テイラー・スウィフトのベストソング10選 (The 10 essential Taylor Swift songs)

テイラー・スウィフトはアメリカはペンシルベニア州出身のシンガーソングライターで、カントリーシンガーとしてキャリアをスタートさせるが、少しずつ音楽性の幅を広げながらヒット曲を連発し、ポップミュージック界を代表する重要なアーティストの1人となった。

グラミー賞をはじめとす各音楽賞の複数回にわたる受賞やコンサートツアーを映像化した映画の大ヒット、さらにはアーティストの権利や女性の権利拡大についての主張などをも含め、その影響力はひじょうに大きなものになっている。

今回はそんなテイラー・スウィフトの楽曲の中からこれは特に重要なのではないかと思える10曲を厳選し、簡単な説明なども付け加えていきたい。

‘Love Story’ (‘Fearless’, 2008)

テイラー・スウィフトは16歳だった2006年にビッグマシーンレコードからリリースしたデビューアルバム「テイラー・スウィフト」の時点でシングル「ティアドロップス・オン・マイ・ギター」がヒットするなど、カントリーとポップスのクロスオーバー的なブレイクで注目をあつめていたのだが、その次のアルバム「フィアレス」ではメインストリームのポップシーンにより大きなインパクトをあたえた。

アルバムからのリードシングルとしてリリースされたこの楽曲はやはりカントリーとポップスのクロスオーバーを推し進めたような音楽性なのだが、よりキャッチーでラジオフレンドリーになっている。家族や友人からあまり良く思われていないボーイフレンドとの関係性をテーマにした歌詞は、テイラー・スウィフトの実体験をベースにしているといわれている。

シェクスピアの歴史的名作で悲劇的なラブストーリーとして知られる「ロミオとジュリエット」が参照されているが、テイラー・スウィフトはこの曲の歌詞をハッピーエンドで終わらせている。

この曲は全米シングルチャートで最高4位とテイラー・スウィフトにとって最初のトップ10ヒットとなり、全英シングルチャートでは最高2位、オーストラリアのシングルチャートでは1位を記録した。

‘You Belong with Me’ (‘Fearless’, 2008)

テイラー・スウィフトの2作目のアルバム「フィアレス」からシングルカットされた楽曲で、全米シングルチャートで最高2位のヒットを記録した。

バンドメンバーの男性がガールフレンドと電話をしていているのを聞いていて、どうやらしんどそうな状況だと察したテイラー・スウィフトは可哀想だと同情するだけではなく、それをモチーフにヒットソングまで書き上げてしまった。

おそらく自分自身の方が相手のことを理解しているのだが、本人はよりポピュラーで過大評価されているタイプの人物と付き合っている、というような恋愛あるあるをテーマにした素晴らしい楽曲である。

テイラー・スウィフトをカントリー出身のアーティストだと知っていればよりポップス寄りのカントリーソングだと認識することができるのだが、素で聴くとパワーポップだとかポップパンクと呼ばれる音楽にも近いテイストがある。

この曲のミュージックビデオではテイラー・スウィフトがイケてるチアリーダーとイケてない主人公を1人2役で演じていてとても良く、MTVビデオミュージックアワードではミーム化したビヨンセ「シングル・レディーズ(プット・ア・リング・オン・イット)」を抑えて最優秀女性ビデオ賞を受賞するのだが、これにステージ上でカニエ・ウェストが難癖をつけるという一幕があった。

この件は当時のテイラー・スウィフトにとってはわりとショッキングだったようなのだが、世論がかなり同情的だったのに加え、自身がこれも糧としてアーティストとしてより大きく成長していったような感じがあったりもする。

また、マイケル・ジャクソン「今夜はビート・イット」のパロディーソング「今夜もイート・イット」でおなじみのアル・ヤンコヴィックがこの曲を「TMZ」としてパロディー化したという一件もまた、テイラー・スウィフトがメジャーなポップアーティストとして認知されたことの証左であるような気がする。

‘We Are Never Ever Getting Back Together’ (‘Red’, 2012)

テイラー・スウィフトの4作目のアルバム「レッド」からリードシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートでは自身初となる1位を記録した。

デビュー当時の音楽性と比べるとかなりポップ寄りに振り切っていて、もはやカントリー的な要素はかなり少なくなってはいるのだが、それでもカントリーチャートで9週連続1位を記録したりはしている。

「私たちは絶対よりを戻しません」と直訳することもできるタイトルからも想像できるように、すでに別れてしまったいわゆる元カレとの絶妙に微妙な関係性とそれにまつわる感情に対してのフラストレーションが表現された素晴らしいポップソングである。

これもまたテイラー・スウィフト自身の実体験がモチーフになっているようなのだが、特に「そしてあなたは隠れて私のものよりもずっとクールなインディーズレコードで心の平穏を見いだすだろう」というような歌詞は、インディーロック的なスノビズムが心底大嫌いな個人的にも最高である。

テイラー・スウィフトが驚異的な早着替えに挑んでいるようにも見えるミュージックビデオもとても良い。

‘Shake It Off’ (‘1989’, 2014)

テイラー・スウィフトの5作目のアルバム「1989」からリードシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートで1位、全英シングルチャートで最高2位を記録した。

前作まではかろうじて残っていたカントリー音楽的な要素がすでにほとんど払拭されていて、エクレクティックなポップアルバムとして高く評価されたのが「1989」であった。

この曲はインターネットなどに現れるテイラー・スウィフトを嫌悪し攻撃するヘイターたちについて、けして気にしないという態度を明確にしている点で、同様のテーマを扱いながらも被害者意識が強めであったかつてのシングル「ミーン」からかなり変化している。

テナーサックスのサウンドも印象的な軽快なダンスポップで、ヘビーな題材を扱っていながら、「だって、遊び人は遊んで、遊んで、遊んで、遊んで 、ヘイターは憎んで、憎んで、憎んで、憎んで 、ベイビー、私はただシェイク、シェイク、シェイク、シェイク、シェイク」というような歌詞に見られるように、きわめて軽やかであるところがとても良い。

‘Blanc Space’ (‘1989’, 2014)

テイラー・スウィフトのアルバム「1989」から2曲目のシングルとしてリリースした楽曲で、全米シングルチャートでは前週まで1位だった自身の「シェイク・イット・オフ〜気にしてなんかいられないっ!!」を抜くと、7週連続1位の大ヒットを記録した。

デビュー当初は隣の女の子的な健全なイメージで知られていたテイラー・スウィフトだが、様々な相手とのデートやロマンスがマスコミで報道され続けるにつれ、そのギャップから意地の悪いバッシングを受けるようにもなっていった。

当初はそれらに傷ついたりもしていたのだが、ある時点からそれが可笑しくも感じられ、この曲ではメディアによってつくりあげられた恋多き女としてのイメージをデフォルメして演じきっている。

80年代シンセポップ的なサウンドにモダンなエッジを効かせたようなトラックにのせて、「魔法、狂気、天国、罪」などとテイラー・スウィフトは歌いはじめるのだが、「元恋人たちの長いリスト 彼らは私が正気じゃないというだろう でも私には空白があるの、ベイビー」の後にペンのカチッという音だけが聞こえて、「そしてあなたの名前を書くわ」と続く。

「ダーリン、私は白昼夢のような格好をした悪夢よ」というようなフレーズも印象的である。ミュージックビデオは歌詞のイメージをさらにデフォルメしたようなもので、テイラー・スウィフトの迫真の演技も光る。

テイラー・スウィフトがかつてこの曲について語っていたように、リスナーはユーモアを理解して最高のポップスリルを味わうか、そうでなければ真正のサイコパスだと思うかもしれないレベルである。

‘Style’ (‘1989’, 2014)

テイラー・スウィフトのアルバム「1989」から3曲目のシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートで最高6位を記録した。

アルバムタイトルはテイラー・スウィフトが生まれた年にちなんでいるのだが、このアルバムの80年代シンセポップ的な音楽性をも象徴しているように感じられる。

この曲はそれに加えダフト・パンクなどのファンキーなエレクトロニックミュージックからも影響を受けている。

くっついたり離れたりを繰り返す、けして健全だとは言い切れないのだが、よくあるロマンティックな関係性をテーマにしていて、そのような感じだからこそ私たちは新鮮さを失うことがないのだ、というようなことが歌われている。

マイルドに官能的なミュージックビデオも含め、テイラー・スウィフトがもはやデビュー当時の隣の女の子的なイメージから完全に脱し、成熟したポップアーティストとしての道を本格的に歩みはじめたことを知らしめるような楽曲だといえる。

アメリカのシンガーソングライター、ライアン・アダムスは「1989」に深い感銘を受け、翌年に全曲をカバーし、テイラー・スウィフト本人も感激していたのだが、この曲の歌詞に登場するジェームス・ディーンという固有名詞は、ソニック・ユースが1988年にリリースしたアルバムのタイトル「デイドリーム・ネイション」に改変されていた。

‘Look What You Made Me Do’ (‘Reputation’, 2017)

テイラー・スウィフトの6作目のアルバム「レピュテーション」からリードシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートでは通算5曲目、全英シングルチャートでは初の1位を記録した。

「1989」の大ヒットと高評価によりすっかりトップスターの仲間入りを果たしたテイラー・スウィフトだったが、その後、カニエ・ウェストや当時の妻であるキム・カーダシアンによる陰湿で卑劣な攻撃によって深く傷つけられたのみならず、インターネット上でのバッシングにもさらされ、遂には約1年間にわたり公の場から姿をくらませることにもなる。

さらにはSNSアカウントがすべて削除されたりもするのだが、その数日後にカムバックシングルとなるこの曲のティーザーが突然に公開された。

当時のテイラー・スウィフトの心理状態を反映していたであろうダークな楽曲で、敵対する相手に対しての因果応報と復讐がテーマになっている。サウンド的にはヒップホップやエレクトロポップからの影響が感じられるうえに、ライト・セッド・フレッド「アイム・トゥー・セクシー」のメロディーが引用されていたりもする。

ミュージックビデオもやはり楽曲のダークな世界観を反映しているわけだが、過去の様々な時代のテイラー・スウィフトのクローンが登場してお互いを罵り合う中、カニエ・ウェストの陰湿で低俗な嫌がらせを受けた2009年のMTVビデオミュージックアワードのときの衣装を着てトロフィーを持ったテイラー・スウィフトのクローンが「私はこの物語から除外されたい」と告白するも、他のクローンたちから「黙れ」とたしなめられるところで終わる。

「私は誰も信用しないし誰も私を信用しない 私は女優になってあなたの悪夢に出演するわ」「かつてのテイラーは現在電話に出られません なぜ? 死んでいるから」というような歌詞が当時のテイラー・スウィフトの心の闇を感じさせ、この曲自体も賛否両論が分かれるところなのだが、後により重要なアーティストとしてリスペクトされるようになるテイラー・スウィフトのキャリアにおいてひじょうに重要な楽曲であることには間違いがなく、それでいてポップソングとして素晴らしく大ヒットもしている。

‘Cruel Summer’ (‘Lover’, 2019)

テイラー・スウィフトの7作目のアルバム「ラヴァー」に収録された楽曲で、リリース当初から人気があったのだがシングルカットはされていなかった。その理由の1つは新型コロナウィルスの感染拡大だったともいわれる。

中毒性の高いシンセポップサウンドが印象的なこの楽曲は、レコーディングにギターの演奏でも参加しているセイント・ヴィンセントとの共作であり、テイラー・スウィフトが公私共に辛い思いをしていた2016年の夏について歌っていると思われる。

テイラー・スウィフトは2020年の新型コロナウィルス禍において、「フォークロア」「エヴァーモア」というインディーロックから影響を受けた2作のアルバムをサプライズリリースし、大ヒットを記録したのみならず、批評家からも高い評価を受けることになった。

「フォークロア」はグラミー賞で最優秀アルバム賞を獲得し、テイラー・スウィフトはこの賞を3回受賞した最初の女性アーティストとなった。

その後、過去のアルバムの再録音盤をリリースしはじめたり、10作目のアルバム「ミッドナイツ」では全米シングルチャートの上位10曲をすべて収録曲が独占するという歴史上初の快挙を成し遂げるなど、テイラー・スウィフトの人気や影響力はさらに高まっていった。

そのような状況下で「ザ・エラス・ツアー」と題したワールドツアーがスタートするのだが、そこで演奏されたこともあり、「クルエル・サマー」の人気がふたたび盛り上がり、レーベルも遂にこの曲をシングルカットして本格的にプロモーションを行うことを決意した。

そして、リリースから約4年2ヶ月後となる2023年10月28日付の全米シングルチャートで1位に輝き、代表曲の1つとして広く知られるようになった。

‘All Too Well (10 Minute Version) (‘Red (Taylor’s Version)’, 2021’)

テイラー・スウィフトは2018年にリパブリックレコードと新たな契約を結んだのだが、その後、以前のレーベルであるビッグマシーンレコードを買収したタレントマネージャーのスクーター・ブラウンとの間にアルバムのマスターをめぐっての争いが起こり、結果的にテイラー・スウィフトはビッグマシーンレコード時代のアルバムすべてを再レコーディングすることによって所有権を持つことを選んだ。

「オール・トゥー・ウェル」はテイラー・スウィフトが2012年にリリースしたアルバム「レッド」に収録されていた楽曲で、その時点ですでに人気や評価は高かったのだが、テイラーズ・ヴァージョンと名付けられた再録音バージョンにはオリジナルが約5分29秒だったにに対し、約10分13秒にも及ぶ「オール・トゥー・ウェル・テン・ミニット・ヴァージョン」が収録され、これこそがテイラー・スウィフトの真骨頂とでもいうような概ね最高の評価を受けることになった。

失恋ソングに分類されるバラードではあるのだが、新録音バージョンでは歌詞がより具体的になり、オリジナルバージョンがやや被害者意識的でもあったのに対し、相手の有害な男性性を激しく非難しているようにも感じられる。

全米シングルチャートで1位、全英シングルチャートで最高3位のヒットを記録したのだが、特に全米シングルチャートでは歴代最も長い全米NO.1ヒットの記録を1972年のドン・マクリーン「アメリカン・パイ」以来、約49年ぶりに更新することになった。

‘Anti-Hero’ (‘Midnights’, 2022)

テイラー・スウィフトの10作目のアルバム「ミッドナイツ」からリードシングルとしてリリースされた楽曲で、全米シングルチャートで8週連続1位、全英シングルチャートでも「ルック・ホワット・ユー・メイド・ミー・ドゥ」以来となる通算2曲目の1位を記録した。

パンデミック渦中のインディーロック的なアルバム「フォークロア」「エヴァーモア」のサプライズリリースや以前のレーベルとマスターの所有権をめぐって対立した結果としてはじまった過去のアルバム再レコーディングプロジェクトなどを経てリリースされたシンセポップ的な楽曲だが、深みはより増しているように感じられる。

ポップスターとしての自分自身を襲う自己嫌悪や摂食障害や悪夢などを題材にした自己批判的な楽曲で、赤裸々でヘビーな内容であるにもかかわらず、サウンド的にはたまらなくポップであるところがとても良い。