洋楽ロック&ポップス名曲1001:1982, Part.1

The Jam, ‘Town Called Malice’

ザ・ジャムのアルバム「ザ・ギフト」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで3週連続1位を記録した。邦題は「悪意という名の街」である。

タイトルはネヴィル・シュートの小説「アリスのような町」にインスパイアされているが、曲の内容は労働者の街における失業と不満をテーマにしたものである。音楽的にはモータウン的なビートの導入が特徴となっている。

「プレシャス」との両A面シングルとしてリリースされ、当時、イギリスで大人気だったザ・ジャムはBBCの音楽番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」で2曲とも演奏することを許された。これはビートルズ「恋を抱きしめよう」「デイ・トリッパー」以来のことであった。

7インチと12インチの2つのフォーマットでシングルはリリースされたが、ザ・ジャムのファンの中にはその両方を買った人たちも少なくはなかったせいで、ストラングラーズ「ゴールデン・ブラウン」が1位になれなかった、というような声も上がっていたようである。

The Associates, ‘Party Feats Two’

スコットランド出身のシンセポップバンド、アソシエイツのアルバム「サルク」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高9位を記録した。

1970年代の終わりにはすでに書かれていた曲なのだが、パンク時代の終わりである当時にしてはあまりにもメロディアスすぎてヒップではないと判断してリリースを見送っていたのだという。

タイトルはメンバーであるビリー・マッケンジーの兄弟が参加したパーティーでの実体験に由来しているが、曲の内容はそこから派生して、アルコール依存症とパーティー文化に対しての疎外感を表明するようなものになっている。

そして、曲はビリー・マッケンジーがコップを3つ叩き割って、噛んでいたガムを吐き出す音で終わる。この後、アルバムもヒットするのだが、ワールドツアーをめぐる意見の違いから中心メンバーの1人であったアラン・ランキンが脱退することになり、アソシエイツはビリー・マッケンジーのソロプロジェクトになっていった。

Yazoo, ‘Only You’

デペッシュ・モードを脱退したヴィンス・クラークがボーカリストのアリソン・モイエと結成したシンセポップデュオ、ヤズーのデビューシングルで、全英シングルチャートで最高2位を記録した。

ヴィンス・クラークはデペッシュ・モードのためにこの曲を書いたのだが、他のメンバーから却下されたため、ボーカリストを探すことになった。そして、アリソン・モイエのソウルフルなボーカルはこの切実なラヴソングに見事にハマった。

当初はこの曲だけのつもりだったのだが、正式にデュオとして活動することになり、2枚のアルバムをリリースした後に解散した。その後、ヴィンス・クラークはアンディ・ベルとイレイジャーを結成し、さらなる商業的な成功をおさめることになる。

この翌年にフライング・ピケッツがこの曲をアカペラでカバーし、クリスマスの全英シングルチャートで1位を記録した。2022年のクリスマスシーズンには、ベッキー・ヒルがマクドナルドのCMでカバーするなど、すっかりスタンダード化して久しい。

Roxy Music, ‘More Than This’

ロキシー・ミュージックの最後のスタジオアルバム「アヴァロン」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高6位を記録した。邦題は「夜に抱かれて」である。

メランコリックなトーンで関係の終わりを示唆するようなこの楽曲は、初期のグラムロック的な音楽性からはかなり変化していて、後にソフィスティポップと呼ばれたりもするようなタイプになっている。

ソフィア・コッポラが監督した2003年の映画「ロスト・イン・トランスレーション」では東京のカラオケボックスのシーンで、スカーレット・ヨハンソンのプリテンダーズ「ブラス・イン・ポケット」に対してビル・マーレイがこの曲を歌うのだが、これは難しいというようなセリフはアドリブだったようである。

アメリカではヒットしなかったのだが、10,000マニアックスが1997年にカバーしたバージョンが全米シングルチャートで最高25位を記録している。また、イギリスではポップシンガーのエミーが1999年にカバーし、全英シングルチャートで最高5位とこちらもオリジナルの順位を上回っている。

Toto, ‘Africa’

TOTOのアルバム「TOTO Ⅳ〜聖なる剣」からシングルカットされ、全米シングルチャートでⅠ位、全英シングルチャートで最高3位を記録した。

バンドのキーボーディスト、デヴィッド・ペイチが新しいシンセサイザーをさわっているうちにできてしまった曲に、テレビで見たアフリカについてのドキュメンタリー番組に影響されて書いた歌詞をつけて歌った楽曲である。

その内容にはツッコミどころがあり、楽曲そのものもひじょうにユニークではあったのだが、実はわりと評判が良いということで、当初は予定していなかったのだがシングルカットしてみたところ、バンドにとって最大のヒットを記録したということである。

それから数十年後、日本でAORと呼ばれているようなタイプの音楽がヨットロックとして再評価されたりもして、この曲の評価も高まっていく。2022年のイギリスで最も再生された1970年代から1990年代の楽曲ランキングでは、オアシス「ワンダーウォール」、クイーン「ボヘミアン・ラプソディ」に次いでこの曲が3位であった。

また、アメリカのオルタナティブロックバンド、ウィーザーにこの曲をカバーさせようという動きがインターネット上で活発化すると、2018年にはそれが実現し、全米シングルチャートで最高51位を記録した。これに対するアンサーとして、TOTOはウィーザーの「ハッシュ・パイプ」をカバーしている。

John Mellencamp, ‘Jack & Diane’

当時は本人の意向に反してジョン・クーガーというアーティスト名で活動していたジョン・メレンキャンプのアルバム「アメリカン・フール」からシングルカットされ、全米シングルチャートで4週連続1位を記録した。

この曲に登場するジャックとダイアンはジョン・メレンキャンプのライブに来ていた観客にインスパイアされた異人種間のカップルだったが、レーベルの意向によって変更させられた。

高校生のカップルが恋におちる、どこかノスタルジックな感覚をいだかせる楽曲だが、「人生は続いていく、生きることのスリルが消え失せた後も」というようなフレーズが象徴するほろ苦さもある。

いかにもアメリカンロックという感じの楽曲ではあるのだが、イギリス的なグラムロックの印象が強いミック・ロンソンが実はわりと深く関わっているというのも興味深い。

Duran Duran, ‘Hungry Like the Wolf’

デュラン・デュランのアルバム「リオ」からシングルカットされ、全英シングルチャートで最高5位、全米シングルチャートで最高3位を記録した。

ニューロマンティックなどと呼ばれたりするシンセサウンドを効果的に用いたニューウェイブ的な音楽性と美青年的なビジュアルイメージなどによって、イギリスや日本ではすでに人気があったのだが、アメリカではいまひとつで、このシングルも当初はランクインしていなかった。

しかし、スリランカで撮影されたエキゾティックでもあるミュージックビデオがMTVでヘビーローテーションされた影響もあり、再リリースされた後は大ヒットすることになった。

1981年の夏に開局した音楽専門のケーブルテレビ局、MTVがトレンドになり、特に以前から映像に力を入れていたイギリスのニューウェイブ系アーティストたちのミュージックビデオがよくオンエアされがちであった。

それが全米シングルチャートにも影響を及ぼし、その現象は第2次ブリティッシュインベイジョンなどと呼ばれたりもした(第1次はビートルズやローリング・ストーンズなどがブレイクした1960年代である)。

ヒューマン・リーグ「愛の残り火」やソフト・セル「汚れなき愛」などにはじまり、この曲やカルチャー・クラブ「君は完璧さ」のヒットがその本格的到来をはっきりと実感させたのだった。