洋楽ロック&ポップス名曲1001:1982, Part.2

ABC, ‘The Look of Love’

イギリスはシェフィールド出身のニューウェイヴバンド、ABCのデビューアルバム「ルック・オブ・ラヴ」から3作目のシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高4位、全米シングルチャートで最高18位を記録した。

アルバムに収録された他の楽曲と同様にバンドのリードボーカリストでソングライターであるマーティン・フライの実生活における失恋がベースになっているが、曲中で「グッバイ」と言っているのは実際に彼を振った女性本人だという。

プロデューサーはイエス、バグルス、アート・オブ・ノイズにかかわり、後にフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドを大ブレイクさせるトレヴァー・ホーンである。

The Clash, ‘Rock the Casbah’

ザ・クラッシュのアルバム「コンバット・ロック」からシングルカットされ、全英シングルチャートで最高30位、全米シングルチャートで最高8位を記録した。

バンドのドラマーであるトッパー・ヒードンが作詞・作曲したが、歌詞は他のメンバーに不評だったため、ジョー・ストラマーが書き直している。

ロンドンパンクの中心的な存在としてカリスマ的な人気があったザ・クラッシュだが、バンドが存続している間に全英シングルチャートで記録した最高位は「ロンドン・コーリング」の11位で、トップ10ヒットは1曲もなかった。

アメリカではテキサス州オースティンで撮影されたユニークなミュージックビデオの影響もあり、この曲がバンドにとって最大のヒット曲となり、トップ10入も果たした。

イギリスでは解散からしばらく経った1991年に同じくアルバム「コンバット・ロック」に収録されていた「ステイ・オア・ゴー」がリーバイスのCMに使われたのをきっかけに全英シングルチャートで初のトップ10入りどころか1位に輝く大ヒットを記録した。

その余波でこの曲のシングルも再発され、全英シングルチャートでの最高位を15位に更新している。

作曲者のトッパー・ヒードンはこの曲がヒットするよりも前にドラッグの問題でバンドから解雇されたため、ミュージックビデオではザ・クラッシュのオリジナルメンバーであったテリー・チャイムスがドラマーとして出演している。

Dexy’s Midnight Runners, ‘Come On Eileen’

デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズのアルバム「女の泪はワザモン!!」からのシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートのみならず全米シングルチャートでも1位に輝いた。

イギリスではすでに「ジーノ」が全英シングルチャートで1位を記録した他にいくつかのヒット曲があったのだが、アメリカではこれが初めてにして唯一のヒット曲となった。

マイケル・ジャクソンのメガヒットアルバム「スリラー」からシングルカットされた「ビリー・ジーン」と「今夜はビート・イット」の間に1位になった楽曲としても印象深い。

シンセサイザーではなくバンジョーやアコーディオン、フィドルなどを使用したこの楽曲は当時のヒットチャートにおいて異彩を放っていた。

特にアメリカでの大ヒットにはジュリアン・テンプルが監督したユニークなミュージックビデオが大きな役割を果たしたと思われ、これもまた第2次ブリティッシュ・インベイジョンを象徴するヒットだということができる。

アイリーンという少女をめぐる宗教的道徳観と本能的欲望とのせめぎ合いをテーマにしたこの楽曲のミュージックビデオでアイリーン役を演じていたのは、バナナラマやシェクスピアズ・シスターのメンバーとして活動したシヴォーン・ファーイの妹であった。

Joe Jackson, ‘Steppin’ Out’

ジョー・ジャクソンのアルバム「ナイト・アンド・デイ」からシングルカットされ、全英シングルチャートと全米シングルチャートでいずれも最高6位を記録した。

イギリスのアーティストであるジョー・ジャクソンがニューヨークの街にインスパイアされ、現地でレコーディングも行った楽曲である。

アルバムはA面がナイトサイド、B面がデイサイドとなっていて、ナイトサイドの最後に収録されたこの曲では、ソフィスティケイトされたサウンドにのせて夜の都会へと繰り出すときの興奮や期待感のようなものが歌われている。

Afrika Bambaataa & the Soulsonic Force, ‘Planet Rock’

アフリカ・バンバータ&ザ・ソウルソニック・フォースのシングルで、全米シングルチャートで最高48位、全英シングルチャートで最高53位を記録した。

ニューヨークのDJであったアフリカ・バンバータは当時、クラフトワーク、イエロー・マジック・オーケストラ、ゲイリー・ニューマンなどのレコードを気に入っていて、プロデューサーのアーサー・ベイカーとクラフトワーク的な要素が入ったヒップホップのレコードとしてこのシングルを制作した。

クラフトワーク「ヨーロッパ特急」はサンプリングではなく、最新のシンセサイザーを保有していたジョン・ロビーによって演奏されている。

このエポックメイキングな音楽はエレクトロと呼ばれるようになり、これ以降のポップミュージックに大きな影響をあたえた。

自分たちの音楽が無断で引用されていることを知ったクラフトワークはレーベルを訴えることになるのだが、後に和解してレコードが1枚売れるごとに1ドルが支払われることになった。

Grandmaster Flash and the Furious Five, ‘The Message’

グランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイヴのシングルで、全米シングルチャートで最高62位、全英シングルチャートで最高8位を記録した。

1970年代のニューヨークでパーティーミュージックとして誕生したヒップホップが、初めて貧困などの社会問題をテーマにした楽曲として知られる。

初期のヒップホップチューンの多くがアップテンポだったのに対し、この楽曲ではスローなグルーヴとダークなシンセサイザーのフレーズが強調されているのも特徴的であった。

シュガーヒルレコードのスタッフであったエド・”デューク・ブーティ”・フレッチャーによって作られ、ラッパーのメリー・メルが一部の歌詞を書き足したこの楽曲に、グランドマスター・フラッシュは実際のところほとんどかかわっていない。

曲のラストの収録されている街でただのんびりしていただけなのに、警官によって不当に逮捕されるくだりにのみ、メリー・メル以外のメンバーが参加している。

Michael McDonald, ‘I Keep Forgettin’ (Every You’re Near)’

マイケル・マクドナルドのソロデビューアルバム「思慕(ワン・ウェイ・ハート)」からシングルカットされ、全米シングルチャートで最高4位、全英シングルチャートで最高43位を記録した。

チャック・ジョンソンが1962年にリリースした「アイ・キープ・フォーゲッティン」によく似ているということで、ソングライターチームのジェリー・リーバーとマイク・ストーラーも後にクレジットに追加された。

マイケル・マクドナルドの妹であるモーリーン・マクドナルドがコーラスで、TOTOのスティーヴ・ルカサー、ジェフ・ポーカロ、ブラザーズ・ジョンソンのルイス・ジョンソンらが演奏で参加している。

1994年にはウォーレン・Gとネイト・ドッグのヒット曲「レギュレイト」でサンプリングされたことが話題になり、00年代半ば以降はヨットロックを代表する楽曲の1つとしても再評価されるようになった。

Robert Wyatt, ‘Shipbuilding’

ロバート・ワイアットのシングルで、再リリースされた際に全英シングルチャートで最高35位を記録した。

エルヴィス・コステロによって書かれた歌詞は、フォークランド紛争に出兵した兵士たちが命を落とす一方、戦争のおかげで造船業が盛んになり潤うという皮肉をテーマにしている。

エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズによるカバーバージョンはチェット・ベイカーのトランペットをフィーチャーし、アルバム「パンチ・ザ・クロック」に収録された。