ビヨンセの名曲ベスト10【Artist’s Best Songs】

ビヨンセは1981年9月4日、つまりダイアナ・ロス&ライオネル・リッチー「エンドレス・ラヴ」が全米シングル・チャートで1位に頃にアメリカはテキサス州ヒューストンで生まれた。幼い頃からソウル・ミュージックに親しみ、ダンススクールに通ったりタレントショーに出演したりもしていた。やがて女性ばかりの音楽グループに加入するが、後にこれをビヨンセの父がマネージメントし、グループ名もデスティニーズ・チャイルドに改名した。90年代後半から00年代初めにかけてヒット曲を連発し、大ブレイクを果たすことになるのだが、一方で各メンバーのソロアーティストとしての活動も活発化していく。2003年にシングル「クレイジー・イン・ラヴ」が大ヒットして、デスティニーズ・チャイルドが解散した後は、さらにソロアーティストとしての活動に力を入れていった。ヒップホップ時代にふさわしいスタッカート気味のリズミカルなボーカルスタイルのパイオニアといわれることもあり、さらにはプログレッシヴでありながらポップでキャッチーでもある楽曲の数々を発表し続けながらも、ソロアーティストとしてのスタジオアルバムは約20年間のあいだ、8作連続で全米アルバム・チャート初登場1位という快挙、グラミー賞をはじめ、各音楽賞もたくさん受賞したりノミネートされたりしている。その上で、レイシズムやセクシズム、ファシズムなどにたいしては反対の立場を明確にしている。21世紀において最も重要なアーティストであり、ポップスターの1人であることは間違いがない。今回はそんなビヨンセの楽曲から、これは特に名曲なのではないかと思える10曲をカウントダウンしていきたい。

10. Me, Myself and I (2003)

ビヨンセといえばプログレッシヴであったりアグレッシヴな、その時代におけるポップスの最新型を提示しているようなイメージも強いが、いわゆる和み系的な楽曲にもとても良いものが少なくはない。2003年にリリースされたソロアルバム「デンジャラスリィ・イン・ラヴ」から3作目のシングルとしてカットされ、全米シングル・チャートで最高4位を記録したこの曲などはその典型例であろう。どうしようもない男との関係によってひどい目にあったりしたとしても、自分自身を責める必要はない、というようなエンパワメント的な内容はその後のビヨンセの楽曲にも通じるものがあるが、とにかくスムーズで聴きやすいところが特徴でもある。

9. Drunk In Love (2013)

ビヨンセのアルバム「ビヨンセ」からシングル・カットされ、全米シングル・チャートで最高2位を記録した。ジェイ・Zと結婚したことはこの頃にはすでに公表されていたのだが、そのラップもふんだんにフィーチャーされている。そして、マドンナ「チェリシュ」からもインスパイアされているような気もするミュージックビデオも含め、とにかくセクシーでとても良い。テレビを家族で見ていた良識的な人たちから苦情が来まくるレベルの、やや本格的なやつである。ジェイ・Zのラップの一部にアイク&ティナ・ターナーの関係を感じさせもする、ドメスティックバイオレンス的とも取れる描写があり、そこが批判されたりもしていたのだが、とにかくセクシーすぎてごめんなさいね、という感じのやつなので、そこはまず間違いがない。

8. Break My Soul (2022)

2022年のアルバム「ルネッサンス」からの先行シングルで、全米シングル・チャートで1位に輝いた。90年代はじめ頃のハウス・ミュージックをアップデートしているようなところもあり、それはこの頃のトレンドでもあった。「ショウ・ミー・ラヴ」がサンプリングされたロビンSなどもかなり喜んでいるようで、とても良かった。

7. Run the World (Girls) (2011)

アルバム「4」からの先行シングルで、全米シングル・チャートでの最高位は29位である。当時のビヨンセのシングルとしてはそれほど大きくヒットしているほどではないのだが、とにかく音楽的にプログレッシヴかつアグレッシヴであり、女性にとってのエンパワメント的な内容もエッジが効きまくっていてとても良い。このようなテーマについて難癖をつける手合いというのは、こういうのが世界に影響をあたえた場合におそらく都合が悪くなると考えているだけであり、2020年にカーディ・Bとミーガン・ジー・スタリオンの「WAP」が大ヒットした時にもわらわら出現していたような気がする。女性の権利が縮小していくと、世の中はどんどんダサくなっていってしょうもないので、こういった曲はどんどん推進されていくべきである。

6. Irreplaceable (2006)

ビヨンセの2作目のアルバム「ビー・デイ」からシングル・カットされ、全米シングル・チャートで10週連続1位、年間1位に大ヒットを記録した。わりと攻めているダンス・ポップのイメージが強いアルバムにあって、NE-YOらとの共作であるこの曲はよりオーセンティック、というか元々は男性目線のカントリーミュージック的な楽曲だったという。失恋という多くの人々にとって共感しやすいテーマを扱い、その楽曲やボーカルのクオリティーによって、幅広いリスナーから支持を得たものと思われる。失恋の痛みを乗り超え、次に進む必要に深刻に迫られている人たちが、聴くと良いかもしれないと思える楽曲のうちの1つである。

5. Love On Top (2011)

ビヨンセのアルバム「4」からシングルカットされ、全米シングル・チャートで最高5位を記録した。ミュージックビデオがニュー・エディション「イフ・イット・イズント・ラヴ」にインスパイアされているように、80年代のスムーズなソウル・ミュージックからの影響が感じられる楽曲である。つまり、聴きやすくとても良い感じなのだが、それでいてビヨンセはこんなにも歌えたのかと思わせるようなボーカルを聴くこともできるなど、かなり良いことは間違いがない。

4. Countdown (2011)

ビヨンセのアルバム「4」からシングル・カットされ、全米シングル・チャートでの最高位は71位とまったく高くはないのだが、ボーイズⅡメン「ウー・アー」をサンプリングし、カウントダウンを歌詞に盛り込んだ、実験的でありながらポップでキャッチーでも素晴らしいラヴソングである。この曲によってポップ・ミュージックの可能性をまた拡張したのではないかといえるレベルであり、ミュージック・ビデオも当時、妊娠していたビヨンセをフィーチャーし、クールでとても見ごたえのあるものとなっている。

3. Formation (2016)

ビヨンセのアルバム「レモネード」から先行シングルとしてリリースされ、全米シングル・チャートで最高10位を記録した。音楽的にもトラップを取り入れたりニューオーリンズ的だったりと、ひじょうにユニークでありながら、人種差別に抗議する姿勢が明確にあらわれたプロテストソングにもなっている。これこそが内容のあるポップソングであり、純粋なラヴソングも含め、ポップスはそのレベルにはいろいろあるとはいっても、基本的に政治的であることから逃れることはできないことを再認識させてくれる。ビヨンセが今日において最も重要なアーティストの1人である理由が、この楽曲には凝縮されていて、引き起こした騒動も含め、これこそがポップだということができる。

2. Single Ladies (Put a Ring On) (2008)

ビヨンセのアルバム「アイ・アム…サーシャ・フィアース」から先行シングルとしてリリースされ、全米シングル・チャートで1位に輝いた。結婚についてあいまいな態度しか見せない男性と別れた女性をテーマにした、アップテンポなダンスポップであり、女性をエンパワメントするタイプの楽曲の1つである。ビヨンセを含め3人の女性が踊るモノクロのビデオは、インターネットで一般人を含む多くの人々によってパロディー化され、ビヨンセもそれを楽しく見ていたという。

1. Crazy in Love (2003)

デスティニーズ・チャイルドのリードボーカリストとして活動しながら、ソロアーティストとしても映画のサウンドトラックなどで楽曲を発表してもいたビヨンセだが、本格的なソロ活動のはじまりを強く認識させたのは、全米シングル・チャートで8週連続1位に輝いたこの曲であった。シャイ・ライツ「アー・ユー・マイ・ウーマン?」からサンプリングしたホーンも印象的なウルトラキャッチーなサウンドに、後にビヨンセの夫となるジェイ・Zのラップをフィーチャーし、この夏のサウンドトラックになるのではないかと即座に思わせるにじゅうぶんだったわけだが、いまや21世紀を代表するポップソングの1つともいえるレベルである。ミュージックビデオも素晴らしく、映像と音楽でこれがポップだと実感できる内容になっている。