邦楽ロック&ポップス名曲1001: 1999, Part.1

ここでキスして。/椎名林檎(1999)

椎名林檎の3作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高10位を記録した。

この1つ前のシングル「歌舞伎町の女王」がオリコン週間シングルランキングで最高50位を記録し、「新宿系」を自称するユニークなシンガーソングライターとして注目されていたのだが、この曲のヒットによって一般大衆的にも広く知られるようになった。

椎名林檎が福岡の高校生だった頃に書かれた楽曲で、デビューのきっかけとなったヤマハ主催のコンテスト「MUSIC QUEST JAPAN」にもこの曲で出場していた。

当時、付き合っていた男性に対する思いが歌われたストレートなラヴソングのようではあるのだが、そのオルタナティヴでサブカル的でもある作風が若者のみならず大人のリスナーたちからも支持されがちであった。

特に「現代のシド・ヴィシャスに手錠かけられるのは只あたしだけ」というフレーズあたりがかなり丁度よかったのだが、他にも「違う制服の女子高生を 眼で追っているの知っているのよ」というような日常的でリアルな歌詞があったかと思うと、「どんな時もあたしの思想を見抜いてよ」などとメインストリームのJ-POPソングとしてはなかなかユニークな言い回しがされていたりもする。

丸ノ内サディスティック/椎名林檎(1999)

椎名林檎のデビューアルバム「無罪モラトリアム」の2曲目に収録されている楽曲で、シングルカットはされていないものの代表曲として知られている。これ以前にシングル「歌舞伎町の女王」のカップリング曲として収録された「実録 ー新宿にて-丸の内サディスティック~歌舞伎町の女王」でライブバージョンのメドレーの一部として発表されてはいた。

椎名林檎がデビュー前、イギリスにホームステイしていた頃にシーケンサーでつくられた楽曲で、当初は英語の歌詞だったものに日本語を当てはめていったという。親からの影響で幼い頃によく聴いていたザ・ピーナッツ「東京の女」(作曲は沢田研二で、椎名林檎はこの曲をシングル「ギブス」のカップリング曲としてカバーしている)などのご当地ソングからも影響を受けている。

歌詞には御茶ノ水、銀座、後楽園、池袋といった地下鉄丸ノ内線の駅名が入っている。「肺に映ってトリップ」「グレッチで殴って」の「ベンジー」とは、椎名林檎が大ファンであったBLANKEY JET CITYの浅井健一の愛称である。

また、この曲で使われているコード進行がポップソングの典型例でもあることから「丸サ進行」とか「丸の内進行」などと呼ばれたりもするのだが、グローヴァー・ワシントン・ジュニアの1981年のヒット曲から「Just the Two of Us進行」(邦題は「クリスタルの恋人たち」で歌っているのはビル・ウィザース)と呼ばれる場合もある。

First Love/宇多田ヒカル(1999)

宇多田ヒカルのデビューアルバム「First Love」からシングルカットされ、オリコン週間シングルランキングで8cm盤が最高6位、12cm盤が最高2位を記録した。

シングル表題曲としては3作目にして初のバラードで、「最後のキスはタバコのflavorがした」という歌いだしのフレーズからしてすでに天才的な切ない失恋ソングである。

アルバムは累計約765万枚というとてつもない枚数を売り上げていて、オリコンアルバムランキングでも歴代1位となっているのだが、シングルカットされたこの曲も売れて、カラオケチャートでは15週連続1位を記録したりもした。

また、2022年にはこの曲と2018年のシングル「初恋」にインスパイアされたオリジナルドラマ「First Love 初恋」が配信されたり、リリース当時にはまだ生まれてもいなかった令和の若者たちにもJ-POPクラシックスの1つとして聴かれたり歌われたりし続けている。

光について/GRAPEVINE(1999)

GRAPEVINEの5作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高18位を記録した。

大阪出身の当時は4人組ロックバンドで、文学的な歌詞とエモーショナルな演奏などで高く評価された。バンド名はマーヴィン・ゲイ「悲しいうわさ」の原題「I Heard It Through the Grapevine」に由来する。

煮え切らない日常におけるそれほど分かりやすくはないのだが、なんとなくモヤモヤした逡巡のようなものがウェットになりすぎないロックチューンとして表現されているようでとても良い。

真夏の光線/モーニング娘。(1999)

モーニング娘。の5作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高3位を記録した。

テレビ東京で日曜の夜に放送されていたバラエティー番組「ASAYAN」で企画された「シャ乱Qロックヴォーカリストオーディション」では平家みちよが合格、デビューしたのだが、落選はしたものの有力であった福田明日香、中澤裕子、飯田圭織、石黒彩、安倍なつみによって結成されたのがモーニング娘。で、グループ名は喫茶店などでいろいろなものが付いてくるモーニングセットに由来し、最後の「。」は番組のテロップに慣例的に付いていたものを司会のナインティナインが採用したものである。

2期メンバーとして保田圭、矢口真里、市井紗耶香が加入し、福田明日香が卒業後にリリースされたのがこのシングルで、アップリフティングなサマーポップとして、それまでモーニング娘。にそれほど興味がなかった音楽ファンからもわりと高く評価されがちだったような記憶がある。

透明少女/NUMBER GIRL(1999)

NUMBER GIRLのメジャーデビューシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高85位を記録した。

福岡出身のオルタナティブロックバンドで、バンド名は中心メンバーの向井秀徳が宅録のユニット名として用いていたナンバーファイブ(ビートルズ「ビートルズ No.5!」に由来)と他のメンバーが以前にやっていたバンド名のカウガール(ニール・ヤング「カウガール・インザ・サンド」に由来)の一部をつなぎ合わせたものである。

激情的でありながらこの曲も収録したアルバム「SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT」のタイトルやジャケットアートワークにも見られる絶妙なポップ感覚もあり、いろいろな意味でオルタナティブであった。

「はいから狂いの少女たちは桃色作戦できらきら光っている」「気づいたら俺は夏だった」真実の切実さに見合ったオルタナティブロックでもありながら最高のポップソングである。

STAY GOLD/Hi-STANDARD(1999)

Hi-STANDARDの3作目のアルバム「MAKING THE ROAD」に収録された楽曲で、シングルではリリースされていないのだが代表曲として知られる。

英語詞のメロディックハードコアパンクというJ-POPのメインストリームとはほとんど関係がない音楽性でありながら、アルバムはオリコン週間アルバムランキングで最高3位のヒットを記録した。

パンクやラウド系のロックフェスティバル、AIR JAMの主催なども含め、日本国内でこのジャンルの音楽を定着させた功績はあまりにも大きく、各CDショップではこのあたりからラウドロックのコーナーをつくる動きが活発化していった記憶がある。

この翌年にはアニメ「キテレツ大百科」のオープニングテーマ曲として知られるあんしんパパ「はじめてのチュウ」を英語詞でパンクロック的にカバーした「My First Kiss」も収録したシングル「Love Is A Buttlefield」をヒットさせたりもしていた。

Boys & Girls/浜崎あゆみ(1999)

浜崎あゆみの9作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで3週連続1位を記録した。

モデルや女優として活動したり、AYUMI名義でアルバムもリリースした後にエイベックスと契約し、浜崎あゆみとしてCDデビューを果たした。自ら作詞を手がけ、その内容には痛みや悲しみを深く理解しながらも、ポジティブなメッセージが込められていがちである。ファッションやビジュアル的なイメージをも含め、特にギャル的な人たちにはカリスマ的な人気があった。

浜崎あゆみ自身が出演した化粧品のCMソングとして起用されたこの楽曲は、アップリフティングなポジティビティーに満ち溢れた初期の代表曲として知られ、歌いだしの歌詞である「輝きだした、僕達を誰が止めることなど出来るだろう」はそのままキャッチコピーとしても使用された。

2023年に日本マクドナルドが平成生まれの大人気バーガー3種を平成バーガーとして復活させた際には、当時を代表するヒット曲としてこの曲がCMソングに使われていた。