ロザリア「MOTOMAMI」アルバムレヴュー

スペイン出身のアーティスト、ロザリアが3作目のアルバム「MOTOMAMI」を2022年3月18日にリリースしたのだが、これがとても良いので取り上げておきたい。スペインのフラメンコ音楽とコンテンポラリーな実験ポップスとを程よくミックスしたようなユニークな音楽性には2018年にリリースされた前作「El Mal Querer」の時点でかなり高く評価されていて、本国のスペインではすでにスターだったのだが、インターナショナル的にも様々なメディアの年間ベストアルバムリストに選ばれたりしていた。その後にリリースされたいくつかのシングルも良かったのだが、このアルバムにおいてはさらにその路線を突き詰めて、よりバラエティーにとみ実験色が濃くなっているにもかかわらず、大衆音楽としての強靭さにかなりのものがあり、とても親しみやすくノリやすいところがある。その上でロザリアのパーソナルなところがより強く反映されていたり、フェミニズム性のようなものが強調されていたりもして、圧倒的な情報量となっている。

すでに世界的にも注目されているアーティストであることから、ザ・ウィークエンドやファレル・ウィリアムスといったビッグネームがかかわっていることも特徴である。それで、収録曲のタイトルを見ていくと、日本に関係するものがわりと多く、「CHIKEN TERIYAKI」は序の口で、「SAKURA」や「HENTAI」というものまである。「SAKURA」はアルバムの最後に収録されていて、ポップスターが脚光を浴びる期間というのが一般的にはそれほど長くはんないとされていて、それを華やかに咲いては散っていく桜にたとえているようだ。そして、「HENTAI」は美しくも感覚的なラヴバラードであり、ひじょうにセクシュアルな内容も歌われている。付き合いたての恋人たちががうれし恥ずかし気味につい言ってしまう「もう、ヘンタイ」のようなポジティヴなベクトルでの意味合いがここには含まれているようにも思える。糸井重里の「ヘンタイよいこ新聞」とは、チト(河内)ちがっているだろうか。そもそもジャケット写真からして、ヘルメットのようなものをかぶった全裸で、大切なところだけを手で隠している。Apple Musicで再生すると、股間にモザイク的に入れられた落書きのような線が動いたりもしてなかなか楽しい。

こういう多文化共生というか国際交流的なポップスというのは、アカデミックになりがちでもあるのだが、たとえばこのアルバムの場合などは良い意味での下世話さのようなものがしっかりしていて、安心して気軽に楽しめる。その上で、おそらくかなり深い。1曲目の「SAOKO」などはフリージャズ的なベースに乗せて、自由度高めのボーカルが適度に刺激的で、早くも期待を高めてくれるのだが、アルバム全体はそれをさらに大きく超えるクオリティーとなっている。個人的に2022年になってから現時点までにリリースされたニューアルバムとしては、宇多田ヒカル「BADモード」と並んでトップクラスに楽しめている。音楽的なタイプは異なっているものの、ビョーク「デビュー」やローリン・ヒル「ミスエデュケーション」、M.I.A.「カラ」などを初めて聴いた時に近い感覚のようにも思える。

このアルバムのレヴューをいくつか読んでいると、レゲトンというサブジャンル名がわりとよく出てきて、なるほど確かにその要素もあるな、という気分になってきたりもした。とにかく親しみやすい実験性と、大衆音楽としての底力のようなものがここまで高いレベルで両立した作品というのにも、そこまで頻繁に出会えるわけではない。現在、最も新しくてユニークで刺激的なポップスであることには間違いなく、もしも最近のポップアルバムを1作だけ聴く時間があるのならば、まずは全力でおすすめしたい作品だといえる。