ストロベリー・スウィッチブレイド「ふたりのイエスタデイ」
「ふたりのイエスタデイ」はスコットランドのシンセポップデュオ、ストロベリー・スウィッチブレイドがメジャーレーベルからの最初のシングルとしてリリースした楽曲で、全英シングルチャートで最高5位のヒットを記録した。
キュートでポップなサウンドと水玉模様をあしらったファッションが特徴的で、日本でもニューウェイブを好む少女たちを中心に人気があった。
当時の日本盤シングルのジャケットには「アンティックショップのおとぎの絵本みたいで気分はパステル・サイケ・・・ とびだし苺のスウィート・スウィート・ハーモニーは、水玉模様で本邦新発売!」というコピーが記載されていて、確かにそんな感じだったことが思い出される。
リリースされたのは1984年10月で、全英シングルチャートには89位に初登場して、急上昇するわけでも圏外に落ちるわけでもなく、地味に順位を上げていくという状態が2ヶ月ほど続き、12月に入ると32位を記録した。
それからレーベルはこの曲を本格的にプッシュしていくことを決め、テレビCMを制作したり雑誌やテレビに積極的に登場したりした結果、翌年の1月に最高5位を記録した。その週の1位はフォリナー「アイ・ウォナ・ノウ」、2位がプリンス「1999」「リトル・レッド・コルベット」のカップリング、3位がエレイン・ペイジ&バーバラ・ディクソン「アイ・ノウ・ヒム・ソー・ウェル」で4位がティアーズ・フォー・フィアーズ「シャウト」であった。
印象的なイントロのファンファーレはフィンランドの作曲家、シベリウスの「交響曲第5番」から引用したものである。「私が持っているのは昨日の思い出だけだ」「これが終わりなのかもしれない」というような歌詞は、核戦争をテーマにしていたと後に明かされている。
ストロベリー・スウィッチブレイドは1976年にグラスゴーのパンクロックシーンで知り合った4人によって結成されたバンドをルーツとしているが、後に2人のメンバーが脱退し、ローズ・マクドウォールとジル・ブライソンの2人組になった。
オレンジ・ジュースやアズテック・カメラといったネオアコースティックバンドで知られるインディーズレーベル、ポストカードレコードと契約はするもののリリースはなく、後にザ・KLFを結成するビル・ドラモンドと元ティアドロップ・エクスプローズのデヴィッド・バルフに見出されたりを経て、エコー&ザ・バニーメンのウィル・サージェントが運営するインディーズレーベル、92ハッピー・カスタマーズからシングル「トゥリーズ・アンド・フラワーズ」をリリースする。
インディーポップ的な音楽性で、この頃はまだシンセポップではなかった。批評家からはわりと高い評価を受け、イギリスのインディーズチャートでも最高3位を記録した。この曲にはアズテック・カメラのロディ・フレイムがギターで参加している。
最初のシングルのプロデュースも手がけていたビル・ドラモンドがワーナーミュージックグループのA&Rとして働きはじめていたこともあり、子会社のコロヴァと契約することになり、最初にリリースしたシングルが「ふたりのイエスタデイ」であった。
以前からライブのレパートリーとして演奏していた曲で、元々は「ダンス」というタイトルで呼ばれていたのだが、デビューアルバムを制作するにあたり、歌詞を大幅に書き直したりもした。
デビューアルバム「ふたりのイエスタデイ」からは「レット・ハー・ゴー」とザ・キュアーのフィル・ソーナリーがプロデュースした「愛の疑問」がシングルカットされるのだが、全英シングルチャートでの最高位はそれぞれ59位、84位と「ふたりのイエスタデイ」ほどのヒットにはならなかった。
「エクスタシー」「アイ・キャン・フィール」といったシングルは日本でのみリリースされ、ドリー・パートン「ジョリーン」のカバーバージョンはイギリスでも発売されたが、全英シングルチャートでの最高位は53位であった。
日本ではヘアケア商品や軽自動車のCMに楽曲が起用されたり、フジテレビの「大晦日チャリティスペシャル・世界紅白歌合戦」に出演したりもした後に、1986年には来日公演も実現した。そこでは制作中で2作目のアルバムからも何曲かが披露されたのだが、それから間もなくメンバー間の関係性が修復不可能なレベルで悪化したことなどにより解散することになった。
活動期間もそれほど長くはなく、ヒット曲と呼べるのも「ふたりのイエスタデイ」1曲だけかもしれないのだが、とても印象に残る楽曲である。
個人的には大学受験から高校卒業ぐらいまでのタイミングでよく聴いていた曲という印象が強く、その年の卒業シーズンには尾崎豊、斉藤由貴、菊池桃子、倉沢淳美が「卒業」というタイトルのそれぞれ別の曲をシングルとしてリリースしていた。
「卒業」は斉藤由貴のデビューシングルだが、3枚目のシングル「初戀」はサウンド面で「ふたりのイエスタデイ」の影響を受けているような気がしないでもない。