洋楽ロック&ポップス名曲1001:1988, Part.1

Public Enemy, ‘Bring the Noise’

パブリック・エナミーが映画「レス・ザン・ゼロ」のサウンドトラックに提供した楽曲で、後にアルバム「パブリック・エナミーⅡ」にも収録された。全英シングルチャートで最高32位を記録している。

「Too black, too strong」というマルコムXのスピーチからのサンプリングにはじまり、有名な「Bass! How low can you go?」というフレーズをはじめとするチャックDの力強いラップ、さらにはドラムループやサンプリング、スクラッチやインダストリアルなノイズなどを組み合わせてクリエイトされたボム・スクワッドによるサウンドはこの時点において最も過激でクールなポップミュージックの最新型でもあった。

デビューアルバム「YO! BUM ラッシュ・ザ・ショウ」の時点ですでにかなり話題にはなっていたのだが、この曲でさらに知名度を上げ、1991年にはスラッシュメタルバンドのアンスラックスとコラボレートしたバージョンが全英シングルチャートで最高14位を記録した。

あまりにも革新的でありメッセージ性も強かったことからメインストリームでメジャーに大ヒットしまくったわけではないのだが、ポップミュージック史における重要性はいくら強調してもしすぎることはないような気もする。

The Primitives, ‘Crash’

イギリスはコヴェントリー出身のインディーポップバンド、プリミティヴスのデビューアルバム「LOVELY」に先がけてリリースされたシングルで、全英シングルチャートで最高5位を記録した。

キュートなボーカルとポップでキャッチーなサウンドが魅力のとても素敵なポップソングで、特に深い意味はおそらくまったくないのだが、そこにこそ最大の価値があるともいえる。

1994年には映画「ジム・キャリーはMr.ダマー」のサウンドトラックに新バージョンが収録されるのだが、プリミティヴスの演奏は含まれていない。

オーストラリアのクロエ、イギリスのマット・ウィリスによるカバーバージョンが後に本国などにおいてヒットしたほか、ベル・アンド・セバスチャンもカバーしている。

Morrissey, ‘Suedehead’

モリッシーのソロデビューシングルで、全英シングルチャートで最高5位のヒットを記録した。この順位はモリッシーがザ・スミス時代に記録したどれよりも高いものである。

モリッシーの歌詞に曲をつけたのは、ザ・スミス時代のプロデューサーだったスティーヴン・ストリートである。タイトルはモリッシーが思春期に体験した、70年代のスキンヘッドカルチャーに由来しているようだ。

どうしてここに来たり電話をかけてきたりするのか、とても残念に思う、というようなことを歌っているのだが、日記を盗み見て自分のことばかりが書かれていることに満更でもなかったりする、そして、「Good lay, good lay」というフレーズには性的な意味合いが含まれているようにも感じられる。

Morrissey, ‘Everyday Is Like Sunday’

モリッシーの2枚目のソロシングルで、全英シングル・チャートで最高9位を記録した。デビューシングルの「スウェードヘッド」に続いてスティーヴン・ストリートとの共作曲であり、これら2曲も収録したソロ・デビューアルバム「ビバ・ヘイト」は全英アルバム・チャートで1位に輝いた。

エコー&ザ・バニーメンを意識したというスティーヴン・ストリートによる楽曲は、爆弾が投下されるのを待つ海沿いの町という黙示録的なイメージを、より具体的なものにしているように思える。

実在する寂れた海沿いの町とネヴィル・シュートの小説「渚にて」にインスパイアされたというこの曲は、モリッシーのブラック・ユーモア感覚がいかんなく発揮された真骨頂ともいえる作品ではあるのだが、かつてザ・スミスに「ザット・ジョーク・イズント・ファニー・エニモア」という曲があったように、これを楽しむにはいくらかの心の余裕が必要なのではないか、というような気もしている。

Prefab Sprout, ‘The King of Rock ‘n’ Roll’

プリファブ・スプラウトのアルバム「ラングレー・パークからの挨拶状」からシングルカットされ、全英シングルチャートで最高7位を記録した。

バンドにとって最大のヒット曲なのだが、ベストソングではおそらく絶対にない。中心メンバーでソングライターのパディ・マクアルーンがタイトルに「ロックンロール」と付いている曲が嫌いなので自分で書いたというところからしてかなり屈折している。

ホットドッグや飛び跳ねるカエルなどについて歌った、あえて狙ったであろうノベルティソング的な楽曲である。このバンドの本質は1985年のアルバム「スティーヴ・マックイーン」などにあり、その魅力は時を経るごとに深化していくのだが、そういったバンドがこういうのをちゃんとやるとこうなるというような意味でもわりと重要なのではないかというような気はなんとなくしている。

Pixies, ‘Gigantic’

ピクシーズのデビューアルバム「サーファー・ローザ」に収録された曲で、後にバンドにとって最初のシングルとしてもリリースされるものの、特にヒットはしていない。しかし、代表曲としてひじょうに人気は高く、ライブではアンコールで演奏されることもある。

後にブリーダーズを結成するキム・ディールがリードボーカルを取り、強弱の落差を強調した構成なども特徴となっている。ニルヴァーナのカート・コバーンはピクシーズの音楽をかなり参考にしたということを認めている。

キム・ディールによるとこの曲は1986年公開の映画「ロンリー・ハート」にインスパイアされていて、異人種間の恋愛をテーマにしているということである。

アルバムはスティーヴ・アルビニ、シングルはギル・ノートンによってプロデュースされていて、メロディーなども少し異なっている。

Pixies, ‘Where Is My Mind?’

ピクシーズのデビューアルバム「サーファー・ローザ」に収録された楽曲で、シングルカットもされていなければ特に大きくヒットしたわけでもないのが、とても有名で人気がある。

中心メンバーでソングライターのブラック・フランシスがカリブ海でスキューバダイビングをしていたときに、たくさんの小さな魚たちに追いかけられた体験に基づいて書かれた楽曲である。

小さな魚たちがなぜ追いかけてきたかについてブラック・フランシスは理由がまったく分からないし、この曲の歌詞についても一体何を意味しているのかまったく分からないというようなことを言っている。

1999年の映画「ファイト・クラブ」のエンディングで流れたことによって知名度を上げたのだが、その後もあまりにも多くの映画やテレビシリーズで使われていて、現実と非現実との間が曖昧である状態の象徴として使われがちなのではないかというような分析もある。