洋楽ロック&ポップス名曲1001:1970, Part.2
The Kinks, ‘Lola’
キンクスのアルバム「ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組第一回戦」にも収録されたヒットシングルで、全英シングルチャートで最高2位、全米シングルチャートで最高9位を記録した。
トランスジェンダーの人物とのロマンティックな出会いという、当時としてはひじょうに攻めた内容の楽曲だったにもかかわらずヒットしたのだが、もしかするとそれに気付いていないリスナーも相当数いたのではないかとも想像される。
コーラスはひじょうにキャッチーで、レイ・デイヴィスの1歳の娘ですら口づさんでいた時点でヒットの予感はあったのだという。
当時のキンクスはセールス的にはなかなか厳しい状況にあり、この曲のヒットがなければその後の早い段階で解散していた可能性もあったとのことである。
Curtis Mayfield, ‘Move On Up’
カーティス・メイフィールドのソロ・デビュー・アルバム「カーティス」からシングルカットされ、全英シングルチャートで最高12位を記録した。
アルバム・バージョンは約8分49秒あったが、シングルカットにあたって3分以下に短縮されていた。いろいろとしんどい状況はあるにせよ、現実を変えるには動きだそう、というようなポジティブなメッセージが、とてもカッコいいサウンドにのせて歌われている。
ザ・ジャムがライブでカバーしていたり、アメリカのジョー・バイデン大統領が選挙演説の後で流したりもしていた。
Crosby, Stills, Nash & Young, ‘Ohio’
アメリカ軍によるカンボジアへの爆撃に反対する抗議活動を行っている学生たちをオハイオ州兵が銃撃し、4人が殺害されたケント州立大学銃撃事件の報道写真を見て、ニール・ヤングが作詞作曲したプロテスト・ソングである。全米シングルチャートでは最高14位を記録した。
デヴィッド・クロスビーはこの曲がレコーディングされた後で声を上げて泣き出したといわれているが、レコードにおいても一部、感極まっているようなボーカルを聴くことができる。
James Brown, ‘Get Up (I Feel Like Being a) Sex Machine’
ジェームス・ブラウンが1970年の夏にリリースしたシングルで、全米シングルチャートで最高15位、全英シングル・チャートで最高32位を記録した。
ゴッドファーザー・オブ・ソウルなどとも呼ばれるジェームス・ブラウンの音楽はファンキーなサウンドとパワフルなシャウトが特徴であり、日本でもドリフターズの志村けんが「8時だョ!全員集合」の「少年少女合唱隊」のコーナーでテレビの前の子供たちが心待ちにしていた「東村山音頭」に影響を与えるなどしていた。
それにしてもタイトルにかなりすごくインパクトがあるのだが、日本では1980年代にソウルミュージックやR&Bの人気が高まるにつれ、若い世代のリスナーからもジェームス・ブラウンに対するリスペクトが強まっていったような印象がある。
この曲のシャウトの部分はカタカナで「ゲロッパ!」と表現されたり発声されたりすることもあるのだが、1993年に日清食品が「カップヌードル MISO」を発売した際には、ジェームス・ブラウン自身がテレビCMに出演し、「ミソッパ!」などとシャウトしていたことが思い出される。
Black Sabbath, ‘Paranoid’
ブラック・サバスのアルバム「パラノイド」から最初のシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高4位、全米シングルチャートで最高61位を記録した。
力強いベースとギター、オジー・オズボーンの勢いのあるボーカルが特徴的で、ブラック・サバスの代表曲としても知られるが、元々はアルバムの穴埋め曲としてレコーディングされたようである。
この曲の歌詞を書いたベーシストのギーザー・バトラーによると、ドラッグの影響下における妄想とその後の鬱状態をテーマにしているということである。
Led Zeppelin, ‘Immigrant Song’
レッド・ツェッペリンのアルバム「レッド・ツェッペリンⅢ」のⅠ曲目に収録された楽曲である。アメリカや日本などではシングルカットされ、全米シングルチャートでは最高16位を記録した。邦題は「移民の歌」である。
文化交流プログラムの招致でアイスランドを訪れたとき、公務員のストライキによって公演はあやうく中止されそうになったのだが、結局は開催されしかも大盛況だったという体験がきっかけとなり、つくられた楽曲だという。
歌詞には北欧神話からの影響が色濃くあらわれ、ロバート・プラントの雄叫びのようなボーカルや攻撃的な演奏が印象的である。後のハードロックやヘヴィメタルにあたえた影響もひじょうに大きい。
2003年の「スクール・オブ・ロック」、2017年の「マイティ・ソー バトルロイヤル」といった映画で使われたり、2011年の映画「ドラゴン・タトゥーの女」のサウンドトラックではトレント・レズナーとカレン・Oがこの曲をカバーしていた。
Elton John, ‘Your Song’
エルトン・ジョンのアルバム「僕の歌は君の歌」からシングルカットされた「パイロットにつれていって」のB面に収録されるが、ラジオのディスクジョッキーたちがこちらの方を気に入ってかけたりした結果、全英シングルチャートで最高4位、全米シングルチャートで最高8位を記録した。
作詞家のバーニー・トーピンと共作したこの曲は、エルトン・ジョンにとって最初のヒット曲となったが、最初にこの曲をリリースしたのはスリー・ドッグ・ナイトであった。
ロマンティックな想いをやや自虐的に表現した歌詞と、フォークやジャズからの影響も感じられる美しいメロディーが絶妙にマッチしていてとても良い。
旭川出身のシンガーソングライター、片桐麻美が「オールナイトニッポン」のオープニングテーマとして使っていたことはおそらくそれほど取り上げられないので、とりあえずここでは記録しておきたい。
Derek and Dominos, ‘Layla’
デレク・アンド・ザ・ドミノスのアルバム「いとしのレイラ」のタイトル曲で、メンバーでもあったエリック・クラプトンの代表曲として知られる。リリース当時はシングルとしてそれほどヒットしなかったのだが、1972年にエリック・クラプトンのベストアルバム「エリック・クラプトンの歴史」絡みでシングルカットされると、全英シングルチャートで最高7位、全米シングルチャートで最高10位を記録した。1982年には全英シングルチャートで4位まで上がり、最高位を更新した。
友人でもあったジョージ・ハリスンの妻、パティ・ボイドへの激しい想いが歌われていて、叶わぬ恋をテーマにした12世紀ペルシア文学の詩人、ニザーミ・ギャンジェヴィーの作品をモチーフにしている。
エリック・クラプトンはパティ・ボイドと結婚し離婚するのだが、ジョージ・ハリスンとの友情はその後も続いた。
George Harrison, ‘My Sweet Lord’
ジョージ・ハリスンのアルバム「オール・シングス・マスト・パス」からシングルカットされ、イギリスやアメリカのシングルチャートで1位に輝いたほか、日本のオリコン週間シングルランキングでも最高4位のヒットを記録している。
「ハレ・クリシュナ」「ハレルヤ」などと歌われ、宗教的な信仰心のようなものがテーマにもなっているようなのだが、ポップソングとしての強度が圧倒的なところがとても良い。
エドウィン・ホーキンス・シンガーズによるゴスペルナンバー「オー・ハッピー・デイ」にインスパイアされているが、シフォンズ「ヒーズ・ソー・ファイン」に似ているのではないかといわれ、問題にもなったりもした。
The Velvet Underground, ‘Sweet Jane’
ヴェルヴェッド・アンダーグラウンドのアルバム「ローデッド」に収録された楽曲で、ルー・リードがソロアーティストになってからも歌い続けたことでも知られる。
インディーとかオルタナティブとかいわれる音楽のほとんどすべてに影響をあたえたといっても過言ではないヴェルヴェット・アンダーグラウンドだが、当時、商業的にはほとんど成功していなかった。
それで、レーベルからの要請もあって、ルー・リードがヒット曲を意識して書いた楽曲なのだが、やはりヒットはしなかった。制作中にレーベルとの対立もあって、ルー・リードは完成を前にして去ることになり、レコードでは楽曲のブリッジ部分がカットされた。