「ザ・エレクトリカルパレーズ」について。

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お前らがいるから笑顔になれる〜♪という訳で、今回は「エレパレ」こと「ザ・エレクリカルパレーズ」について取り上げていきたい。

この「エレパレ」という単語をYouTubeだとかTwitterだとかでなんとなく見かけるなという気がしていて、おそらくマイルドに決定打となったのはレイザーラモンRGが語っていたやつだったと思うのだが、それをきっかけになんとなく概要はつかんだのであった。

まず、「エレパレ」というのは、お笑いコンビ、ニューヨークのYouTubeチャンネルにアップされている2時間以上にも及ぶ動画のことらしい。内容はドキュメンタリーである。ニューヨークの2人と放送作家でこの動画の監督でもある奥田泰がいろいろなお笑い芸人に話を聞いた映像で構成されている。

このタイトルにもなっている「ザ・エレクトリカルパレーズ」だが、吉本興業が経営するお笑い芸人養成所、 NSCこと吉本総合芸能学院の東京校に2011年に入学した17期生のごく一部から成る集団らしい。

彼らはお自分達の名前が印刷されたオリジナルのTシャツを作って着たり、テーマソングのようなものをことあるごとにみんなで歌っていたという。もちろんお笑い芸人として成功したいという夢をいだいた若者達であり、ネタ合わせなどを公園で行ったりするのが重要な活動で、それから一緒に飲みにいくなどもして仲良くなっていたようだ。

仲間意識と共にエリート意識もあり、同じ期の中ではひじょうに目立つ存在だったようだ。若者で学院には男女が在籍しているため、色恋沙汰やそれに準じることなどもあったあろう。いわばスクールカースト的なものでいうところの一軍というか、そういったものである。

しかし、彼らが学院を卒業し、プロの芸人として活動しはじめると、その噂をあらかじめ聞いていた先輩芸人たちからいじられたりからかわれたりするようになり、それまでどこかイケている集団という自意識があった「エレパレ」のメンバー達は、実は自分達がやっていたことは恥ずかしくてイタかったのではないかというような自覚を持ったのか、自然とそのことを口にしなくなっていったようだ。

吉本興業の一部の芸人たちの間で「エレパレ」の存在はなんとなく知られてもいたようなのだが、若気の至りで勘違いしたイタい連中とでもいうような消化のされ方をして、いまさら誰も話題にしないようなものになっていたようである。

それが2020年になって、ニューヨークがYouTubeで配信しているラジオ番組で少し話題になったところ、作家の奥田泰がひじょうに興味を示し、ぜひ掘り下げていこうというになったようである。

この動画というか映像作品には、お笑い芸人が話しているシーンしかほとんど登場しない。それが実に2時間以上も続く。普通に考えると退屈しても良さそうなものだが、まったくそんなことはない。どんどん引き込まれていって、あっという間である。構成が見事なのと、内容が素晴らしい。お笑い芸人養成所を舞台とした話ではあるが、それではお笑いに興味がない人にはつまらないのかというと、まったくそんなことはない。

たとえば学校でも会社でも部活でもサークルでもなんでも良いのだが、ある特定のコミュニティに所属した経験があるほとんどの人たちに刺さる内容なのではないかと感じる。

この映像作品に登場し、話す芸人にはお笑い芸人養成所の同じ期に在籍していたという共通点はあるが、「エレパレ」に対してのスタンスはそれぞれに違う。「エレパレ」の当事者であった人たちの中でも、まったく同じ時間や空間を共有していたにもかかわらず、現在から振り返ってみる印象はそれぞれに違っている。また、「エレパレ」の外にいた人々、中にはお笑いコンテスト番組のファイナリストに選ばれるようなレベルのコンビもいるが、その証言というのも様々である。これはたとえば学校のクラスでいう「エレパレ」的な集団と、それに対してのそれぞれの感情にも通じるものがあり、観る人によってはかさぶたを剥がすような胸の痛みやそれを越えた快感であったり、マイルドなざわめきを思い出したりもするのではないだろうか。

まるで都市伝説であるかのような、実態もよく分からない「エレパレ」という組織の全貌が徐々に解き明かされていくミステリー的な楽しみもあれば、「エレパレ」の青さやイタさに対してのコメディー的なおもしろさもある。ニューヨーク、特に屋敷裕政の質問力がまたすさまじく、この作品においてひじょうに重要な役割を果たしているのではないかと思える。

観る者のほとんどはこの作品の前半において、「エレパレ」に興味をひかれ、その青さやイタさをおもしろ可笑しく笑うスタンスなのではないだろうか。しかし、いつの間にかその中にいつかの自分自身を見つけたりもしている。そして、それが愛おしく思える。

「エレパレ」のメンバーたちが当時、歌っていたというそのテーマソングがこの作品の中で初めて歌われた時、ニューヨークと同様にわれわれはなんてダサい曲なのだろうと笑っているのではないだろうか。

しかし、レギュラー出演している静岡のラジオ番組で「エレパレ」について熱く語り、この曲をアカペラで歌っているうちに号泣してしまったレイザーラモンRGのように、いつしかとてつもない名曲のように思えてくる。

そして、このおそらく台本がないであろう作品の中で、ある芸人が無意識に明らかにしてしまったように、「エレパレ」とは単にいつかのあの芸人たちのみを指すのではなく、それはある意味、概念なのだということに気付かされる。つまり、われわれ一人一人にとって、それぞれの「エレパレ」があったかもしれず、出来ることならばいまでも、そしていつまでも「エレパレ」していたいとも思わされる。

先日、放送された「M-1グランプリ2020」は、ここ数年間と同じく待機させられたファイナリスト達が笑神籤(えみくじ)なるくじで選ばれた順番にステージに上がり、ネタを披露するというルールで進行された。1stラウンドの3番目に選ばれ、ステージに向かうニューヨークに向けて、数時間後にはチャンピオンになるマヂカルラブリーの野田クリスタルは、手で「エレパレ」のサインをつくってエールを送った。

「ザ・エレクトリカルパレーズ」は現在、YouTubeのニューヨーク Official Channelで無料で視聴することができるが、いまや50万再生を超える人気であることや、様々な芸人や業界関係者から絶賛されている上に、来年には映画祭への出品も予定されているという。

また、「エレパレ」の世界にハマった場合、「ザ・エレクトリカルパレーズ エピソード0 ラフレクラン西村の人間味あふれるエレパレ前日譚」や、様々な芸人が「エレパレ」について語る動画もひじょうに楽しめる。

まったくの余談だが、ロッキングサンの解散が告げられた明大前のガストというのが、駅のわりとそばの1階にある方なのか、少し歩いたところにある2階に上がる方の店なのかは気になるところである。

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