ゴドレイ&クレームが監督したビデオ・ベスト10
1976年11月26日、イギリスのロック・バンド、10ccからケヴィン・ゴドレイ、ロル・クレームが脱退し、ゴドレイ&クレールとして活動することになった。楽曲を発表するのみならず、ギズモというギター・アタッチメントを開発したりもするのだが、80年代に入るとミュージック・ビデオの監督としても知られるようになっていく。1981年にMTVが開局し、ミュージックビデオが注目されるようになっていくのだが、その初期においてひじょうに重要な役割を果たしたともいえる。
今回は数ある監督作品の中から、特に重要だと思える10曲を選んでいきたい。
10. Fade To Grey – Visage (1981)
ゴドレイ&クレームが初めて監督をしたミュージック・ビデオは自身のシングル「ニューヨークのイギリス人」だったのだが、他のアーティストの楽曲としてはイギリスのニュー・ウェイヴ・バンド、ヴィサージの全英トップ10ヒット「フェイド・トゥ・グレイ」が初期のものとしては代表的である。
ヴィジュアル的な個性が際立つフロントパーソン、スティーヴ・ストレンジとその友人でDJであり音楽ジャーナリストのプリンセス・ジュリアをフィーチャーした、当時のニュー・ウェイヴ感覚がヴィヴィッドに感じられるビデオとなっている。
9. Hip To Be Square – Huey Lewis & The News (1986)
ゴドレイ&クレームのビデオといえば、イギリスのニュー・ウェイヴの印象がひじょうに強いのだが、それ以外のジャンルも結構手がけている。その一例がヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのアルバム「FORE!」からシングル・カットされ、ブレット・イーストン・エリスの小説「アメリカン・サイコ」に登場する連続殺人鬼、パトリック・ベイトマンのお気に入りでもあったこの曲である。
ビデオはメンバーや楽器などのあるパーツをアップで撮影した映像が次々と出てくる、ひじょうにユニークで実験的な内容となっている。
8. Everybody Have Fun Tonight – Wang Chung (1986)
ワン・チャンといえば、かつては読売ジャイアンツの背番号1にして世界のホームラン王、王貞治の愛称であったり、近年においてはネットスラングから派生したワンチャンスを意味する表現として日本人には知られているが、ここで取り上げるのは80年代にヒット曲を出したイギリスの2人組音楽ユニットのことである。
「エヴリバディ・ハヴ・ファン・トゥナイト」というフレーズの後に「エヴリバディ・ワン・チャン・トゥナイト」と歌詞にユニット名を入れてしまう身も蓋もなさがとても良かったこの曲は、全米シングル・チャートで最高2位のヒットを記録した。ミュージックビデオではメンバーがひじょうに小刻みに動いたり、背景にいる人々の位置やポーズが高速で変わるこれまた実験的なものなのだが、BBCではてんかん性発作を誘発する恐れがあるとして放送禁止になっていたようである。
7. We Close Our Eyes – Go West (1985)
ゴー・ウェストというと、ヴィレッジ・ピープルの楽曲でペット・ショップ・ボーイズのカバーによってヒットした曲が思い出されたりもするが、ここで取り上げるのは80年代半ばに人気があったイギリスのポップ・デュオについてである。ブルー・アイド・ソウル的でもありながらいかにも80年代らしいサウンドが特徴的なこの曲は当時、全英シングル・チャートで最高5位を記録した。
ミュージック・ビデオでは様々な技術が用いられているのだが、背景で木製のマネキンのようなものが大量に踊ったり、メンバーが独特の動きをしたりするところが特に印象的である。
6. Don’t Give Up – Peter Gabriel & Kate Bush (1986)
ピーター・ガブリエルが1986年にリリースした大ヒットアルバム「SO」からは先行シングルで全米シングル・チャートで1位に輝いた「スレッジハンマー」のビデオが、クレイアニメやストップモーションなどを効果的に用いて話題になっていた。
イギリスではアルバムから2枚目、アメリカでは5枚目のシングルとしてカットされたこの曲はケイト・ブッシュとのデュエットソングであり、ミュージックビデオでは太陽を背景に2人がずっと抱き合ったまま、カメラはその周りを回るだけという、ひじょうに尖った内容になっている。曲は全英シングル・チャートで最高9位を記録した。
5. Girls On Film – Duran Duran (1981)
デュラン・デュランのデビュー・アルバム「デュラン・デュラン」からシングル・カットされ、全英シングル・チャートで最高5位を記録した。日本では「グラビアの美少女」の邦題でも知られ、「オールナイトフジ」でグラビアアイドルが写真集などを告知するコーナーでも流れていた。
ニュー・ロマンティックと呼ばれるムーヴメントの中心的存在で、貴公子的なイメージが特徴的なのだが、このビデオにおいてはそのようなバンドの演奏シーンと共に、なぜかシコをふむ相撲レスラーがファッションモデル的な女性に投げ飛ばされたり、セクシーなナースにマッサージされたりと、謎めいたシーンがひじょうに多い。これですら検閲されたバージョンであり、放送禁止になったオリジナルのバージョンはもっときわどいものだったという。
4. Rockit – Herbie Hancock
ジャズ・アーティストのハービー・ハンコックがビル・ラズウェルらとの共同プロデューサーに迎えてリリースしたひじょうにユニークなシングルで、全英シングル・チャートで最高8位のヒットを記録した。
収録アルバムのタイトルが「フューチャー・ショック」であるように、当時はまだメインストリーム化していなかったヒップホップの手法などを取り入れた未来的なインストゥルメンタル曲であり、当時はテレビ番組のBGMなどでもよく用いられていた。
ビデオにはよく分からないロボットのようなものなどがいくつも登場し、ガジェット感覚がたまらない内容となっている。ビルボード・ビデオ・ミュージック・アワードを2部門で受賞したり、ミュージックビデオの初期の代表作として知られていたりもする。
3. Two Tribes – Frankie Goes To Hollywood (1984)
1984年に社会現象的ともいえるブームをイギリスで巻き起こしたフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの、3曲の全英NO.1ヒットのうちの1曲である。当時の世界情勢はアメリカ合衆国とソビエト連邦との冷戦状態による緊張状態にあったわけだが、このビデオでは両国の当時の首脳であるロナルド・レーガン大統領とコンスタンティン・チェルネンコ書記長とが土俵上でレスリングを行い、各国の要人などが客としてそれに熱狂するという内容であった。
2. Cry – Godley & Creme (1985)
ゴドレイ&クレームが1985年にリリースしたシングルで、全米シングル・チャートで最高16位を記録した。様々な人々の顔がごく自然に次々と変わっていく映像的な技術が用いられていて、これがひじょうに話題になっていた。
1. Every Breath You Take – The Police (1983)
ポリスのアルバム「シンクロニシティー」からの先行シングルで、アメリカやイギリスなどのシングル・チャートにおいて、1位に輝いた。ゴドレイ&クレームはこのアルバムからシングル・カットされた「アラウンド・ユア・フィンガー」「シンクロニシティーⅡ」のミュージックビデオや、映像ソフト化もされたライブ映像も監督していた。
モノクロでバンドの演奏シーンを撮影した映像は、1944年の短編映画「ジャミン・ザ・ブルース」にインスパイアされたものだという。ゴドレイ&クレームが監督したミュージックビデオの中でも最もポピュラーであり、高く評価されている印象がある。