1993年の洋楽ロック&ポップス名曲ベスト50

10. Creep -Radiohead

この前の年の秋にリリースされた時には全英シングル・チャートにランクインしなかったのだが、イスラエルやアメリカのカレッジ・ラジオなどでヒットして、逆輸入のようなかたちでイギリスでもシングルが再発されると、すでにアルバムに収録されていたにもかかわらずトップ10入りを果たした。自己憐憫的な内容ではあるが、叶わぬ恋にくるしむ(あるいは苦しんだことがある)多くの人々の共感を得て、インディー・アンセム化した。

9. Herjazz – Huggy Bear

メインストリームのポップ・ミュージック界には当時はほとんど影響をおよぼしていないのだが、このバンドが大きな役割を果たしたライオット・ガールのシーンがその後の社会にあたえた影響はひじょうに大きいのではないかと思える。真実であるかのようにまかり通っている欺瞞を暴くという機能がプロテストソングにはあったはずなのだが、それを新たな次元において成し遂げようとする熱量のようなものがこの曲からは感じられるし、それは間違いなく世界をいくらかは変えたのではないだろうか。

8. For Tomorrow – Blur

グランジ・ロックが盛り上がっていた頃のアメリカをブラーは借金返済などもあり、ツアーせざるをえなかったわけだが、状況は最悪でホームシックにも陥ったのだという。しかし、それが誇張された英国性とでもいうべきものをコンセプトにした、当時のポップ・ミュージック界のトレンドとはほとんど関係がなくユニークなアルバム「モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ」を生むきっかけとなった。先行シングルであるこの曲を自身のラジオ番組で流した伝説のDJ、ジョン・ピールは収録アルバムのタイトルが「現代の生活はゴミ」という意味を持つことを知り、このバンドには自分とよく似たユーモアのセンスがあるみたいだ、といったようだ。

7. Razzmatazz – Pulp

70年代から活動するものの長い間、不遇であったパルプが好評だったシングル「ベイビーズ」の次にリリースしたのがこの曲であった。何やら怪しげなイントロに続いて歌われるのは、君の兄弟の問題というのは彼がいつも母親と寝ていることだ、というようなものである。そして、キャッチーなメロディーとこの時点ではまだ一般的にはほとんど無名だというのに、まるでスターであるかのようなジャーヴィス・コッカーのパフォーマンスである。

6. Heart-Shaped Box – Nirvana

「ネヴァーマインド」の大ヒットによってまさに世界を変えたニルヴァーナ、待望のニュー・アルバム「イン・ユーテロ」からの先行シングルである。とても聴きやすかったがゆえにヒットしたともいえる「ネヴァーマインド」の反動で、「イン・ユーテロ」はより生々しいサウンドになっていたのだが、この曲を含めシングル用の2曲はより聴きやすいアレンジが施され、プロデューサーのスティーヴ・アルビニはそれに不満を持っていた。魂の深淵からのラヴ・ソングとでもいうべきこの録音にはそのような様々な思惑や事情が影響しているのだが、それらすべてを飲み込んで、この状況でしか生まれえないひじょうにユニークな作品になっているように感じられる。

5. Open Up – Leftfield/Lydon

エレクトロニック・ミュージックのレフトフィールドとセックス・ピストルズやパブリック・イメージ・リミテッドで活躍したジョン・ライドンとのコラボレーション楽曲であり、ハリウッドを焼き尽くせというようなフレーズと共に、唯一無二のユニークなボーカルの魅力がフルに生かされている。いま現在のジョン・ライドンがいかに残念な状態になっていようとも、この曲の価値が下がるものではまったくない。

4. Stutter – Elastica

エラスティカはニュー・ウェイヴのシャープでスマートなイメージと音楽性を継承していて、NWONW(ニュー・ウェイヴ・オブ・ニュー・ウェイヴ)なるシーンの中心的な存在になるはずだったのだが、それほど盛り上がらなかったため、ブリットポップに組み込まれることになった。ブリットポップがムーヴメントとして肥大化していく中で、その一部はホモソーシャル的なしょうもない方向に向かっていって、それが終息を早めたような気もするのだが、エラスティカがいたおかげでまだましだったともいえる。枚数限定でリリースされたこのシングルはセックスを題材にした内容も含め、ポップ・ソングとしてほぼ完璧であった。しかし、シングルを手に入れることはなかなか困難で、少し後にリリースされた「NME」のコンピレーション・アルバムでやっと聴くことができた。

3. Killing In The Name – Rage Against The Machine

ハード・ロックとラップの相性が良いことは80年代から知られていたことではあったのだが、それが理想的なかたちになったのがこのシングルだったのかもしれない。「ファック・ユー、アイ・ウォント・ドゥ・ホワット・ユー・テル・ミー」の繰り返しには自ずとテンションが上がるわけだが、2009年にイギリスのオーディション番組「Xファクター」出演者のシングルがクリスマスにチャートで1位になるのを阻止するために、この曲を1位にしようというキャンペーンが行われ、実際にそうなったのも痛快であった。

2. Animal Nitrate – Suede

スウェードが1992年に「ザ・ドラウナーズ」でデビューした時にシーンに取り戻したのも、その後の失速によってシーンが失っていったものも、危険と背中合わせのセックスの感覚である。パルプのそういった表現とはまた違った、リビドーが迸る感じがひじょうに良かった。デビュー・アルバムからの先行シングルとしてリリースされ、初のトップ10入りを果たしたこの曲にはそのエッセンスが凝縮されているともいえ、アニマルと亜硝酸アミルとをかけたタイトルもそれに相応しい。ブレット・アンダーソンの同性愛経験のないバイセクシャル発言も懐かしく思い起こされる。

1. Cannonball – The Breeders

これもまたアメリカのオルタナティヴ・ロックであり、ピクシーズのメンバーでもあったキム・ディールが率いるザ・ブリーダーズのシングルなのだが、やはりグランジ・ロックとはまったく異なり、アート的なセンスも感じる。いわゆるギター・ロックであったとしても、こういう実験的でおもしろいのだがポップでキャッチなこともできるのだということを証明したかのような楽曲である。