邦楽ロック&ポップス名曲1001: 2020

青空/aiko(2020)

aikoの39作目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高6位を記録した。この楽曲のリリースと同時にaikoがそれまでに発表したほぼ全楽曲のサブスクリプションサービスでの配信が解禁された。前年にはベストアルバム「aikoの詩。」がリリースされていたこともあり、これをきっかけにこの類まれなるシンガーソングライターの作品にアクセスすることがひじょうに容易になったのであった。

それで、この「青空」という曲なのだが、いわゆる失恋ソングの類になるのだろう。それにしても傷跡もまだ生々しい時の気分を「あなたにもう逢えないと思うと 体を脱いでしまいたいほど苦しくて悲しい」などと表現しているところからすでに信頼にじゅうぶん値する予感しかしないのだが、それは概ねあたっている。

そんな気分をシティポップ的でもある爽やかなサウンドにのせて歌っているところもまた健気でとても良い。「なんだよあんなに好きだったのに 一緒にいる時髪の毛とか凄い気にしていたのに恋が終わった」のくだりなどもヤバくて最高である。

春の風/サニーデイ・サービス(2020)

サニーデイ・サービスのアルバム「いいね!」からのリードトラックである。新型コロナウィルス禍であることが一般大衆にまで深刻に認識され、曖昧な恐怖や不安が広がりつつあった頃に、まずは配信でフットワーク軽めにリリースされたのが印象的であった。

ベテランと呼べるキャリアを重ねたバンドにしてこの軽やかさは実に素晴らしく、刹那的なパッションを含めた、ポップミュージックの真髄をコアに保ち続けたまま成長するとはどういうことなのか、というのを実証したような楽曲である。

「今夜でっかい車にぶつかって死んじゃおうかな」という歌いだしの歌詞にもそれは表れていて、おそらくそんな気分はずっと続いていくのだが、それもけして悪くはないと思わせてくれる。

Mela!/緑黄色社会(2020)

緑黄色社会のアルバム「SINGALONG」収録曲でシングルではないのだが、オリコン週間シングルランキングで最高31位、Billboard JAPAN Hot 100で最高37位を記録した。とはいえ、人気や知名度はこれらの順位からの想像を大きく超えていて、ストリーミングチャートにもよくランクインしている。

これには日本テレビ系の情報番組「スッキリ」における「ひとつになろう!ダンスONEプロジェクト」の課題曲に選ばれ、ダンス動画が広がっていったことが原因になっている。

長屋晴子のパワフルでありながら聴きやすいボーカル、快活なブラスサウンドが特徴的で、とてもアップリフティングな楽曲である。

オトナブルー/新しい学校のリーダーズ(2020)

新しい学校のリーダーズがライブ活動もままならぬいわゆるコロナ禍にリリースした配信限定シングルだが、約3年後の2023年に首振りダンスと呼ばれるユニークな振り付けがTikTokで話題となったのをきっかけにブレイクし、Billboard JAPAN Hot 100で最高10位のヒットを記録したのみならず、「第74回NHK紅白歌合戦」への出場も果たした。

テクノポップ的なサウンドにのせて和田アキ子「古い日記」をも彷彿とさせる昭和歌謡的なメロディー、さらにはセーラー服姿でのユニークなパフォーマンスも相まって、同時代的なポップスの快感をじゅうぶんに感じさせてくれた。

怪獣の花唄/Vaundy(2020)

Vaundyのファーストアルバム「Strobo」からリードトラックとしてリリースされたのだが、当初からヒットしていたわけではなく、アーティストとしての知名度が上がるのと共に少しずつ支持されていき、「第73回NHK紅白歌合戦」でパフォーマンスした後の2023年になってからピークを迎えた。Billboard JAPAN Hot 100では2023年の年間3位を記録している。

ライブでのコール&レスポンスを意識したロックテイストのキャッチーな楽曲で、聴いても歌っても盛り上がるからか、2023年のオリコンカラオケランキングでは年間1位に輝いている。2作目のアルバム「replica」にはこの曲の新録音バージョンが収録されている。

感電/米津玄師(2020)

米津玄師の5作目のアルバム「STRAY SHEEP」からリードトラックとしてリリースされ、Billboard JAPAN Hot 100で最高2位を記録した。

「Lemon」を主題歌としていたTBS系のテレビドラマ「アンナチュラル」と同じスタッフによる新しいドラマ「MIU404」のために書き下ろされた楽曲である。刑事が主演のドラマということで、「太陽にほえろ!」などかつての刑事もののテーマソングをイメージし、ホーンを効果的に用いた派手めな楽曲となった。

犬や猫の鳴き声が入っているのは、当初のタイトルが「犬のおまわりさん」だった名残りだという。

朝になれ/加納エミリ(2020)

加納エミリがコロナ禍にリリースしたシングルで、「NEO・エレポップ・ガール」から一転し、よりソフィスティケイトされたサウンドが特徴である。

失恋した後の停滞していて主体的に何かをやる気がほとんど湧かない状態と、それでもこのままではいけないとはなんとなく思っている感じのようなものがテーマになっているようだ。

それでも「朝になれ」と受動的に待つしかないような絶妙に微妙な感覚は、コロナ禍の気分にもマッチしていたような気がする。

うっせえわ/Ado(2020)

Adoのメジャー1作目となる配信限定シングルで、Billboard JAPAN Hot 100で1位、2021年の年間チャートでは7位を記録した。

作詞・作曲はボカロPのsyudouで、その刺激的かつ挑発的な歌詞が支持を得たり話題になったりしたのだが、匿名性のベールに包まれた当時は高校生の新人シンガー、Adoの驚異的なボーカルパフォーマンスにも圧倒された。

歌いだしの「ちっちゃな頃から優等生」がチェッカーズ「キザギザハートの子守唄」の「ちっちゃな頃から悪ガキで」を思い起こさせたり、よく分からない社会人のマナーのようなものに毒づいたりしているところなどもとても良い。

ドライフラワー/優里(2020)

優里のメジャー2作目の配信限定シングルでBillboard JAPAN Hot 100での最高位は通算6週にわたる2位に終わったが、年間チャートでは1位に輝いた。

「声も顔も不器用なとこも 全部全部 嫌いじゃないの」のところがおそらく特に有名なバラードで、デビュー曲「かくれんぼ」のテーマになっていた恋の終わりが、女性側の立場から歌われている。