チャーリーXCX「クラッシュ」アルバムレヴュー

イギリス出身のオルタナティヴ・ポップアーティスト、チャーリーXCXが5作目のスタジオアルバムとなる「クラッシュ」を2022年3月18日にリリースしたのだが、シンセ・ポップ・ミーツ・ディスコ・クラシック的なフューチャー・ノスタルジア感はデュア・リパやザ・ウィークエンドがメインストリームでヒットしまくっているいまどきのトレンドにも合っているともいえるものの、やはりオルタナティヴ体質が染みついているがゆえに、どうしてもメインストリームからははみ出してしまうところも含め、なかなか絶妙にかなり良いポップアルバムとなっている。

アトランティック・レコードとの契約でこれが最後のアルバムらしく、キャリア的にもわりと一区切り感がある作品なのかもしれない。確かにこれまでの集大成的な感じがしなくもないのだが、通勤通学時などにもちょうどいいキャッチーさとポップ感覚があり、機能性もなかなか高い。ダンスポップとしても優れているのだが、リスニングミュージックとしてもなかなか良いのではないだろうか。2012年にリリースされたアイコナ・ポップとのコラボレーション曲「アイ・ラヴ・イット」によって、チャーリーXCXのことを知った人たちも少なくなないと思うのだが、それ以降、いわゆるオルタナティヴ・ポップ的な音楽が注目されるようにどんどんなっていく時代において、その存在感も増していったようなところもある。2019年の「チャーリー」はより高く評価され、コロナ禍の時代を反映した次作の「ハウ・アイム・フィーリング・ナウ」では、また違った魅力を発揮していた。

それで、この「クラッシュ」というアルバムは制作過程においては、「ジャネット・アルバム」などと呼ばれてもいたらしく、ジャネット・ジャクソンの音楽から大きな影響を受けている。純粋に音楽面のみならず、アティテュードにおいてもそうだったのではないだろうか。つまり、あくまでオルタナティヴ・ポップ的なアーティストであるチャーリーXCXが、あえてど真ん中のメインストリームを狙ったアルバムなのではないかとも思われる。しかし、チャーリーXCXのこれまでの作品と同様に、これが本当にメインストリームの中心になることは、おそらく難しいのではないか。それはやはり、あくまでオルタナティヴな性質というのがコアのところにあるからであり、それを削ぎ落としたとすれば本質的な良さが同時に無くなるともいえるからである。

クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズ、キャロライン・ポラチェック、リナ・サワヤマといった、いかにもなゲストが参加もしていて、それぞれにハイクオリティーなコラボレート楽曲に仕上がっている。そして、けしてメインストリームのど真ん中にはなり得ない可能性が高い。しかし、だからそこが良いんじゃない的な魅力はひじょうに強く感じられはする。クールでキャッチーでアップリフティングな気分にさせてくれる機能性は抜群であり、日常生活におけるポップミュージックの存在意義というのはそういうものでもあるのではないかと感じる。そういったタイプの音楽としてはとても良いので、やはり平日の朝や通勤通学時にもとても相応しいし、ジャネット・ジャクソンの「コントロール」や「リズム・ネイション1814」にも、当時そんなところがあったかもしれない。