洋楽ロック&ポップス名曲1001:1996, Part.2

The Prodigy, ‘Firestarter’

プロディジーが1996年にリリースしたシングルで、全英シングルチャートで1位に輝いた。後にアルバム「ファット・オブ・ザ・ランド」にも収録される。

90年代半ばのイギリスではブリットポップと呼ばれるインディーロックが大人気だったのだが、エレクトロニックミュージック、特にビッグビートと呼ばれるブレイクビートを強調したものなどもひじょうによく売れていた。

プロディジーは90年代前半にはより匿名的な感じでヒット曲もたくさん出していたのだが、この頃になると明確にキャラクターを強く押し出してきて、分かりやすくなってくると同時にしっかり売れた。ミュージック・ビデオを見て子供が泣いたと、テレビ局に苦情が来たなどという微笑ましいエピソードもあったような気がする。

Bis, ‘Kandy Pop’

スコットランドのインディーポップバンド、ビスのEP「シークレット・ヴァンパイア・サウンドトラック」に収録されていた楽曲である。EPは全英シングルチャートで最高25位を記録した。

DIY的なコンセプトが特徴のバンドだったが、メインストリーム的なメディアでもわりと取り上げられていたような気がする。

この曲でイギリスの人気音楽テレビ番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」に出演も果たし、ブリットポップの文脈で語られることもあるのだが、明らかにそこには収まらないインディー感覚とキュートの爆発が存在していたことは記録しておきたい。

Ash, ‘Goldfinger’

北アイルランドのインディーロックバンド、アッシュのデビューアルバム「1977」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高5位を記録した。

それまでのパンクロック的な楽曲と比べるとよりメロディアスになっているのだが、そこが受けたのか全英シングルチャートでは初のトップ10入りを果たし、収録アルバムは全英アルバムチャートで1位に輝いた。

タイトルは有名な007シリーズ映画にちなんでいるのだが、ミドルエイトでジョン・バリーによるサウンドトラック収録曲を少し引用しているようにも聴こえなくはないため、リハーサル時に仮タイトルとして使っていたのがそのまま残ってしまったようだ。

スピッツの草野マサムネが90年代のイギリスのロックでも特に気に入っている楽曲としてラジオ番組で紹介していたことがある。

Manic Street Preachers, ‘A Design for Life’

マニック・ストリート・プリーチャーズのアルバム「エヴリシング・マスト・ゴー」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高2位を記録した。

それまでのマニック・ストリート・プリーチャーズが全英シングル・チャートで記録した最高位は「NME」創刊40周年記念アルバム「ルビー・トラックス」のためにレコーディングされた映画「M★A★S★H マッシュ」及びテレビドラマ「マッシュ」主題歌「もしも、あの世にゆけたら」のカバー「スーサイド・イズ・ペインレス」の7位であり、オリジナル曲となると「ローゼズ・イン・ザ・ホスピタル〜囚われた快楽」の15位であった。

つまりこの曲で記録した最高2位というのは大躍進であり、しかも同じアルバムから「エヴリシング・マスト・ゴー」「ケヴィン・カーター」「オーストラリア」もトップ10ヒットとなり、マニック・ストリート・プリーチャーズはすっかり人気バンドとなった。

人気メンバーであったリッチー・エドワーズがアメリカ公演の直前に失踪し、いろいろ考えた末に残されたメンバー3人で続けることにして最初のシングルであり、音楽性はより聴きやすく変化したところはあるのだが、労働者階級のアンセムとでもいうべきテーマ(愛について語ったりはせず、ただ酔っぱらいたいだけ、浪費することなどは許されず、それは破滅を招くと教えられてきた、というようなことがアンセミックなサウンドとメロディーにのせて高らかに歌われている)は、メジャーなヒット曲としてはあまりにユニークに感じられた。

Orbital, ‘The Box’

オービタルのアルバム「イン・サイズ」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高11位を記録した。

架空の映画サウンドトラック的なムードも感じられるこの楽曲は、ポール・ハートノルが繰り返し見るというウェールズの田舎で木箱を発見するのだが、開けようとするところで目が覚めるという夢がモチーフになっているという。

George Michael, ‘Fastlove’

ジョージ・マイケルのアルバム「オールダー」から2作目のシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで1位、全米シングルチャートで最高8位を記録した。

かつての所属レーベルであるソニーとの関係が悪化し、裁判沙汰にまで発展した後、ヴァージン(アメリカではドリームワークス)に移籍してからの作品ということもあり、ミュージックビデオではある登場人物がソニーならぬフォニーのヘッドフォンで音楽を聴いている。

長くは続かないことを前提とした恋愛がテーマになっていて、この翌年に大ヒットしたウィル・スミス「メン・イン・ブラック」と同様にパトリース・ラッシェンのディスコクラシック「フォーゲット・ミー・ノッツ(忘れな草)」をサンプリングしている。

Baddiel & Skinner & Lightning Seeds, ‘Three Lions’

イギリスで開催された有名なヨーロッパのサッカー選手権「UEFA EURO ’96」におけるイングランド代表応援歌としてライトニング・シーズがコメディアンでサッカーファンとしても知られるデヴィッド・バディエル、フランク・スキナーとリリースしたシングルで、全英シングルチャートで1位を記録した。

タイトルは3頭のライオンが正面を向いて歩いているイングランド代表チームの紋章に由来していて、「サッカーが故郷に帰ってくる」というような歌詞は、サッカー発祥の地として知られるイギリスで大会が開催されることをあらわしている。

一方でイングランドが大会において1966年以来、一度も優勝していないという現実をふまえたペーソスをも感じさせる楽曲になっている。

この後もサッカーの大会がある度に新しいバージョンがリリースされ、何度もリバイバルヒットしている。