ポップ・ミュージックの歴史に登場した数多ある楽曲の中から、特に良いのではないかと思える500曲を選び、カウントダウンしていこうというのがこの記事の意図である。様々なメディアが複数のジャーナリストやアーティストなどの投票によってこういうのを発表したりはしているのだが、もちろん万人を完全に満足させるリストなどというものは存在しない。人それぞれの趣味嗜好や生きざますらをも反映された様々なリストができあがるのではないかと考えられ、それはポップ・ミュージックという文化の成熟であったり多様性をあらわしてもいるように思える。
というわけで、このリストは複数のジャーナリストやアーティストたちの投票ではなく、たった一人の一般人による退屈しのぎを装った真剣勝負によって作成されたものである。当然、趣味嗜好やもしかすると生きざままでもが反映されている可能性がなきにしもあらずだが、複数のジャーナリストやアーティストたちの投票によってつくられたものとは違って、まったく信憑性に欠けるものではある。ただし、これをつくったたった一人だけは少なくとも完全に満足させることができる代物である。つまり、チラシの裏ででもやっておけ的なそれではあるのだが、とりあえずあえてそれを公開してしまうというスタイルでやっていきたい。対象は日本国内においては洋楽と呼ばれる、日本のアーティストやバンド以外による楽曲である。日本のアーティストやバンドなどによるそれは、また改めてやるかもしれない。ジャンルや年代は問わないことになっているが、これもやはり個人的な趣味嗜好や生きざまのようなものが反映したかたちになってしまっている。そして、当然、良識的な音楽ファンからすると、あれよりもこれの方が上位なんていうことは絶対にありえないとか、あれが入っていなくてこれが入っているのはおかしいだろうとか、あのアーティストに甘すぎるわりにこのアーティストには厳しすぎるのではないかとか、様々な感想を持たざるをえないようなものになっているのではないか、という自覚のようなものはなんとなくある。とはいえ、通勤や休憩や入眠時間などを使って、iPhoneでちまちまやりながらつくったリストを、適当にカウントダウンしながら発表していきたい。
500. Digging Your Scene – The Blow Monkeys (1986)
さて、これは80年代におしゃれだとされたサウンドである。ブルー・アイド・ソウルというのだろうか。ネオ・アコースティックのディスク・ガイドなどに載っていることもあるが、けしてアコースティックではない。ザ・スタイル・カウンシルやプリファブ・スプラウトなどとリスナーが被りそうである。米米クラブのアルバム「E・B・I・S」に収録された「トラブル・フィッシュ」という曲が、おそらくこれにインスパイアされている。収録アルバムの「アニマル・マジック」は、1986年の夏休みに北海道留萌市にあるレコード店でも簡単に買うことができた。ダリル・ホール「ドリームタイム」と一緒に買った本人が言っているのだから間違いがない。海外ではこういう音楽のことをソフィスティ・ポップなどと言うようなのだが、なかなか便利そうなのと面倒くさそうなネオ・アコースティックファンに絡まれる厄介を回避するのに役立ちそうなので、広まればいいのにと思う。知らんけど。
499. I Love Your Smile – Shanice (1991)
♪トゥルットゥ~ル、トゥ~ルルル、というわけで、1992年の初めぐらいにJ-WAVEの「TOKIO HOT 100」で1位になっていた曲である。六本木WAVEはこの頃には、コンサヴァティヴな会社員などがメインの客層で、J-WAVEのリスナー層とも合致しがちだったので、まあよく売れていたという話を聞いたことがある。テレビ東京「水着でKISS ME」の「水着美女図鑑」のコーナーでBGMでかかっていたとしてもおかしくはないが、実際にかかっていたかは定かではない。とにかく性格が良さそうな音楽ではある。ニュー・ウェイヴやインディー・ポップなどではなく、こういうのが普通に好きな女子大生とあまり仲よくすることができなかったことが、人生の後悔のうちの一つではある。
498. Favourite Shirts (Boy Meets Girl) – Haircut 100 (1981)
フリッパーズ・ギターがライブでカバーしていたり、バンド名は曲のタイトルに引用したりもしていた。2022年5月現在、ヘアカット100という理容店が静岡県島田市に実在しているらしい。それはまあ良いのだが、この曲を収録したアルバム「ペリカン・ウェスト」は当時、日本でもまあまあ話題になっていて、旭川の公立高校に当麻町から汽車で通っていた、RCサクセションのファンで「宝島」を読んでいるようなタイプの遊んでいる系女子も聴きたがっていたぐらいである。ミュージックショップ国原か玉光堂あたりで買って貸すようにと強要されたのだが、無視してマイケル・マクドナルド「思慕(ワン・ウェイ・ハート)」を買ったことが思い出される。ニュー・ウェイヴにファンカラティーナ的な要素が入っていたのと、ルックスが良いのが特徴であった。涼しげでモテそうなレコードではあったのだが、なんとなく身分不相応なようにも思えて、買うのを見送った記憶がある。
497. More Than This – Roxy Music (1982)
ロキシー・ミュージックの最後のアルバム「アヴァロン」からの先行シングルで、「夜に抱かれて」という邦題がついていた。日本ではダンディーな大人の魅力で受けていたような気もするのだが、1985年ぐらいにいつもスーツでキメていた高身長の男のことを「高島平のブライアン・フェリー」などと呼んでいじっていたことが思い出される。映画「ロスト・イン・トランスレーション」では、ビル・マーレイ演じるベテラン俳優が、東京のカラオケ店でこの曲を歌っていた。
496. Malibu – Hole (1998)
ホールのアルバム「セレブリティ・スキン」からシングル・カットされた、とてもキャッチーでノスタルジックな曲である。ホールといえば、元々はオルタナティヴでパンキッシュなバンドではあるのだが、子供の頃にはフリートウッド・マック「噂」などが流行っていたはずであり、その刷り込みはどこかしらにあると考えられる。そういった70年代後半のアメリカのFMで流れていそうなタイプの曲を、ホールがやっているのがまたとても良くて、かなり気に入っている。というか、「セレブリティ・スキン」のアルバムは最初の4曲ぐらいだけなら、歴史的名盤レベルにとても良いのだが、全体となるとそうでもなかったような印象がある。
495. Never Too Much – Luther Vandross (1980)
ブラコンことブラック・コンテンポラリーの典型例であり、康夫ちゃんこと田中康夫の小説に登場しそうな楽曲であり、ディスク・ガイドとしても機能しがちな名著「たまらなく、アーベイン」でも実際に取り上げられている。サウンドも都会的に洗練されていてとても良いのだが、歌がとても上手くてセクシーなところが最高であり、康夫ちゃんの言葉を借りるならば「気分です」というやつである。当時、全米シングル・チャートで最高33位、ビルボードのホット・ソウル・シングルズ・チャートでは1位に輝いている。
494. The King Of Rock’n Roll – Prefab Sprout (1988)
プリファブ・スプラウトは身の回りでは軟弱そうな人がたまたま聴いていたので自分では主体的に聴かないようにしていたのだが、しばらくした後で銀座数寄屋橋の阪急にあったHMVのセールで買うものがなかったので仕方なく「スティーヴ・マックイーン」のCDを買ったところ、あまりにも良すぎて度肝を抜かれた。この曲は1988年に全英シングル・チャートで最高7位を記録した、ノベルティーソング的なシングルであり、本来の持ち味である繊細なところがあまりあらわれていないようにも感じられるのだが、ホットドッグや跳びはねるカエルが登場したりして、楽しいので良いものである。
493. Ohio – Crosby, Stills, Nash & Young (1970)
アメリカ軍によるカンボジアへの爆撃に対して抗議活動を行っていた非武装の学生を、州兵が銃殺するというケント州立大学銃撃事件の報道を見て、ブチ切れたニール・ヤングがつくった曲である。アコースティックな楽曲でありながら、怒りはふつふつと伝わってくる。全米シングル・チャートでは最高14位を記録し、プロテストソングのクラシックとして知られるようになっていった。「ディケイド:輝ける10年」など、ニール・ヤングのベスト・アルバムにも収録されがちである。
492. Under Pressure – Queen & David Bowie (1981)
1981年にリリースされたクイーン「グレイテスト・ヒッツ」の先行シングルとしてリリースされ、デヴィッド・ボウイとのトップスター同士のデュエットが話題になった。と思っていたのだが、イギリス盤の「グレイテスト・ヒッツ」には収録されていなかった。全英シングル・チャートでは1位に輝いたが、全米シングル・チャートでは最高29位であった。ミュージックビデオでは、東京の通勤ラッシュの映像がホラー映画や衝撃映像的なものと一緒に編集されていた。1990年にラッパーのヴァニラ・アイスが全米シングル・チャートで1位に輝いた「アイス・アイス・ベイビー」でこの曲を無断でサンプリングしていて、訴えられるということがあった。
491. Steppin’ Out – Joe Jackson (1982)
ジョー・ジャクソンのアルバム「ナイト・アンド・デイ」からシングル・カットされ、全米、全英共にシングル・チャートで最高6位を記録した。アルバムはA面がナイト・サイド、B面がデイ・サイドとなっていて、この曲はナイト・サイドの最後に収録されていた。ニューヨークの街にインスパイアされた楽曲で、夜の街に繰り出していくわくわくするような感じがヴィヴィッドに表現されている。「夜の街へ」という邦題もとても良い。