洋楽ロック&ポップス名曲1001:1996, Part.4

Suede, ‘Trash’

アルバム「カミング・アップ」からのリードシングルで、全英シングルチャートで最高3位を記録した。「ステイ・トゥゲザー」と共に、スウェードが全英シングルチャートで記録した最も高い順位だが、その週の上位2曲はスパイス・ガールズ「ワナビー」、ロビー・ウィリアムス「エンジェル」で、4位にはドッジー「グッド・イナフ」が初登場していた。

このシングルは1996年7月29日にイギリスでリリースされたのだが、スウェードはその前日、この年に開場したばかりの東京ビッグサイトでライブを行っていた。ヴァージン・メガストアが主催し、フジテレビ系の「BEAT UK」が告知していた「POPSTOCK」というライブイベントである。2日間にわたって行われたうちの2日目で、1日目はメンズウェアなどが出演していた。2日目はスウェードの他にスリーパー、プッシャーマン、日本のEL-MALOが出演していた。EL-MALOがものすごい轟音だったことが印象に残っている。

この曲はバーナード・バトラーが参加していない最初のアルバムからのリードシングルということで注目されていたが、発売前から評判は良かった。CDはまだ発売されていなかったので、ライブで先に聴くことになったのだが、ポップでキャッチーになってはいるのだがスウェードらしさはちゃんと残っていて、これはなかなか良いのではないかと思った。Tシャツやポストカードセットのようなものも買ったような気がする。

スウェードというバンドやそのファンダムが基本的にはアウトサイダー的であり、悲しみをベースにいだいていることについて深く通じ合っていることが、アンセミックに歌われているのだが、このような曲がバーナード・バトラーがいなくてもちゃんとできてしまうこと自体が感動的でもあった。

The Cardigans, ‘Lovefool’

スウェーデンのインディーポップバンド、カーディガンズのアルバム「ファースト・バンド・オン・ザ・ムーン」からシングルカットされた楽曲だが、映画「ロミオ+ジュリエット」のサウンドトラックで使われたことによりさらに有名になり、全英シングルチャートで最高2位、アメリカでは正式にシングルとしてリリースされなかったが、ビルボードのエアプレイチャートで1位を記録したりしていた。

リードシンガーのニーナ・パーションが歌詞を書いているが、空港で飛行機を待っているあいだにインスピレーションを得て、スローなボサノバの雰囲気になるだろうと感じたようだ。日本では「渋谷系」的なリスナーを中心に人気があって、スウェディッシュポップブームを巻き起こしたりもしたのだが、ワールドワイドにブレイクしたこの頃には、ややトーンダウンしていたような気がする。

Jamiroquai, ‘Virtual Insanity’

イギリスのアシッドジャズバンド、ジャミロクワイのアルバム「トラベリング・ウィズアウト・ムービング〜ジャミロクワイと旅に出よう〜」から2曲目のシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高3位を記録した。

ファンキーで洗練されたサウンドは日本でもひじょうに人気があったが、この曲の歌詞は来日公演のために訪れた仙台で地下街を歩いたときの感覚にインスピレーションを得たものである。

環境問題や遺伝子工学についてなど、未来に対しての恐怖がテーマになっているが、後にクローン羊のドリーの件が公表されるなどしたことにより、先見的だったのではないかともいわれる。

中心メンバーのジェイ・ケイが動いている床の上でダンスをしているように見えるミュージックビデオは好評で、MTVビデオミュージックアワードで10部門にノミネートされ、4部門で受賞を果たした。

BabyBird, ‘You’re Gorgeous’

イギリスのインディーロックバンド、ベイビーバードのアルバム「アグリー・ビューティフル」に先がけてリリースされたシングルで、全英シングルチャートで最高3位のヒットを記録した。

純粋なラブソングとしてもとらえられやすく、ヒットの要因もおそらくはそこにあるのだが、実際にはフォトグラファーによるモデルの性的搾取という歪んだセクシュアリティが含まれてもいる。

ベイビーバードはシンガーソングライターでマルチインストゥルメンタリストのスティーヴン・ジョーンズが使用していたソロプロジェクト名だったが、この頃にはバンド体制になっていた。

The Chemical Brothers, ‘Setting Sun’

ケミカル・ブラザーズのアルバム「ディグ・ユア・オウン・ホール」からのリードシングルで、全英シングルチャートで1位を記録した。

ビートルズ「トゥモロー・ネバー・ノウズ」を意識してつくったトラックにボーカリストが必要となり、長年の知り合いで以前に一緒にレコーディングしようと話してもいたオアシスのノエル・ギャラガーが参加することになった。

この曲の大ヒットにはもちろんノエル・ギャラガー効果も影響していることは間違いないのだが、当時のイギリスでエレクトロニックミュージックはメインストリームになってもいて、特にビッグビートとも呼ばれたケミカル・ブラザーズのような音楽はポピュラーであった。

Fountains of Wayne, ‘Radiation Vibe’

アメリカのオルタナティヴロックバンド、ファウンテインズ・オブ・ウェインのデビューシングルで、バンド名がタイトルのデビューアルバムにも収録された。

学生時代のルームメイトであったアダム・シュレシンジャーとクリス・コリングウッドはハリー・ニルソンやエルヴィス・コステロやビートルズといった、自分たちが影響を受けたアーティストに似たタイプの曲をつくったりしていたのだが、クリス・コリングウッドがこの曲をつくった時、ついにオリジナルの音楽性を獲得したと実感したのだという。

歌詞にはそれほど深い意味はないようにも感じられるが、パワーポップのクラシックスと比較してもけして劣ることのない音楽性がとにかく素晴らしい。

ポップミュージック史においてどれだけ歌われてきたか知るよしもない「ベイビー、ベイビー、ベイビー」というありふれたフレーズでさえ、この上なく最高に輝かしく聴こえる。