ブラック・ボックス「ライド・オン・タイム」

イタリアのハウスミュージックグループ、ブラック・ボックスのシングル「ライド・オン・タイム」は1989年の9月から10月にかけて、全英シングルチャートで6週連続1位を記録したのみならず、この年の年間シングルチャートでも1位に輝く大ヒットとなり、イタロハウスと呼ばれる音楽を一般大衆レベルにまで知らしめることに成功した。

ハウスミュージックはディスコミュージックやフィリーソウルなどをルーツとするダンスミュージックの1ジャンルで、シカゴのゲイディスコ、ウェアハウスがその名称の由来だとされている。発祥はアメリカだが80年代後半以降はイギリスをはじめとするヨーロッパでもトレンドとなり、イタリアではイタロディスコの流れを汲んだイタロハウスが誕生する。

ダニエレ・ダヴォリ、ヴァレリオ・センプリチ、ミルコ・リモーニはイタリアでスターライトというプロダクションチームを結成し、シングル「ヌメロ・ウーノ」は全英シングルチャートで最高9位のヒットを記録する。その後、グループ名をブラック・ボックスに変更し、シングル「ライド・オン・タイム」をリリースすると、イギリスを含む3カ国のシングルチャートで1位を記録する大ヒットとなった。

ピアノのフレーズとソウルフルなボーカルが特徴的なアップリフティングなダンスチューンで、イタロハウスの名曲として知られるこの楽曲は、翌年にリリースされたデビューアルバム「ドリームランド」にも収録される。「ライド・オン・タイム」の次のシングル「エヴリバディ・エヴリバディ」やアルバムからシングルカットされたアース・ウィンド・アンド・ファイアー「宇宙のファンタジー」のカバーなどもヒットするのだが、あの間にミックスマスターという別名でリリースしたシングル「グランド・ピアノ」が全英シングルチャートで最高9位を記録してしまう好調ぶりであった。

「ライド・オン・タイム」はロリータ・ハラウェイの1980年の楽曲「ラヴ・センセーション」をサンプリングしていて、タイトルも時間に正確であるという意味の「ライト・オン・タイム」という歌詞を「ライド・オン・タイム」に改変もしくは聴き間違えたものだと思われる。

しかし、このサンプル使用は無許可だったうえにミュージックビデオやテレビ番組でのパフォーマンスではフランス人モデルのカトリン・キノールが歌っていることにされていたため、ロレッタ・ハロウェイとソングライターのダン・ハートマンによって法的措置を取られることになる。

この件は法廷外で非公開の和解金を支払うことで解決したのだが、ブラック・ボックスは後にMピープルのボーカリストとして知られることになるヘザー・スモールのボーカルで「ライド・オン・タイム」をレコーディングし直して再リリースした。

また、次のシングル「エヴリバディ・エヴリバディ」やアルバム「ドリームランド」でもボーカリストはカトリン・キノールだということにされていたのだが、実際に歌っていたのはウェザー・ガールズのメンバーとして「ハレルヤ・ハリケーン」をヒットさせたこともあるアメリカ人シンガーのマーサ・ウォッシュであった。

デモのためのセッションシンガーとして採用されたものの、まさかそれが公式に作品としてリリースされているとはまったく聞かされていなく、クレジットもされていなかったことが問題となったが、これもまた相当な報酬を支払うことによって、法廷外で和解に至っている。

マーサ・ウォルシュは1990年から翌年にかけて大ヒットしたC+Cミュージック・ファクトリー「エヴリバディ・ダンス・ナウ!」においても、実際には歌っていたもののクレジットされていなかったりもした。