洋楽ロック&ポップス名曲1001:1992, Part.3

Radiohead, ‘Creep’

レディオヘッドのデビューシングルで、全英シングルチャートでの当初の最高位は78位であった。陰鬱なインディーロックだったため、BBCラジオのプレイリストからは除外されたのだが、「NME」はこの年の年間ベストシングルでこのほとんど無名のインディーロックバンドによるシングルをスウェード「ザ・ドラウナーズ」、PJハーヴェイ「シーラ・ナ・ギグ」、マニック・ストリート・プリーチャーズ「享楽都市の孤独」に次ぐ4位に選んだ。

イスラエルでヒットしたのに続いて、アメリカでもオルタナティブロック系のラジオから火がつき、全米シングルチャートで最高34位のヒットを記録する。その後、イギリスではシングルが再リリースされ、全英シングルチャートで最高7位を記録した。

トム・ヨークが学生時代に書いた楽曲で、実在の女性に対する強迫観念や自己憐憫などが歌われている。当初、バンドはこの楽曲を正式にリリースするつもりもなく、レコーディングの合間にスコット・ウォーカー的な楽曲と紹介した後に演奏した。

プロデューサーはこの曲をとても気に入ったのだが、スコット・ウォーカーのカバーだとばかり思っていた。しかし、バンドのオリジナルだと知るとシングルとしてリリースするようレーベルを説得した。

ジョニー・グリーンウッドの切り裂くようなギターノイズが印象的なのだが、これは当初、この曲が気に入っていなかったため、台無しにするつもりで演奏したものが採用されたようである。

この曲のヒットによってレディオヘッドはブレイクを果たすのだが、バンドはこの曲のイメージで見られることを嫌い、ライブでもほとんど演奏しなくなっていった。

後にホリーズ「安らぎの世界へ」に似ていることが指摘され、作詞のアルバート・ハモンド、マイケル・ヘイゼルウッドもクレジットに加えられた。

The Cranberries, ‘Dreams’

クランベリーズのデビューシングルで、全英シングルチャートで最高27位、全米シングルチャートで最高42位を記録した。

バンドのボーカリストでソングライターであるドロレス・オリオーダンがアイルランドに住んでいた頃の初恋について書いた楽曲で、元恋人のマイク・マホー二ーがバッキングボーカルで参加している。

フェイ・ウォンが広東語でのカバーバージョンを「夢中人」のタイトルでリリースし、主演映画「恋する惑星」でも使用されたのだが、それ以降もオリジナルバージョンが様々な映画やテレビシリーズで使われ続けていることから、当時のヒットの規模以上にポピュラーな楽曲になっている。

R.E.M. , ‘Everybody Hurts’

R.E.M.のアルバム「オートマティック・フォー・ザ・ピープル」からシングルカットされ、全米シングルチャートで最高29位、全英シングルチャートで最高7位を記録した。

知的で難解な歌詞が多い印象もあるR.E.M.だが、この楽曲に込められたメッセージは明確であり、自殺しようとするほど苦しみ落ち込んでいる人々に寄り添い、励ます内容になっている。

この曲のほとんどはドラマーのビル・ベリーによって書かれたといわれているが、演奏にはドラムスではなくベーシストのマイク・ミルズが20ドルで購入したドラムマシンが使われている。

ボーカリストのマイケル・スタイプはレコーディングでこの曲を歌った記憶がないのだが、実際に自分の声が録音として残っていることが信じられないのと同時に、多くの人々から支持されていることを誇りに思うなどと語ってもいる。

Pulp, ‘Babies’

パルプがブレイク前の1992年10月にリリースしたシングルで、その時点ではヒットしなかったのだが、翌々年に「ザ・シスターズEP」の1曲目として再発され、全英シングルチャートで最高19位を記録した。

1970年代後半から活動するベテランバンドではあったのだが、1990年代半ばのブリットポップムーヴメントの中心的バンドの1つとして一時期は国民的人気バンド的な存在にまでなっていた。

この頃はまだ売れていなく、世間一般的にはほとんど知られていないにもかかわらずポップスター然としたジャーヴィス・コッカーのパフォーマンスと、絶妙にチープでキャッチーな楽曲が見事にマッチしている。

付き合っている相手の姉と関係を持ってしまうというストーリーが歌われているのだが、その言い訳の身も蓋もなさも含め、実に味わい深い楽曲になっている。

Rage Against the Machine, ‘Killing In the Name’

レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのデビュー・アルバム「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン」からシングルカットされ、全英シングルチャートで最高25位を記録した。そして、発売から17年後の2009年には人気テレビ番組「Xファクター」の優勝者がクリスマスの週の全英シングルチャートで1位になるのを阻止しようというキャンペーンが行われ、その結果この曲が1位に輝いている。

なぜこの曲が選ばれたかというと、やはり「ファック・ユー、オレはお前に言われたことはやらないぜ」というようなフレーズの繰り返しの後、「マザーファッカー!」とシャウトするタイプの激しいプロテストソングだからであろう。歌詞は1992年のロス暴動のきっかけとなった、警察官による人種差別的な暴力にインスパイアされている。

そして、ハードロックとパンクとラップをミックスしたような音楽性もラップ・メタルなどと呼ばれ、その後のオルタナティヴロックやポップミュージック全般に影響をあたえていった。

Whitney Houston, ‘I Will Always Love You’

ホイットニー・ヒューストンの主演映画「ボディガード」の主題歌としてリリースされ、全米シングルチャートで14週連続1位という当時としては歴代最長記録の大ヒットを記録した。

オリジナルはドリー・パートンによる1980年のバージョンだが、「ボディガード」の主題歌に予定していたジミー・ラフィン「恋に破れて」が映画「フライド・グリーン・トマト」のサウンドトラックで使われていることを知り、他の曲を探している時にこの曲を提案したのは、共演者のケヴィン・コスナーであった。

まったくの余談だが、明石家さんまの髪型は「ボディガード」出演時のケビン・コスナーをモデルにしている、という話題が「MBSヤングタウン土曜日」では忘れた頃に度々話されている。

また、サビのはじまりである「And I」というところがドラマチックなラブシーンを演出するにあたってインスタントに使われがちで、「エンダァー」などと表現されることもあるが、実際には愛する人との別れを歌った楽曲である。