洋楽ロック&ポップス名曲1001:1989, Part.2

The Cure, ‘Pictures of You’

ザ・キュアーのアルバム「ディスインテグレーション」から4作目のシングルとしてカットされ、全英シングルチャートで最高24位を記録した楽曲である。

このアルバムからは「ラヴソング」が全米シングルチャートで最高2位(全英シングルチャートでは最高18位)の大ヒットを記録しているのだが、よりザ・キュアーらしさが出ているのではないかと思われるのはこの「ピクチャー・オブ・ユー」である。

陰鬱な中にもポップセンスが光るイントロがやたらと長いのだが、この美意識に浸りきるためにはちょうどいい。果てしない喪失感とでもいうべきものにいつまでの耽溺しているのだが、それが寧ろ美しくも感じられてくるという素晴らしい楽曲である。

Soul Ⅱ Soul feat. Caron Wheeler, ‘Back to Life (However Do You Want Me) ’

ソウル・Ⅱ・ソウルのデビューアルバム「キープ・オン・ムーヴィン(原題:Club Classics Vol. One)」に収録されていた楽曲のシングルバージョンで、全英シングルチャートでⅠ位、全米シングルチャートで最高4位のヒットを記録し、第32回グラミー賞では最優秀R&Bデュオorグループ賞を受賞した。

ロンドンを拠点に活動するDJ、ジャジー・Bを中心とする音楽グループで、そのユニークな音楽性はグラウンドビートと呼ばれ、後のトリップホップなどにも影響をあたえていった。

この楽曲にはレゲエとストリングスアンサンブルを組み合わせたサウンドで話題になったレゲエ・フィルハーモニック・オーケストラや、リードボーカリストとしては後にソロアーティストとしても活躍するキャロン・ウィーラーが参加している。

Nirvana, ‘About a Girl’

ニルヴァーナのデビューアルバム「ブリーチ」に収録されていた楽曲である。

アルバム収録曲の中でも特にポップなメロディーが特徴的な楽曲で、後にアルバム「ネヴァーマインド」をプロデュースするブッチ・ヴィグはこの曲を聴いてニルヴァーナにグランジロックバンドを超えた可能性を見いだしたということである。

カート・コバーンが当時のガールフレンドについて書いた楽曲だが、当人は後にニルヴァーナについて書かれた本を読むまでそれを知らなかったらしい。

ニルヴァーナが「MTVアンプラグド」に出演した際には1曲目に演奏され、カート・コバーンが亡くなった後にリリースされたライブアルバム「MTVアンプラグド・イン・ニューヨーク」にも収録された。

カート・コバーンがビートルズのアメリカでの2作目のアルバム「ミート・ザ・ビートルズ」を聴いた後に書いたともいわれるこの曲はあまりにポップでキャッチーだったということもあり、アルバムに収録するのを躊躇してもいたようである。

Public Enemy, ‘Fight the Power’

パブリック・エナミーがスパイク・リー監督のオファーに応え、映画「ドゥ・ザ・ライト・シング」のテーマソングとして提供した楽曲で、全米ラップシングルチャートで1位、全英シングルチャートで最高29位を記録した。

アイズレー・ブラザーズ「ファイト・ザ・パワー」にインスパイアされているが、音楽的にはブランフォード・マルサリスのサックスをフィーチャーしたり、歌詞にも登場するジェームス・ブラウン「ファンキー・ドラマー」をはじめ、いくつものサンプリングが使用されている。

反レイシズムアンセムにして当時における最新型のポップミュージックとしてのインパクトはひじょうに大きかったが、その後も評価は高まり、「ローリング・ストーン」が2021年に発表した歴代グレイテストソングス500曲のリストでは、アレサ・フランクリン「リスペクト」に次ぐ2位に選ばれていた。

Depeche Mode, ‘Personal Jesus’

デペッシュ・モードのアルバム「ヴァイオレーター」からのリードシングルで、全英シングルチャートで最高13位、全米シングルチャートで最高28位を記録した。

シンセポップのイメージが強かったデペッシュ・モードがギターサウンドをメインにした楽曲であり、エルヴィス・プレスリーの元妻であるプリシラ・プレスリーの著作にインスパイアされ、誰かにとってのイエス・キリストのような存在であることがテーマになっている。

ジョニー・キャッシュによる有名なバージョンの他に、マリリン・マンソンやイギー・ポップなどによってもカバーされている。

Julie Cruise, ‘Falling’

ジュリー・クルーズのデビューアルバム「フローティング・イントゥ・ザ・ナイト」からシングルカットされ、全英シングルチャートで最高7位を記録した。

作曲をアンジェロ・バダルメンティ、作詞を映画監督のデイヴィッド・リンチが手がけていて、インストゥルメンタルバージョンはデイヴィッド・リンチ監督のテレビドラマ「ツイン・ピークス」のテーマソングとして使用されていた。

ドラマは日本でも現地ツアーが組まれたりそれまであまり馴染がなかったチェリーパイが話題になるほどカルト的なヒットを記録したが、幻想的なボーカルとサウンドがミステリアスな内容にマッチしていたのと同時に、当時の海外文化受容の雰囲気を思い起こさせてくれるような気もする。