洋楽ロック&ポップス名曲1001:1973, Part.2

Stevie Wonder, ‘Living for the City’

スティーヴィー・ワンダーのアルバム「インナーヴィジョンズ」からシングルカットされ、全米シングルチャートで最高8位、全英シングルチャートで最高15位を記録した。邦題は「汚れた街」である。

リトル・スティーヴィー・ワンダーとして12歳の若さでモータウンからデビューしていたが、この頃にはより社会的なテーマを扱い、すべての楽器演奏とボーカルを自ら行うという天才ぶりを発揮していた。

ミシシッピの貧しい家庭で育った若者が、ニューヨークに出てきて都会の罠にはまっていくというストーリーが歌われているが、同時に人種差別を告発してもいる。

レイ・チャールズ、イアン・ギラン、ラムゼイ・ルイス、オージェイズ、アイク&ティナ・ターナー、TOTO、ウータン・クランなど、実に多様なジャンルのアーティスト達によってカバーされている他、パブリック・エナミーやアッシャーの楽曲でサンプリングもされている。

Gladys Knight and The Pips, ‘Midnight Train to Georgia’

モータウンからブッダにレーベルを移籍して間もないグラディス・ナイト&ザ・ピップスのヒット曲で、全米シングル・チャートで1位、全英シングルチャートで最高10位を記録した。邦題は「夜汽車よ!ジョージアへ」である。

都会での夢が破れて地元に帰る男の姿が恋人の立場から歌われている。ジム・ウェザリーがこの曲を書いた時点では、汽車ではなく飛行機、ジョージアではなくヒューストンであった。

この曲の歌詞にインスピレーションをあたえたのは、後に日本でカメリアダイアモンドのCMに出演したりシングル「FOXY」をヒットさせるスーザン・アントンであった。

Elton John, ‘Goodbye Yellow Brick Road’

エルトン・ジョンのアルバム「黄昏のレンガ路」に先行してリリースされたシングルで、全英シングルチャートで最高6位、全米シングル・チャートで最高2位を記録した。タイトルは「オズの魔法使い」に由来している。

バーニー・トーピンの原点に帰りたいというテーマの歌詞、エルトン・ジョンのシンガー・ソングライターとしての魅力が最大限に発揮された素晴らしい楽曲である。

2023年公開のマーベル・コミックス映画「アントマン&ワスプ:クアントマニア」の予告編でこの曲を聴いて、その良さを再認識したり初めて感じたりした新しいリスナーも少なくはないと思われる。

The Wailers, ‘Get Up, Stand Up’

ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズのアルバム「バーニン」の収録曲で、代表曲の1つでもある。

立ち上がり、闘うことをあきらめるな、というひじょうに汎用性の高いメッセージソングだが、ボブ・マーリーは厳しい環境の中で生きるハイチの人々にインスパイアされてこの曲を書いたという。

ボブ・マーリーがライブで生前最後にパフォーマンスしたのもこの曲であった。

Elton John, ‘Bennie and Jets’

ルトン・ジョンのアルバム「黄昏のレンガ路」からシングルカットされ、全米シングルチャートで1位、全英シングルチャートで最高37位を記録した。邦題は「ベニーとジェッツ(やつらの演奏は最高)」である。

ヘルムート・ニュートンの写真のような未来的な架空のバンドをイメージした曲で、あたかもライヴ・レコーディングであるかのような演出がされている。

エルトン・ジョンはどうせヒットしないと思い、この曲のシングルカットには反対だったのだが、実際にはアメリカでひじょうによく売れた。特にソウル・ミュージックのリスナーにも好んで聴かれ、人気テレビ番組「ソウル・トレイン」にも白人のメジャーなアーティストとしては初めて出演し、この曲と「フィラデルフィア・フリーダム」をパフォーマンスした。

エルトン・ジョンのファルセットのボーカルは、フォー・シーズンズのフランキー・ヴァリを参考にしたものだという。

Dolly Parton, ‘Jolene’

ドリー・パートンのヒット曲で、ビルボードのカントリーチャートで1位、全米シングルチャートでは最高60位を記録した。イギリスでは1976年に全英シングルチャートで最高7位のヒットを記録している。

ジョリーンという名前の女性にどうか私の恋人を連れていかないでと懇願する内容になっているが、実際にドリー・パートンが新婚だった頃に夫に言い寄っていた赤毛の女性銀行員の存在がモチーフになっているという。

また、ジョリーンの容姿については、かつてドリー・パートンにサインを求めたとても可愛い10歳のファンをイメージしているということである。

1976年にリリースされたオリヴィア・ニュートン・ジョンのカバーバージョンは日本のオリコン週間シングルランキングで最高11位のヒットを記録した。

2004年にはザ・ホワイト・ストライプスがガレージロック的にアレンジしたカバーバージョンを発表して話題になったり、2024年にはビヨンセがアルバム「カウボーイ・カーター」でカバーしたりもした。

Billy Joel, ‘Piano Man’

ビリー・ジョエルの2作目のアルバム「ピアノ・マン」のタイトルトラックで、最初のヒットシングルである。全米シングルチャートでの最高位は25位であった。

デビューアルバム「コールド・スプリング・ハーバー」が売れずに、ロサンゼルスのバーでピアノ弾き語りをしていた頃の体験をベースにした楽曲である。歌詞に登場する様々なキャラクターにも、モデルがそれぞれ実在しているようだ。

1977年のアルバム「ストレンジャー」以降はヒット曲をいくつも出して、人気アーティストとしての地位を確立するのだが、「ピアノ・マン」はビリー・ジョエルの代表曲であるのみならず、代名詞としても知られるようになっていく。