1988年の洋楽ロック&ポップス名曲ベスト20

六本木のディスコ、トゥーリアの照明が落下し、死傷者を出したり、青函トンネルが開通したり、東京ドームが完成したり、昭和天皇の重篤にともない自粛ムードが広がったりしていた1988年に、アメリカやイギリスでリリースされていたポップ・ソングの中から、重要と思われる20曲を選んでいきたい。

20. Freak Scene – Dinosaur Jr.

アメリカはマサチューセッツ州出身のオルタナティヴ・ロック・バンド、ダイナソーJr.のシングルで、3作目のアルバム「バグ」にも収録された。ノイジーなサウンドと気だるげなボーカルに加え、ポップでキャッチーなメロディーとエモーショナルなギターソロがたまらなく良い。

19. Streets Of Your Town – The Go-Betweens

オーストラリア出身のインディー・ポップ・バンドで、日本ではネオ・アコースティックにカテゴライズされたりもするゴー・ビトウィーンズの素晴らしいアルバム「16ラヴァーズ・レーン」からの先行シングルで、シングル・チャートではイギリスで最高80位、オーストラリアで最高68位、ニュージーランドで最高30位を記録した。ポップでキャッチーなサウンドとダークな歌詞との組み合わせ、男性ボーカルと女性コーラスのバランスなどがとても良い。

18. The King Of Rock ‘N’ Roll – Prefab Sprout

アルバム「ラングレー・パークからの挨拶状」からシングル・カットされ、全英シングル・チャートで最高7位を記録した。1950年代にノベルティー・ソングを1曲だけヒットさせたポップ・スターをテーマにしているこの曲そのものにノベルティー・ソング的な良さがあり、ホットドッグやジャンプする蛙などが歌詞に登場して楽しい。

17. Teen Age Riot – Sonic Youth

アメリカのメインストリームのポップ・シーンから離れたところで確実に盛り上がっていたというオルタナティヴ・ロックのシーンでも特に人気があったバンド、ソニック・ユースのアルバム「デイドリーム・ネイション」からのシングル・カット曲で、当時のレパートリーの中ではとてもキャッチーな方だといえる。

17. Orange Crush – R.E.M.

R.E.M.がメジャーのワーナーと契約してから最初のアルバム「グリーン」からの先行シングルで、アメリカではプロモーション盤しか制作されなかったものの、オルタナティヴ・エアプレイ・チャートとメインストリーム・ロック・チャートで1位に輝いた。イギリスでも人気テレビ番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」に出演するなどした効果もあってか、全英シングル・チャートで過去最高となる28位を記録した。モンサント社とダウ・ケミカル社がアメリカ国防省向けに生産していた枯れ葉剤、エージェント・オレンジについて歌われている。

16. Voodoo Ray – A Guy Called Gerald

808ステイトの初期メンバーであったジェラルド・シンプソンがア・ガイ・コールド・ジェラルド名義でリリースしたアシッド・ハウス・トラックで、全英シングル・チャートで最高12位を記録した。「ヴードゥー・レイジ」というフレーズをサンプリングしようとしたところ、機材のメモリが足りず「ヴードゥー・レイ」で切れてしまったのがそのままタイトルになっている。

15. She Drives Me Crazy – Fine Young Cannibals

ファイン・ヤング・カニバルズの2作目のアルバム「ザ・ロー&クックド」からの先行シングルで、1989年に全英シングル・チャートで5位を記録したのに続いて、全米シングル・チャートでは1位に輝いた。プリンス人脈のデイヴィッドZとの共同プロデュースによるキャッチーでありながらユニークなサウンドで、クロスオーバーヒットとなった。

13. Where Is My Mind? – Pixies

ボストン出身のオルタナティヴ・ロック・バンド、ピクシーズのデビュー・アルバム「サーファー・ローザ」に収録された曲で、シングル・カットはされていないのだが、1999年の映画「ファイト・クラブ」のサウンドトラックに使われたりしているうちに、人気が高まっていったような印象がある。フロントパーソンのブラック・フランシスがスキューバダイビンをしている時に、海中で小さな魚に追いかけられた時の体験にインスパイアされた曲だという。

12. Alphabet St. – Prince

アルバム「LOVESEXY」からの先行シングルで、全米シングル・チャートで最高10位を記録した。ジャケットアートワークがヌード姿だったり、最初にリリースされたCDでは全曲が1トラックとして収録されたりと、ひじょうにクセがすごいアルバムではあったが、「ミュージック・マガジン」のレヴューに載っていた「快楽じゃなく快感」というフレーズが印象的である。

11. Everyday Is Like Sunday – Morrissey

ザ・スミスを解散したモリッシーがソロ・アーティストとしてリリースした2枚目のシングルで、全英シングル・チャートで最高9位を記録した。この前のシングル「スエードヘッド」も最高5位のヒットを記録していたため、この時点ではシングル・チャートでの最高位だけみるとザ・スミス時代よりも売れていたということもできる。核爆弾やハルマゲドンを待つ終末思想的な内容をスティーヴン・ストリートによる聴きやすいサウンドやメロディーに乗せて歌うという手法が成功していたようだ。

10. Big Fun – Inner City

音楽プロデューサー、ケヴィン・サンダーソンらからなる音楽ユニット、インナー・シティは全米ダンス・チャートにおいて、この曲を含む5曲で1位を記録した。シンセサイザーやドラム・マシンのサウンドとボーカルとが絶妙に調和したこの曲はイギリスでもクロスオーバー・ヒットとなり、全英シングル・チャートで最高8位を記録した。

9. The Mercy Seat – Nick Cave & The Bad Seeds

ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズのアルバム「テンダー・プレイ」からの先行シングルで、全英シングル・チャートにはランクインしなかったが、インディー・チャートで最高3位、「NME」では年間ベスト・シングルに選ばれた。電気椅子にかけられ、死を前にした男の心境が切迫した演奏とボーカルによって表現されている。ジョニー・キャッシュによるカバー・バージョンも素晴らしい。

8. Follow The Leader – Eric B. & Rakim

エリックB&ラキムの2作目のアルバム「フォロー・ザ・リーダー」のタイトルトラックにして、シングル・カットもされた曲で、全英シングル・チャートで最高21位を記録した。好評だったデビュー・アルバム「ペイド・イン・フル」からさらに音楽的に進化していて、ボブ・ジェームスなどのサンプリングも効果的に用いられている。

7. Crash – The Primitives

イギリスはコヴェントリー出身のインディー・ポップ・バンド、プリミティヴスのヒット曲で、全英シングル・チャートで5位を記録した他、その後も「ジム・キャリーはMr.ダマー」「恋のクリスマス大作戦」「Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!」といった映画のサウンドトラックや「カーズ2」の予告編で使われるなどして、ポップ・クラシック化してもいるように思える。当時、モリッシーがザ・プリミティヴズのTシャツを着ていたり、「メロディー・メイカー」が「パーフェクトなシングルをつくったパーフェクトなバンド」と評したりもしていた。

6. You Made Me Realise – My Bloody Valentine

マイ・ブラッディ・ヴァレンタインがクリエイション・レコーズに移籍してから最初のシングルで、全英シングル・vチャートにはランクインしなかったが、インディー・チャートで最高2位を記録した。バンドのトレードマークともなるノイジーなギターはこの曲から目立つようになったようだ。

5. Fuck Tha Police – N.W.A.

ドクター・ドレーやアイス・キューブが在籍していたヒップホップ・グループ、N.W.A.のデビュー・アルバム「ストレイト・アウタ・コンプトン」の収録曲で、警官による暴力や人種差別を告発するプロテストソングとなっている。当時、FBIから警察を不当に貶めているとして警告書が送られたりもしていたというが、この曲がテーマにしている問題はリリーズから何十年も経った後でも存在していて、タイトルはスローガンとして有効なままである。

4. Gigantic – Pixies

ピクシーズのデビュー・アルバム「サーファー・ローザ」の収録曲で、後に録音し直されたバージョンがシングルでもリリースされた。ブラック・フランシスとベーシストで後にブリーダーズを結成するキム・ディールとの共作曲であり、キム・ディールがリード・ボーカルを取っている。ピクシーズの音楽の特徴であり、ニルヴァーナにも影響をあたえた静けさと騒々しさのギャップが効果的に用いられた楽曲だともいえる。

3. Don’t Believe The Hype – Public Enemy

パブリック・エナミーの2作目のアルバム「パブリック・エナミーⅡ」からシングル・カットされ、全英シングル・チャートで最高18位を記録した。サンプリングを多用したサウンドとチャックDのメッセージ性が強くテンションが高いラップはヒップホップとしてはもちろん、最新型のポップ・ミュージックでありアートフォームとしても、ジャンルを超えて注目されていたような印象がある。キャッチコピー的なセンスも卓越していて、誇大広告などを意味するハイプを信じるなと唱えるこの曲などはその最たるものだともいえる。

2. Buffalo Stance – Neneh Cherry

スウェーデン出身のアーティスト、ネナ・チェリーのデビュー・アルバム「ロウ・ライク・スシ」からの先行シングルで、イギリスとアメリカのシングル・チャートでいずれも最高3位のヒットを記録した。ストリート・カルチャーとメインストリームのクロスオーバー的な魅力に溢れたポップ・ソングであり、この時代ならではのフィーリングが感じられながらもモダン・クラシックとしての強度も備わっているように思える。マルコム・マクラレン「バッファロー・ギャルズ」が引用されていたりもする。

1. Straight Outta Compton – N.W.A.

N.W.A.のデビュー・アルバム「ストレイト・アウタ・コンプトン」のタイトルトラックにして先行シングルだが、当時は全米シングル・チャートにランクインしていない。ストリートのリアリティーをヴィヴィッドに描写したコンテンツが過激だと見なされ、ラジオで流すには適さないとされていたようだ。

当時の日本の音楽ジャーナリズムにおけるヒップホップの取り上げ方については、東海岸に偏重していたように思えるところもあり、N.W.A.が正当に評価されるのも遅れたような気がしなくもない。2005年には伝記映画の公開にともない、リリースから27年後にして全米シングル・チャートの38位にランクインした。