洋楽ロック&ポップス名曲1001:1972, Part.3

Billy Paul, ‘Me and Mrs. Jones’

ビリー・ポールのアルバム「360ディグリーズ・オブ・ビリー・ポール」からシングルカットされ、全米シングルチャートで3週連続1位の大ヒットを記録した。

ケニー・ギャンブルとレオン・ハフのコンビがプロデュースしたフィリーソウルを代表するヒット曲で、不倫の恋をロマンティックに歌った最高のラヴバラードである。

歌詞はギャンブルとハフのレコード会社と同じビルの階下にあった小さなバーで、毎日会ってはそれぞれ別々の方向に帰っていく男女の姿から妄想をふくらませて書いたものだといわれている。

Stevie Wonder, ‘Superstition’

スティーヴィー・ワンダーのアルバム「トーキング・ブック」からシングルカットされ、全米シングルチャートで1位に輝いた。邦題は「迷信」である。

不吉な迷信を信じることの危険性について歌われたこの楽曲はスティーヴィー・ワンダーがモータウンポップから脱却し、より実験的でオリジナリティに溢れた音楽を追求するアーティストとして知られるきっかけにもなった。

元々はジェフ・ベックに提供するつもりの楽曲だったのだが、レコーディングに時間を要しているうちにスティーヴィー・ワンダーのバージョンの方が先に世に出て大ヒットした。

フェンダーローズピアノとクラヴィネットを含むキーボードのサウンドが特に印象的であり、日本では国内初のミリオンセラーアルバムとなった井上陽水「氷の世界」のタイトルトラックに影響をあたえたことでも知られる。

Lou Reed, ‘Walk on the Wild Side’

ルー・リードのアルバム「トランスフォーマー」からシングルカットされ、全米シングルチャートで最高16位、全英シングルチャートでは最高10位を記録した。邦題は「ワイルド・サイドを歩け」である。

デヴィッド・ボウイとミック・ロンソンによってプロデュースされたこの楽曲は、アンディ・ウォーホルのスタジオであるファクトリー周辺につどうトランスジェンダーやゲイの役者たちのことを歌っている。

両親によって自らの同性愛を治療されかけたりもした経験を持つルー・リードにとっては必然的なテーマだったともいえ、このような楽曲がメジャーにヒットした意義はひじょうに大きい。

エンディングでバリトンサックスを演奏しているロニー・ロスは、デヴィッド・ボウイが少年時代にサックスを習ったジャズミュージシャンである。

1990年にはア・トライブ・コールド・クエストが「キャン・アイ・キック・イット?」でサンプリングしたことが話題になったりもした。

Lou Reed, ‘Perfect Day’

ルー・リードのアルバム「トランスフォーマー」収録曲で、シングルカットされた「ワイルド・サイドを歩け」のカップリング曲でもある。

公園でサングリアを飲み、映画を見たり動物園で動物にエサをあげたりして過ごした完璧な日がテーマになっていて、あなたと一緒に過ごせてよかったというようなことが歌われている。

1996年の映画「トレインスポッティング」ではユアン・マクレガーが演じる主人公のレントンがヘロインを過剰摂取するシーンで使われ、この曲の新たな魅力を知らしめることになった。

その翌年にはルー・リードをはじめ、デヴィッド・ボウイ、エルトン・ジョン、ボノ、スザンヌ・ヴェガ、エミルー・ハリス、ボーイゾーン、ブレット・アンダーソンなど多くのアーティストが参加したカバーバージョンがチャリティーシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで通算3週1位を記録した。

Carly Simon, ‘You’re So Vain’

カーリー・サイモンのアルバム「ノー・シークレッツ」からシングルカットされ、全米シングルチャートで1位、全英シングルチャートで3位のヒットを記録した。

自己中心的で自惚れが強い恋人について批判的に歌ったこの曲はカーリー・サイモンの実体験に基づいているとされ、その実在のモデルについてもいろいろと詮索されたのだが、そのうちの1人が俳優のウォーレン・ベイティであることは明かされている。

バッキングボーカルにはハリー・ニルソンを予定していてレコーディングも行われていたのだが、たまたま連絡があったことがきっかけでスタジオを訪れることになったミック・ジャガーのバージョンの方がマッチしていたため、クレジットはされていないが採用されることになった。

テイラー・スウィフトが特に強く影響を受けた楽曲としても挙げられていて、2013年にはカーリー・サイモンとこの曲での共演も果たしている。

Steely Dan, ‘Do It Again’

スティーリー・ダンのデビューアルバム「キャント・バイ・ア・スリル」からシングルカットされ、全米シングルチャートで最高6位を記録した。

ニューヨークのバード・カレッジ在学中からの知り合いであったドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーは当時から一緒に曲をつくりはじめ、作曲家としてのキャリアを歩みはじめるのだが、なかなかうまくはいっていなかった。

そのうち音楽プロデューサーのゲイリー・カッツに見いだされて、レコードデビューのためにスティーリー・ダンを結成した。

ジャズやラテン音楽とロックとを組み合わせたようなユニークな音楽性が大いに受けて、スマートロックなどと呼ばれたりもした。同じアルバムからはよりロック的な「リーリン・イン・ジ・イヤーズ」の方が批評家などからは高く評価されがちである。

1983年にはクラブ・ハウスというイタリアの音楽プロジェクトがこの曲とマイケル・ジャクソン「ビリー・ジーン」とをマッシュアップしたシングル「不思議なビリー・ジーン」をリリースし、全英シングルチャートで最高11位を記録した。

Bobby Womack, ‘Across 110th Street’

映画「110番街交差点」のサウンドトラックアルバムからシングルカットされたボビー・ウーマックの楽曲で、全米シングルチャートで最高56位を記録した。

ニューヨークのハーレムを舞台にギャングとマフィア、刑事の抗争をリアルに描いた作品にふさわしい、ドラマティックでファンキーでありながら美しいストリングスも印象的な楽曲である。

1997年にはクエンティン・タランティーノ監督の映画「ジャッキー・ブラウン」でも大きく取り上げられ、新しい世代のリスナーを獲得することになったが、さらにその10年後にはリドリー・スコット監督の映画「アメリカン・ギャングスター」でも使われた。