ザ・ウィークエンド「Dawn FM」以前を10曲で振り返る
2022年最初のメジャーなアーティストによるニューアルバムともいえるザ・ウィークエンドの「Dawn FM」が素晴らしいということについてはアルバムレヴューにて取り上げたわけだが、今回はザ・ウィークエンドがデビューして以降、「Dawn FM」以前に発表した楽曲から10曲を選び、ほぼリリース順に並べてみることによって、ここに至る軌跡を振り返ると共に、「Dawn FM」をより深く味わうことができるようにしていきたい。
House Of Balloons/Glass Table Girls (2011)
ザ・ウィークエンドのデビューミックステープ「ハウス・オブ・バルーンズ」は2011年にインターネット上でリリースされたのだが、無料で聴くことができるようになっていて、そのクオリティーの高さは音楽メディアなどでひじょうに話題になった。
この曲はタイトルトラックともう1曲の「グラス・テーブル・ガールズ」がメドレーになっているというか、2部構成のようにもなっている。
このミックステープでは音楽性はオルタナティヴR&Bという感じなのだが、ビーチ・ハウスやコクトー・ツインズといったインディーロックもサンプリングしていることも話題になったのだが、このタイトルトラックではスージー&ザ・バンシーズの1980年のシングル「ハッピー・ハウス」がほとんどずっとサンプリングされている。
当時は無名で匿名性も高かったことから、そのミステリアスなところも含めて一気に注目されるようになった。
Wicked Games (2011)
この曲もまた、デビューミックステープ「ハウス・オブ・バルーンズ」に収録されていた。ザ・ウィークエンドはその後、「サースデイ」「エコーズ・オブ・サイエンス」と続けてミックステープをリリースし、いずれも高評価を得ることになった。
その間に行われた地元カナダのトロントで行われたライブの後で同郷のビッグスター、ドレイクにも会って、アルバム「テイク・ケア」に参加することになる。
2012年にはリパブリック・レコーズと契約し、それまでに発表していた3タイトルのミックステープをリミックスした上でまとめ、新曲を追加した「トリロジー」をリリースする。これが全米アルバム・チャートで最高4位のヒットを記録した。
この曲はその先行シングルとしてリリースされ、全米シングル・チャートでの最高位は53位だったが、初期の代表曲としてひじょうに人気がある。
Often (2014)
その後、ドレイクは2013年に初のアルバムとなる「キス・ランド」をリリースし、全米アルバム・チャートで最高2位を記録した上に、評価も高かった。
また、ビヨンセの曲をリミックスしたりアリアナ・グランデとコラボレートするなど、知名度をどんどん上げていった。
そして、2作目のアルバム「ビューティ・ビハインド・ザ・マッドネス」から先行シングルとしてリリースされたのが、この曲であった。
これもまた全米シングル・チャートでの最高位は59位とそれほど大きなヒットにはなっていないのだが、セックスとドラッグというザ・ウィークエンドにとってひじょうに重要なテーマが取り上げられた楽曲であり、セールスとストリーミング回数とを合算した集計によりトリプルプラチナが認定されている。
Earned It (2014)
2作目のアルバム「ビューティ・ビハインド・ザ・マッドネス」がリリースされる前の年の末、映画「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」のサウンドトラックからこの曲がシングルとしてリリースされた。
全米シングル・チャートで最高3位と、初のメジャーなシングルヒットとなった。
この曲は第88回アカデミー賞で最優秀オリジナルソング賞にノミネートされたり、第58回グラミー賞においては最優秀R&Bパフォーマンスを受賞するなど、ザ・ウィークエンドの存在を一般大衆レベルにまで知らしめる上で重要な役割を果たしたのではないかと思われる。
The Hills (2015)
「ビューティ・ビハインド・ザ・マッドネス」からの先行シングルで、全米シングル・チャートで1位に輝いた。といっても、ザ・ウィークエンドが初めて全米シングル・チャートで1位になったのは、この曲の次にシングルカットされた「キャント・フィール・マイ・フェイス」によってであった。
この曲は初期のミックステープ時代の音楽性に回帰したようなところもあるとして、ひじょうに高く評価されていて、それがヒットにも結びついたかもしれない。
メジャーなサウンドでありながらも本来の持ち味であるダークな世界観がきわまっているようなところがある。せんべいシングル・チャートでは6週連続1位の大ヒットとなり、プラチナやマルチプラチナを大きく超えるダイヤモンドが認定されている。
Can’t Feel My Face (2015)
「ビューティ・ビハインド・ザ・マッドネス」からの先行シングルとしては3曲目にリリースされたのだが、2曲目の「ザ・ヒルズ」よりも先に全米シングル・チャートで1位に輝いた。ザ・ウィークエンドにとっては初めての全米NO.1ヒットとなる。この後にリリースされたアルバムも初めて全米アルバム・チャートで1位に輝いた。
ザ・ウィークエンドの音楽はマイケル・ジャクソンからも強く影響を受けているといわれているが、それがよくあらわれていると感じられるのがこの曲で、ひじょうにキャッチーでありながらポップソングとしての強度はかなりのものである。
この年のサマーアンセムともいえるOMI「チアリーダー」を抜いて、8月22日付の全米シングル・チャートで初の1位に輝くのだが、翌週には早くも抜き返されている。しかし、2週後にはふたたび抜き返し、翌週にはジャスティン・ビーバー「ホワット・ドゥ・ユー・ミーン?」に抜かれるが、さらに翌週には返り咲いている。そして、その翌週にこの曲に替わって1位になったのが、またしてもザ・ウィークエンドの「ザ・ヒルズ」であった。
Starboy (2016)
ザ・ウィークエンドの3作目のアルバム「スターボーイ」にはダフト・パンクとコラボレートした曲も収録され、全米アルバム・チャートでは前作に続いて1位に輝いた。
そして、先行シングルとしてリリースされたこの曲も全米シングル・チャートで3曲目の1位を記録した。
メジャーに売れまくっていながらもどんどん攻めまくる姿勢がひじょうに刺激的であり、人気や評価はさらに高まっていくのだった。
I Feel It Coming (2016)
「スターボーイ」のアルバムからダフト・パンクとコラボレートしたもう1曲であり、全米シングル・チャートでは最高4位を記録した。
10曲だけなのだからもっといろいろなタイプを選んだ方が良いのだろうが、この「スターボーイ」に収録されたダフト・パンクとのコラボレーション2曲はどちらもとても良い。さらにその後のフューチャー・ノスタルジアな音楽性を考える上でも、ひじょうに重要なのではないかと考えられもする。
マイケル・ジャクソンのアルバムにはAOR的ともいえる楽曲も収録されていて、それが人種を超えた幅広いファンを獲得するきっかけになったようにも思えるのだが、この曲にはそれに近いものが感じられなくもない。
ザ・ウィークエンドとダフト・パンクはこのコラボレーション以前から友人であり、スタジオを訪ねた時にダフト・パンクによって聴かせてもらったこの曲にザ・ウィークエンドがすぐに歌詞をつけたのがコラボレーションのはじまりだったという。
Call Out My Name (2018)
2018年にザ・ウィークエンドは映画「ブラックパンサー」のサウンドトラックにケンドリック・ラマーとのコラボレート曲を提供するのだが、それ以外ではEP「マイ・ディア・メランコリー」のリリースというのがあった。
タイトルがあらわしているようにメランコリックな作品であり、EPとはいえアルバム扱いにはなったのでこれもまた全米アルバム・チャートで3作連続となる1位に輝いた。
この曲はEPからシングルカットされ、全米シングル・チャートで最高4位を記録した。
Blinding Lights (2019)
ザ・ウィークエンドの音楽にはマイケル・ジャクソンやプリンスからの影響も感じられる80年代ポップスの要素というのが以前からありはしたのだが、シンセポップやAORなども含め、さらにそれを前面に押し出してきたのが2020年にリリースした4作目のアルバム「アフター・アワーズ」である。
先行シングルとしてリリースされた「ハートレス」が2019年には全米シングル・チャートで1位に輝いていたが、翌週にはマライア・キャリー「恋人たちのクリスマス」にその座を明け渡す。年が明けてポスト・マローン「サークルズ」、ロディー・リッチ「ザ・ボックス」に続いて、4月4日付でザ・ウィークエンドの「ブラインディング・ライツ」が1位に輝いた。
それからかなりの期間ずっと全米シングル・チャートの上位にランクインしていた。トップ10以内にまるまる1年以上、100位以内に90週間もランクインし続けた曲は史上初ということである。ビルボードが何らかの指標によって集計した結果では、史上最もヒットした曲とされていたチャビー・チェッカー「ザ・ツイスト」(1960年)を抜いて、歴代1位に輝いたのだという。
この曲にまた80年代ポップス的なテイストが全開なのだが、こういったサウンドはフューチャー・ノスタルジアなトレンドでもあって、さらにはダークなトーンがコロナ禍の気分にもフィットしたのではないか、などといわれてもいた。
そして、「Dawn FM」へと続いていくのである。