オアシスの名曲ベスト10
ノエル・ギャラガーは1967年5月29日にイギリスのマンチェスターに近いロングサイトで生まれたのだが、いろいろあって1980年代の終わり頃にはインスパイラル・カーペッツのローディーをやっていた。ストーン・ローゼズ、ハッピー・マンデーズと共に、マッドチェスター御三家ともいわれていたバンドである。そのツアーポスターは自宅にも貼られていたのだが、弟のリアムは開催地の1つとして掲載されていたスウィンドンのオアシス・レジャー・センターから、加入したばかりのバンドをオアシスに改名した。その後、オアシスにノエル・ギャラガーも加入し、1993年にはクリエイション・レコーズと契約、翌年にはデビュー・シングル「スーパーソニック」がリリースされた。インディー・ロック的なアティテュードでありながらクラシック・ロックのオーセンティシティにも通じるノエル・ギャラガーの確かなソングライティング能力に加え、リアム・ギャラガーの素晴らしいボーカル、さらにはギャラガー兄弟のケンカをも含むインタヴューのおもしろさ、イギリスのインディー・ロックが盛り上がりはじめていたタイミングもあり、オアシスはすぐに人気バンドとなった。そして、ブラー、パルプ、スウェードなどと共に、ブリットポップと呼ばれるシーンの中心となっていく。今回はそんなオアシスの楽曲の中から、これは特に名曲なのではないかと思える10曲をあげていきたい。
10. Rock ‘N’ Roll Star (1994)
オアシスのデビュー・アルバム「Definitely Maybe」こと邦題「オアシス」が発売されたのは1994年8月29日、この時点でバンドの人気や知名度はかなり高まっていたこともあり、全英アルバム・チャートで初登場1位に輝いた。その1曲目に収録されていたのが、この「ロックンロール・スター」である。この時代において、今夜、オレはロックンロールスターだというようなことを、何のアイロニーも無く高らかに歌い上げることは、けしてカッコいいとはされていなかったのだが、それを圧倒的な楽曲とパフォーマンスの力でかなりカッコよくしてしまったところが、とにかくすごいといわざるをいえない。単にレトロなロックをあえてやっていたという訳ではまったくなく、そこにはレイヴやマッドチェスターを通過したからこそのまったく新しいポップ感覚がある。
9. Slide Away (1994)
オアシスのデビュー・アルバムに収録されている曲はどれも素晴らしいのだが、全11曲中10曲目に収録された「スライド・アウェイ」は少しずつ人気を上げていった印象がある。レーベルはアルバムから5枚目のシングルにと推したようだが、ノエル・ギャラガーが断ったようだ。それで、シングル「ホワットエヴァー」のカップリング曲としてや、ベスト・アルバムにも収録されがちである。ノエル・ギャラガーと当時のガールフレンドとの関係がテーマになっていて、オアシスのスウィートでテンダーな一面をあらわす楽曲でもある。数多いヒット曲や有名曲を差し置いて、この曲をオアシスのベスト・ソングに選んでいるケースを見かけることもある。確かにとても良い曲である。
8. Some Might Say (1995)
オアシスの2作目のアルバム「モーニング・グローリー」からの先行シングルで、全英シングル・チャートでは初の1位に輝いた曲である。当時のオアシスの数ある魅力の1つとして、輝かしいばかりのポジティヴィティーというのがあると思うのだが、この曲にもそれを感じることができる。この後、ブリットポップは社会現象化に拍車がかかり、サーカス化していったところもあるのだが、その直前のとても地に足の着いた真骨頂とでもいうべき最高のギター・ロックである。
7. Champagne Supernova (1995)
オアシスの2作目のアルバム「モーニング・グローリー」の最後に収録された曲である。アメリカではラジオ用のシングルがリリースされ、ビルボードのモダン・ロック・トラックス・チャートで1位に輝いている。ポール・ウェラーがギターとバッキング・ボーカルで参加しているという話題性もあるのだが、まずは曲そのものがひじょうにスケールが大きく、当時のバンドの勢いを物語っているといえる。とにかくデビューからここまでのオアシスはほぼ完璧といっても良く、もしかするとポップ・ミュージックの歴史上、最も優れたロック・バンドにすらなってしまうのではないかと、期待させるようなところもあった。
6. Supersonic (1994)
オアシスの記念すべきデビュー・シングルで、全英シングル・チャートでの最高位は最高31位を記録した。パンク/ニュー・ウェイヴ以降というかインディー・ロック的でもありながら、クラシック・ロック的なオーセンティシティも感じさせ、さらにはレイヴやマッドチェスター以降ならではのスケール感もあるという、ロック・ミュージックの最新型という感じではあったのだが、レトロなロックにしか聴こえなかった人たちもいるにはいただろうし、それも理解できる。とはいえ、「I need to be myself」とはじまるこの曲には、明らかに歌うべきことがあり、伝説のはじまりに相応しいデビュー曲だということができる。
5. Cigarettes And Alchol (1994)
オアシスの楽曲で一般的に有名だったり人気が高いのはバラードという印象もあり、確かにそれもとても良いのだが、真骨頂はロックンロール的なヘドニズムというか快楽主義の復権的なところではなかったかとも思うのである。そういった意味で、タイトルがあらわしているように煙草と酒のことなども歌われた「シガレッツ&アルコール」は重要だと思うのである。デビュー前に「NME」の付録に収録されたバージョンは、もっとT・レックス「ゲット・イット・オン」に似ていた。「crazy situation」というフレーズが「クレーイジシッチュエイッシヨォオン」というように歌われているところなども、とても良い。
4. Don’t Look Back In Anger (1995)
オアシスの2作目のアルバム「モーニング・グローリー」からシングル・カットされ、全英シングル・チャートで1位に輝いた。アルバムを初めて聴いた時にこんなにも良い曲がたくさん入っていてどうしたものかと思ったのだが、案の定、シングル・カットされて大ヒットするどころか、代表曲として認知されるようにまでなった。リアム・ギャラガーではなく、ノエル・ギャラガーがリードボーカルを取っているのも特徴である。オアシスの音楽の大きな魅力としてリアム・ギャラガーの素晴らしいボーカルもあげられるのだが、ノエル・ギャラガーのボーカルもシンガー・ソングライター的でとても良く、一般大衆的にはこちらの方が受けそうにも感じられる。「And so Sally can wait」と歌われるところのキャッチーさが特にとても良く、ポップスの快感を体現しているようにも感じられる。
3. Acquiesce (1995)
「サム・マイト・セイ」のシングルにカップリング曲として収録されていて、シングルA面ではないにもかかわらず、ファンの間ではひじょうに人気が高い曲である。ノエルとリアムのリードボーカルがどちらも聴けるという点もひじょうに特徴的であり、オレたちはお互いを必要とし合っている、というような歌詞はまるでギャラガー兄弟の関係性について歌われているようでもあるが、これについてはノエル・ギャラガーがはっきりと否定している。ミュージック・ビデオにはオアシスではなく、日本の若者たちによるバンドがフィーチャーされている。
2. Wonderwall (1995)
オアシスの2作目のアルバム「モーニング・グローリー」からシングル・カットされ、全英シングル・チャートで最高2位を記録した。この年の夏、オアシス「ロール・ウィズ・イット」とブラー「カントリー・ハウス」が同じ日に発売されて、どちらが1位になるかといういわゆる「バトル・オブ・ブリットポップ」が生じたわけだが、いろいろな事情があったとはいえ、結果的にブラー「カントリー・ハウス」が1位になった。少しの間だけ、オアシスには敗者のイメージが漂ってはいたのだが、その後にリリースされたアルバム「モーニング・グローリー」の驚異的なクオリティーと、シングル・カット曲の連続大ヒットによって、それは直ちに払拭された。この曲はアルバムで聴いた時からとても素晴らしく、特にリアム・ギャラガーのボーカリストとしての魅力が格段に上がっているように思えた。アメリカにおいても、全米シングル・チャートで最高8位のヒットを記録した。この曲や「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」をわりと下の方にランクインさせるオアシスのベスト・ソング・リストも少なくはなく、それはそれで納得もできるのだが、やはり代表曲なのではないかということと、それに相応しいクオリティーでもあるので、順当に上位にランクインさせている。
1. Live Forever (1994)
オアシスの「Definitely Maybe」こと邦題「オアシス」と「モーニング・グローリー」とではどちらがより良いアルバムかという議論はわりとされがちな印象もあるのだが、「モーニング・グローリー」ということに一般的にはなりやすい印象がある。クオリティー的にはやはり「モーニング・グローリー」の方が高いと思えるのでそれにも納得なのだが、個人的には当時のリアルタイムでのインパクトとか、クラブクアトロの初来日公演で「リヴ・フォーエヴァー」をみんなで歌った思い出補正などにより、やはり「Definitely Maybe」こと邦題「オアシス」の方にしてしまいがちである。そして、デビュー当時からまだ発売されていないがとても良い曲と評判になっていた「リヴ・フォーエヴァー」は3枚目のシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高10位、オアシスにとって初のトップ10ヒットとなった。陰鬱で自己否定的なところもあったグランジ・ロックのブームの後に、このあまりにも肯定的で希望に満ちた音楽がとても輝かしく感じられた。