーティストだということもでき、特にこの曲はバイセクシャルアンセムとしても賞賛をあつめている。

Ariana Grande, ‘no tears left to cry’

「ユアーズ・トゥルーリー」「マイ・エヴリシング」が全米アルバムチャートで1位、「デンジャラス・ウーマン」が最高2位でヒットシングルも多数とすっかり大人気アーティストとしての地位を確立したアリアナ・グランデだったが、2017年のマンチェスター公演の直後に、会場内で自爆テロが発生し、観客を中心とする22名が死亡し59名が負傷するという悲劇が起こった。

この事件がきっかけでアリアナ・グランデはPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患うのだが、その後、カムバックシングルとしてリリースされたのがこの曲であり、全米シングルチャートで最高3位のヒットを記録した。

事件のことを直接歌ってはいないものの、おそらくその影響は強く受けていて、だからこそのポジティブで力強いメッセージ性がリスナーや批評家から高く評価された。

流す涙などもう残っていないぐらいに泣きつくしたいまは、元気に生きていこうという最高の気分である、ということが歌われていて、世の中に溢れるネガティブな物事に対抗する最大の手段は自分自身がポジティブに楽しく生きていくことである、というようなメッセージをも含んでいる。

バラードからはじまり、やがてアップテンポでアンセミックな感じに盛り上がっていく展開はグロリア・ゲイナー「恋のサバイバル」などをも思い起こさせる。

アリアナ・グランデのことをトレンディなポップシンガーぐらいにしか捉えていなかったリスナーの中にも、この曲がきっかけでよりシリアスなアーティストとして認識するようになった人たちが少なくはないように思える。

この曲をリードシングルとする、アリアナ・グランデにとって通算4作目のアルバム「スウィートナー」は全米アルバムチャートで初登場1位に輝いた。

Childish Gambino, ‘This Is America’

アメリカのヒップホップアーティスト、チャイルディッシュ・ガンビーノのシングルで、全米シングルチャートで1位、全英シングルチャートで最高6位を記録した。

当初は確執があったドレイクをディスる目的でつくられたが、テーマがどんどん広がっていき、警察の残虐行為や銃による暴力、制度的な人種差別などを扱ったメッセージ性の強い楽曲になった。

衝撃的なミュージックビデオとも合わせ大いに話題となり、グラミー賞ではヒップホップアーティストでは初となる年間最優秀レコード賞と年間最優秀楽曲賞をはじめ、最優秀ラップ/歌唱パフォーマンス賞、最優秀ミュージックビデオ賞も受賞した。

Cardi B feat. Bad Bunny and J Balvin, ‘I Like It’

カーディ・Bのデビュー・アルバム「インヴェイジョン・オブ・プライバシー」からシングルカットされ、全米シングルチャートで1位に輝いた。カーディ・Bにとっては「ボーダック・イエロー」に続く2曲目の全米NO.1ヒットだったのだが、これは女性ラッパーとしては史上初の快挙だったようだ。

ピート・ロドリゲス「アイ・ライク・イット・ライク・ザット」の引用やプエルトリコのラッパー、バッド・バニーとコロンビアのシンガー、J・バルヴィンの参加など、文化的に多様的でありながら、トラップという当時のトレンドも取り入れた素晴らしい楽曲である。

The 1975, ‘Love It If We Made It’

The 1975のアルバム「ネット上の人間関係についての簡単な調査」からの先行シングルで、全英シングルチャートでは最高33位を記録した。

ひじょうに多様なタイプの楽曲をやっているバンドではあるのだが、そこにメッセージ性があるところがとても良く、この曲などはその最たるもののように感じられる。

かつてのあらかじめ失われた世代どころではないぐらいの絶望と戦わざるをえないかもしれないいまどきのヤングジェネレーションなわけだが、それでいてペシミズムや韜晦的なアティテュードに陥るのではなく、ポジティヴなメッセージを発することこそがポップカルチャーの存在意義のひとつではないかとも思え、そういった意味ではまあまあ希望のような気もする。

Ariana Grande, ‘thank u, next’

アリアナ・グランデが2018年11月にリリースしたシングルで、アメリカやイギリスをはじめいろいろな国々のシングルチャートで1位に輝いた。

別れた恋人に感謝の思いを伝え、次の恋に向かっていこうという、ひじょうにポジティヴな失恋ソングであり、歌詞には元恋人の実名がいくつか入っていたりもする。このシングルが突然にリリースされる約2ヶ月前に、アリアナ・グランデの元恋人でラッパーのマック・ミラーが急死していた。

クリスマスシーズンらしくサンタクロースのコスプレや映画のパロディーを含む、ミュージック・ビデオもとても良い。