リナ・サワヤマ「SAWAYAMA 」【Album Review】

リナ・サワヤマは1990年に新潟で生まれ、4歳の時に父の仕事の都合のため家族でロンドンに移住、後にケンブリッジ大学を卒業するのだが、学生時代から音楽を制作し、卒業後はアーティストやモデルとしてロンドンを拠点として活動している。イギリスでのレーベルはThe 1975、ウルフ・アリスも所属するダーティ・ヒット、日本ではavex traxである。ウルフ・アリスのベーシスト、セオ・エリスとは学生時代にヒップホップ・グループのレイジー・ライオンで一緒に活動していたようである。2017年にはミニ・アルバム「RINA」をリリース、様々なメディアに取り上げられる。そして、先日にリリースされた「SAWAYAMA」がデビュー・アルバムとなる。

初期の作品においては、宇多田ヒカルやブリトニー・スピアーズといった、2000年前後辺りのポップ・ミュージックからの影響が見られたのだが、このアルバムにおいては音楽性がより幅広く、深まっているように思える。それでいてキャッチーさは失われていないというか、より強まっているような印象を受け、セクシュアリティーや国籍といった、このアーティストの個性にかかわる部分もナチュラルに際だっている。国際的であり、かつ多様性を肯定するタイプの表現には希望を感じるが、このアルバムが偶然にもこのタイミングでリリースされたことの意味についても、深く考えさせられるところがある。

ひじょうにヴァラエティーにとんだ素晴らしいポップ・アルバムなのだが、先行トラックとして昨年にリリースされた「STFU!」の印象が強いせいか、やはり2000年前後に流行った、いわゆるニュー・メタルなどと呼ばれたタイプの音楽からの影響が指摘されがちなようである。リンプ・ビズキットやエヴァネッセンスといった、あの辺りの音楽である。当時、すでにいい大人であった私には当時、大流行していたこれらの音楽がまったく好みではなく、そろそろ現役の新しいポップ・ミュージックファンとしては引退の時期なのかとわりと真剣に考えていたのだが、その後にザ・ストロークスが風穴を開けてくれて、ザ・ホワイト・ストライプスとかブラック・レベル・モーターサイクル・クラブとかヤー・ヤー・ヤーズとかが出てきて、まだ大丈夫というような気分になったのであった。

しかし、当時の若者たちにとっては、このニュー・メタルと呼ばれていたような音楽はリアルタイムの流行しているポップ・ミュージックであり、否応がなく思い入れが強い場合も少なくはないと思われる。私たちの世代におけるREOスピードワゴンやジャーニーといった、渋谷陽一がいうところの産業ロックのようなものだろうか。

「STFU!」をはじめ、このアルバムに収録されたいくつかの曲において、このニュー・メタル的な要素は有効に機能していて、最新型のポップスを構成する重要な一要素となっている。「STFU!」のミュージック・ビデオにおいては、レイシズムやセクシズムに対するカウンター的な要素も感じられ、実に痛快である。

他の楽曲では、やはりブリトニー・スピアーズなどの流れを汲むピュアなダンス・ポップとしてのクオリティーがひじょうに高く、純粋に楽しむことができる。また、アルバムの後半にいくにつれて、日本語の歌詞や東京の地名が登場し、このアーティストならではの魅力でありながら、ポップスとしてひじょうに開かれているというような感じを味わうことができる。

つい先日に聴いて、いまも衝撃を受け続けている韓国出身、大阪在住のラッパー、Moment Joonの「Passport & Garcon」を聴いて感じたこととも通じるのだが、現在においてはより個人的な表現こそが広くアピールすることにも繋がりやすいのか、などと考えたりもした。