洋楽ロック&ポップス名曲1001:1972, Part.1

Neil Young, ‘Heart of Gold’

ニール・ヤングのアルバム「ハーヴェスト」からのリードシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで1位を記録した。邦題は「孤独の旅路」である。

アコースティックギターを用いた楽曲が中心になったのは、背中を痛めてエレキギターを弾くことが困難になったからということなのだが、いずれにしてもこの曲は大ヒットして、ニール・ヤングをメインストリームにおいても大ブレイクさせた。しかし、それにはすぐに飽きたようだ。

ジェームス・テイラーとリンダ・ロンシュタッドがコーラスで参加している。また、この曲は大ヒットしてラジオでもよく流れていたようなのだが、ボブ・ディランに似ているなどともいわれていたようで、元々はニール・ヤングの音楽が好きだったボブ・ディランもこれには辟易していたようである。

Nick Drake, ‘Pink Moon’

ニック・ドレイクのアルバム「ピンク・ムーン」のタイトルトラックである。彼の他の楽曲と同様に、当時は特にヒットすることはなかったのだが、後に評価が高まっていった。

タイトルはニック・ドレイクが「民俗学辞典」で見つけた言葉で、日食時の血のように赤い色の月をあらわしている。他のミュージシャンは参加していなく、ニック・ドレイクの歌とピアノとギターのみが聴かれ、シンガーソングライターとしての魅力がよりダイレクトに伝わってくる。

この約2年後にニック・ドレイクは抗うつ剤の過剰摂取により亡くなってしまうのだが、楽曲は1999年にフォルクスワーゲン・カブリオレ・コンバーチブルのCMで使われることによって、アメリカではよく知られるようになった。

Todd Rundgren, ‘I Saw the Light’

トッド・ラングレンのアルバム「サムシング/エニシング?」からシングルカットされ、全米シングルチャートで最高16位を記録した。邦題は「瞳の中の恋」である。

アルバムは2枚組で全4面中の3面がトッド・ラングレンによる単独多重録音によるものであった。この曲はアルバムのヒット曲にするつもりで、モータウンのレコードの例にならって1曲目に収録したのだという。

リタリンなどの覚せい剤の影響によって約15分ほどで書き上げられたというこの楽曲はポップなラブソングとして人気が高く、トッド・ラングレンの代表曲として知られているが、当の本人はヒットしそうだとは思ったものの、常套句の並べただけのようで特に気に入ってはいなかったようである。

The Rolling Stones, ‘Tumbling Dice’

ローリング・ストーンズの2枚組アルバム「メイン・ストリートのならず者」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高5位、全米シングルチャートで最高7位を記録した。邦題は「ダイスをころがせ」である。

ブルースやブギウギ、ゴスペルなどからの影響をローリング・ストーンズ独自のグルーヴィーなロックンロールに発展させたともいえるアルバムは当時、コンセプトが散漫なのではないかというような批評もあったが、バンドにとってのみならずロックという音楽ジャンルそのものの最高傑作なのではないかと評価されることもある。

この時期のローリング・ストーンズの代表曲として親しまれ続けてきた1971年の「ブラウン・シュガー」が歌詞が時代にそぐわないという理由などにより、ライブのセットリストからも外されて以降は、特にこの楽曲の重要性も高まっているように感じられる。

Elton John, ‘Rocket Man’

エルトン・ジョンのアルバム「ホンキー・シャトー」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高2位、全米シングルチャートで最高6位を記録した。

レイ・ブラッドベリの短編小説に影響を受けて書かれたといわれ、火星に向かって単身で旅立った宇宙飛行士の複雑な心境が歌われている。

「ロケット・マン」はエルトン・ジョンのニックネームのようにもなり、1973年にロケット・レコーズが設立されたり、2019年に公開されヒットした伝記映画「ロケットマン」のタイトルにもなった。1991年にはケイト・ブッシュによるカバーバージョンが全英シングルチャートで最高12位のヒットを記録している。

Bill Withers, ‘Lean on Me’

ビル・ウィザースのアルバム「スティル・ビル」からリードシングルとしてリリースされ、全米シングルチャートで1位に輝いた。

アメリカ海軍や自動車会社での勤務を経て、32歳でデビューしたビル・ウィザースが実生活の経験に基づいて書いた人の助け合いなどをテーマにした楽曲で、その内容は長年にわたって広く共感され、チャリティーやトリビュートの場面で取り上げられることも多い。

1987年にはクラブ・ヌーヴォーによるカバーバージョンも、全米シングルチャートで1位に輝いている。

Alice Cooper, ‘School’s Out’

アリス・クーパーのアルバム「スクールズ・アウト」からのリードシングルで、全英シングルチャートで1位、全米シングルチャートで最高7位を記録した。

学校が夏休みに入った瞬間という人生において最高の時間をテーマにした素晴らしい楽曲で、限りない解放感に満ちあふれている。

ラモーンズが出演した「ロックンロール・ハイスクール」をはじめ、「バッド・チューニング」「リアリティ・バイツ」など多くの映画において使用されてもいる。

David Bowie, ‘Starman’

デヴィッド・ボウイのアルバム「ジギー・スターダスト」からリードシングルとしてリリースされ、全英シングルチャートで最高10位を記録した。

人類滅亡の危機を救うために異星よりやって来たロックスターをテーマにしたコンセプトアルバムの当時の邦題は、「屈折する星屑の上昇と下降、そして火星から来た蜘蛛の群」であった。この楽曲は地球の若者に希望のメッセージを伝えるその姿を、リスナーの視点から歌ったものである。

架空のロックスター、ジギー・スターダストはバイセクシャルという設定であり、当時、デヴィッド・ボウイはこの役を完全に演じきっていたのだが、この時代の特にイギリスで大流行したグラムロックは凝り固まった旧来の男性性のようなものから人々の意識を自由にしたという点でひじょうに価値がある。