洋楽ロック&ポップス名曲1001:1986, Part.2

Primal Scream, ‘Velocity Girl’

プライマル・スクリームのシングル「クリスタル・クレセント」のB面に収録された曲だが、イギリスの音楽誌「NME」によるコンピレーションカセット「C86」のA面1曲目に収録されたことによって有名になった。

約1分22秒の曲だがそこに卓越したインディーギターポップのエッセンスが凝縮されていて、「C86」がコンピレーションカセットのタイトルであるのみならず、ポップミュージックのサブジャンル名としても知られるようになった時点で、その特徴を端的にあらわしてもいた。

ボビー・ギレスピーはジーザス&メリーチェインの初期のドラマーでもあったのだが、プライマル・スクリームの中心メンバーとしては後にインディーロックとダンスミュージックとを融合した音楽でブレイクする。とはいえ、このフェイズもけして軽視することはできない。

Run-D.M.C., ‘Walk This Way’

Run-D.M.C.のアルバム「レイジング・ヘル」からシングルカットされ、全米シングルチャートで最高4位、全英シングルチャートで最高8位を記録した。

エアロスミスの1975年のアルバム「闇夜のヘヴィ・ロック」からシングルカットされた「お説教」のカバーバージョンであるのみならず、エアロスミスのスティーヴン・タイラーとジョー・ペリーがレコーディングに参加し、ミュージックビデオにも出演している。

全米シングルチャートで史上初めて5位以内にランクインしたラップのシングルであり、ロックやポップスのリスナーにもラップを認知させたのに加え、当時はメンバーのドラッグ問題などもあり停滞していたエアロスミスの人気を復活させた。

The Smiths, ‘There’s a Light That Never Goes Out’

ザ・スミスのアルバム「ザ・クイーン・イズ・デッド」の収録曲でシングルカットされていないにもかかわらず人気がひじょうに高かったが、解散後の1992年にベストアルバムのリリースに合わせてシングルでもリリースされ、全英シングル・チャートで最高25位を記録した。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド「ゼア・シー・ゴーズ・アゲイン」を思わせるイントロから美しいストリングス、モリッシーによる歌詞とボーカルにはその個性が存分に発揮され、特に好きな人と一緒に車に乗っていて、もしもダブルデッカーバス、もしくは10トントラックと衝突してその人の隣で死ねるとしたらそれはなんて素敵なことなのだろうというくだりは、2009年の映画「(500)日のサマー」で主人公のトムがヒロインのサマーを好きになるきっかけにもなった。

Marshall Jefferson, ‘Move Your Body (House Music Anthem)’

マーシャル・ジェファーソンのシングルで、シカゴハウスで初めてピアノをフィーチャーした楽曲の1つとして知られる。

当時、レーベルのオーナーをはじめ周囲からは否定的な評価も多かったようなのだが、カセットテープの音源がシカゴのダンスクラブに通う常連客の間で大人気となり、リリースされるに至った。

ダンスミュージックに身をまかせることによって味わうことができる恍惚のようなものがテーマになっているが、サブタイトルの「ハウス・ミュージック・アンセム」はあんなものはハウスミュージックではない、というような批評に応えたものだともいわれる。

Paul Simon, ‘You Can Call Me Al’

ポール・サイモンのアルバム「グレイスランド」からシングルカットされ、全米シングルチャートで最高23位、全英シングルチャートで最高4位を記録した。

南アフリカで現地のミュージシャンたちとレコーディングされたアルバムは様々な批判にさらされたりもしたのだが、その音楽性は高く評価され、80年代を代表する名盤の1つとして知られるようになっていった。

アフリカ音楽の影響を受けた軽快なポップスでありながら、中年期の危機というわりと深刻な問題について歌われているこの曲のタイトルは、かつてポール・サイモンと当時の妻がパーティーで会った人に名前を間違えられていたという内輪ネタに由来している。

日本では小沢健二「ぼくらが旅に出る理由」のイントロに影響をあたえたかもしれないことでも知られる。

Cameo, ‘Word Up!’

アメリカのファンクバンド、キャメオのアルバム「ワード・アップ」から最初のシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで最高6位、全英シングルチャートで最高3位を記録した。

タイトルはニューヨークやアメリカの他の都市部で流行した言い回しで、言ったことを肯定するために用いるフレーズである。

ラリー・ブラックモンのクセが強めのボーカルとファンキーなサウンドが特徴だが、エンリオ・モリコーネによる映画「続・夕陽のガンマン」の哀愁漂うテーマソングが引用されているところも印象的である。

日本ではある時期までバンド名がキャメオではなくカメオと表記されていたような気もする。