スパイス・ガールズのベストソング10選(The 10 essential Spice Girls songs)

スパイス・ガールズは1996年にシングル「ワナビー」でデビューしたイギリスのガールズグループで、「ガールパワー」のキャッチフレーズと共に社会現象的ともいえるブームを巻き起こし、世界中でシングルやアルバムを売りまくった。

それぞれのニックネームで呼ばれる各メンバーはそれぞれ個性的で、ソングライティングにもかかわっていた。ポップミュージック史上最も売れたガールズグループであり、CDのみならず主演映画が制作されたりグッズや書籍などが次々と発売されたりもした。

セルフエンパワメントやシスターフッドをアティテュードとしていたこともあり、特に幼かったり若かったりする同性から圧倒的な支持を得ていたのだが、これは当時のポップシーンにおいてはまだ特別であり、後の世代にあたえた影響もひじょうに大きい。

今回はそんなスパイス・ガールズの楽曲からこれは特に重要なのではないかと思える10曲を厳選し、簡単な説明なども加えていきたい。

‘Wannabe’ (‘Spice’, 1996)

スパイス・ガールズのデビューシングルで全英シングルチャートで7週連続1位、全米シングルチャートで4週連続1位を記録した。ブリットアワードの最優秀シングル賞やアイヴァー・ノヴェロ賞などを受賞したりもしている。

シングルのリリースに先がけて、ミュージックビデオがイギリスのケーブルネットワーク、ITVで放送されたのだが、その時点でかなりの評判になっていたという。

ラップを取り入れたダンスポップソングで、女性同士の友情や男性に依存しないアティテュードなどを強調した歌詞にも特徴がある。

そして、メンバーがホテルで歌い踊りながら暴れまくるミュージックビデオもインパクトが強く、各メンバーの個性をも含めたグループの魅力を大衆にアピールすることとなった。

日本ではイギリスよりも少し早くリリースされていて、ミュージックビデオもフジテレビ系で金曜の深夜に放送されていた「BEAT UK」の後などに流されていたような気がする。

当時はテイク・ザットやイースト17といったボーイバンド全盛であり、スパイス・ガールズのようなガールズグループというのはなかなか珍しく、しかもフェミニズム的なアティテュードを前面に打ち出しているところも画期的であった。

‘Say You’ll Be There’ (‘Spice’, 1996)

スパイス・ガールズの2曲目のシングルで全英シングルチャートで2週連続1位、全米シングルチャートで最高3位を記録した。

レーベルはこの曲をデビューシングルにと考えていて、プロデューサーもそれを了承していたのだが、メンバーの強い要望によって「ワナビー」になったという経緯があったようだ。

インパクトが強い「ワナビー」で注目をあつめ、その次によりオーセンティックな「セイ・ユール・ビー・ゼア」で人気の地盤を固めたのは結果的に正解だったような気がする。

R&Bの影響を受けたキャッチーなダンスポップで、シンセサウンドにはGファンク的なトレンド感も感じられる。歌詞は強い関係性をテーマにしていて、「ワナビー」に比べるとかなり洗練されてはいるのだが、これもまた1つのガールパワーアンセムということができる。

印象的なハーモニカソロは80年代のいくつかのヒット曲におけるスティーヴィー・ワンダーを思い起こさせもするが、演奏しているのはカルチャー・クラブ「カーマは気まぐれ」にも参加していたセッションミュージシャンのジャド・ランダーである。

カリフォルニア州のモハベ砂漠で撮影されたというミュージックビデオでは、メンバーがそれぞれのキャラクターに扮していろいろな方法で戦ったりする。

サッカー選手のデビッド・ベッカムはこのビデオに出演する黒いキャットスーツ姿のヴィクトリア・アダムスに心を魅かれたことがきっかけで、後に交際、結婚することになる。

映画「パルプ・フィクション」や「ファスター・プシィキャット!キル!キル!」にもインスパイアされたこのビデオは、ブリットアワードで最優秀ブリティッシュビデオ賞を受賞した。

‘2 Become 1’ (‘Spice’, 1996)

スパイス・ガールズの3曲目のシングルで、全英シングルチャートで3週連続1位、全米シングルチャートで最高4位を記録した。

イギリスではクリスマスの週に全英シングルチャートの1位になる、つまりクリスマスナンバーワンの価値が他の国々と比べて極度に高いような気がするのだが、この曲はスパイス・ガールズにとって最初のそれになったことでも知られる。

わざわざ最初のと説明したことには理由があって、スパイス・ガールズはこの年から3年連続してクリスマスナンバーワンを記録することになるのである。

それはそうとして、この曲はR&Bから影響を受けたポップバラードで、クリスマスシーズンの気分にもかなりマッチしていた。

ソングライターチーム及び共同プロデューサーの1人であるマット・ロウとメンバーのジンジャー・スパイスことジェリ・ハリウェルとの間に育まれつつあったロマンティックな関係性も影響をあたえたといわれている。

それまでのスパイス・ガールズのシングルと比べるとあまりにもコンサバティブすぎるような気がしないでもないのだが、歌詞にはセーフセックスを推奨するようなフレーズがあったりもする。

ミュージックビデオでは冬の装いのメンバーたちがニューヨークのタイムズスクエアを歩き回りながら歌っているのだが、実際にはロンドンのスタジオで撮影した映像に背景を合成したものだという。

‘Mama’ (‘Spice’, 1996)

スパイス・ガールズのデビューアルバム「スパイス」から「フー・ドゥ・ユー・シンク・ユー・アー」との両A面シングルとしてカットされた楽曲で、全英シングルチャートでグループとしては史上初となるデビューから4曲連続しての1位を記録した。

思春期における娘と母親との関係の難しさを歌いながらも感謝を伝えるポップバラードで、ミュージックビデオには各メンバーの幼い頃の写真が使われたり、母親たちが出演したりもしている。

また、各メンバーの幼少期を演じる子役たちがグループとして出演しているシーンも、ホームビデオのような画質で収録されているのだが、イギリスの雑誌「ザ・ステージ」に掲載された募集に応募した人たちから選ばれたメンバー間に幼少期の交流は一切なかった。

‘Who Do You Think You Are’ (‘Spice’, 1996)

スパイス・ガールズの4作目のシングルとして「ママ」との両A面でリリースされた楽曲で、全英シングルチャートで1位を記録した。

ディスコポップ的なエッセンスをコンテンポラリーなセンスでアップデートしたかのようなご機嫌なサウンドにのせて、スーパースターの傲慢さや名声が規定する世界に閉じ込められてしまうことの危険性について歌った楽曲となっている。

1997年のブリットアワードでスパイス・ガールズはデビューシングル「ワナビー」とこの曲をメドレーでパフォーマンスしたのだが、ジェリ・ハリウェルが着ていたイギリス国旗であるユニオンジャック柄の衣装は、この当時にひじょうに勢いがあったイギリス文化全般を指すクールブリタニアを象徴するイメージとして記憶されてもいる。

‘Spice Up Your Life’ (‘Spiceworld’, 1997)

スパイス・ガールズの2作目のアルバム「スパイスワールド」からリードシングルとしてリリースされた楽曲で、全英シングルチャートでは史上初となるデビューから5作連続1位、4作連続初登場1位を記録した。

主演映画「スパイス・ザ・ムービー」撮影中にレコーディングが行われるなど、スケジュールはかなり過酷だったようである。

ラテン音楽からの影響が感じられるダンスポップで、祝祭的なムードと世界中のオーディエンスに向けたスローガン的な歌詞が特徴である。

1982年の映画「ブレードランナー」を思わせるミュージックビデオも、当時のグループの勢いを感じさせるものになっている。

‘Too Much’ (‘Spiceworld’, 1997)

スパイス・ガールズのアルバム「スパイスワールド」から2曲目のシングルとしてリリースされた楽曲で、全英シングルチャートではデビューから6作連続となる1位、全米シングルチャートで最高9位を記録した。

R&Bとドゥーワップの影響を受けたポップバラードで、コンセプトはジェリ・ハリウェルが映画「スパイス・ザ・ムービー」の撮影中にセットを離れて車の後部座席で走り書きしたという愛は盲目であり、深みのある言葉が無意味かもしれないことについてのメモをベースにしているという。

映画「スパイス・ザ・ムービー」ではオープニングでこの曲が使われているが、ミュージックビデオには映画から別のシーンの映像がいくつか挿入されている。

ミュージックビデオのために新たに撮影された映像はいずれも各メンバーがそれぞれ単独で出演したもので、「マッドマックス/サンダードーム」「ポルターガイスト」「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」「ギルダ」「バットマン リターンズ」といった映画にインスパイアされたと思われるキャラクターを演じている。

この曲はイギリスで前年の「トゥー・ビカム・ワン」に続いて、2年連続となるクリスマスナンバーワンを記録した。

‘Stop’ (‘Spiceworld’, 1997)

スパイス・ガールズのアルバム「スパイスワールド」から3曲目のシングルとしてリリースされた楽曲で、全英シングルチャートで最高2位、全米シングルチャートで最高16位を記録した。

デビューシングル「ワナビー」から続いていた全英シングルチャートでの連続1位の記録はこの曲で途絶えたのだが、その週の1位はRun-D.M.C.の1983年の楽曲「イッツ・ライク・ザット」をジェイソン・ネヴィンスがリミックスしたバージョンであった。

モータウンやブルーアイドソウルから影響を受けたこの曲はシュープリームス「恋はあせらず」にも通じる、あまり急がずゆっくいこうというようなメッセージを含んでいるが、メンバーたちのマネージメントに対しての不満を表明したものでもあった。

当時のスパイス・ガールズは映画「スパイス・ザ・ムービー」の撮影とアルバム「スパイスワールド」の制作とを並行して行うという、ひじょうに過酷な労働環境下にあったのだという。

アイルランドで撮影されたミュージックビデオは、メンバーが1960年代の労働者階級の街で少女たちと遊りホールのステージでパフォーマンスするという内容になっている。

‘Viva Forever’ (‘Spiceworld’, 1997)

スパイス・ガールズのアルバム「スパイスワールド」から4曲目のシングルとしてリリースされた楽曲で、全英シングルチャートで初登場1位を記録した。

スペイン風のギターが印象的なポップバラードで、夏の日のロマンスをテーマにしている。歌詞の大半は母方にスペイン人の血をひくジェリ・ハリウェルによって書かれている。

メンバーが妖精に扮したストップモーションアニメのキャラクターとして登場するミュージックビデオは「ウォレスとグルミット」などで知られるイギリスのアニメーション制作スタジオ、アードマンアニメーションズの監督によるものである。

このシングルがリリースされた時点でジェリ・ハリウェルはすでにグループを脱退していたのだが、ミュージックビデオの制作はそれ以前に依頼されていたため、5体のキャラクターが登場している。

プロモーションがじゅうぶんではなかったにもかかわらず、この曲は大ヒットし、批評家からも高く評価されることが多かった。

ジェリ・ハリウェルの脱退やイノセンスの喪失をテーマにしたようなミュージックビデオなどが、哀しげなサウンドや曲調ともあいまって、センチメンタルな気分を加速させていた。

‘Goodbye’ (‘Forever’, 1998)

スパイス・ガールズが4人組になってから初めてのボーカルを収録した楽曲で、全英シングルチャートで1位、全米シングルチャートで最高11位を記録した。

イギリスでは「トゥー・ビカム・ワン」「トゥー・マッチ」に続く3年連続でのクリスマスナンバーワンとなり、ビートルズと並ぶ歴代最多を記録することになった。

楽曲自体はジェリ・ハリウェルがグループを脱退する時点に書かれていたということなのだが、新たにつくり直されることになった。

別れをテーマにした楽曲なのだが、これはけして終わりではないとも歌われている。スパイス・ガールズはこのまま解散してしまうのではないかという憶測も広まったのだが、メンバーはそれを否定し、2000年にこの曲も収録したアルバム「フォーエヴァー」をリリースした。