クリスタルズ「ヒーズ・ア・レベル」【CLASSIC SONGS】
1962年11月3日付の全米シングル・チャートでは、クリスタルズ「ヒーズ・ア・レベル」がボビー・ピケット「モンスター・マッシュ」にかわって初の1位に輝いていた。「モンスター・マッシュ」はモンスターたちがマッシュポテトと呼ばれるツイストダンスの一種を踊るという完全なノベルティソングなのだが、ハロウィンの定番曲としてすっかり定着してもいる。ビートルズはまだアメリカでブレイクしていなく、ブリティッシュ・インヴェイジョンも起こっていない。
フィル・スペクターがプロデュースした楽曲で初めて全米シングル・チャート1位を記録したのは、フィル・スペクター自身がメンバーでもあったテディ・ベアーズの「逢った途端にひとめぼれ(To Know Him Is to Love Him)」である。そして、次に1位になったのが、このクリスタルズ「ヒーズ・ア・レベル」であった。直訳すると「彼は反逆者」となり、ジャケットにはガールズ・グループ、クリスタルの写真ではなく、サングラスに革ジャンでオートバイに乗った不良少年のようなイラストが描かれている。彼のことを大人たちは誤解しているけれど、本当はやさしくて誠実だと歌う、ポップソングにはよくあるタイプの楽曲である。若者を対象とするポップソングは、もちろん10代の苦悩をテーマにしがちである。
「ヒーズ・ア・レベル」の作者は、「リバティ・バランスを撃った男」「恋の痛手」などのヒットでも知られるジーン・ピットニーである。しかし、これらのヒット曲は自作ではなく、バート・バカラックとハル・デヴィッドのコンビによって作詞作曲されていた。「ヒーズ・ア・レベル」が1位に輝いた週の全米シングル・チャートで2位だったのが「恋の痛手」であり、ジーン・ピットニーが作者と歌手で1位、2位にランクインしていたことになる。日本では飯田久彦のカバーが大ヒットした「ルイジアナ・ママ」が有名だが、これはジーン・ピットニーの自作曲である。
「ヒーズ・ア・レベル」のデモテープを聴いたフィル・スペクターはこの曲をクリスタルズに歌わせようとするのだが、ニューヨークを拠点とするクリスタルズがロサンゼルスのフィル・スペクターのところまでレコーディングに来るには時間がかかる。他の歌手によるバージョンがリリースされ、ヒットしてしまうのを防ぐためにはいち早くレコーディングする必要があった。そこでフィル・スペクターが取った方法というのは、ロサンゼルスにいたブロッサムズによってレコーディングを行い、クリスタルズのレコードとして発売するというものであった。クリスタルズのメンバーはラジオで自分たちのシングルとしてレコーディングした覚えのない曲が流れるのを聴いて、呆気にとられたといわれている。
この曲がグループにとって初の全米NO.1ヒットになったことによって、次のシングル「愛しているんだもの」もブロッサムズによってレコーディングされ、クリスタルズのレコードとしてリリースされた。全米シングル・チャートでの最高位は11位であった。ブロッサムズでリードボーカルをとっていたダーレン・ラヴはこの翌年にリリースされたフィル・スペクターのクリスマスアルバム「クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター」でも特に評価の高い「クリスマス(ベイビー・プリーズ・カム・ホーム)」などを歌うことになった。