1984年の邦楽ポップス名曲ベスト20
1984年にリリースされた邦楽のポップスからこれは名曲なのではないかと思える20曲を挙げていきたい。
20. 素直になりたい – ハイ・ファイ・セット
70年代に荒井由実の「卒業写真」「中央フリーウェイ」などを歌ったりモーリス・アルバートのカバー曲「フィーリング」を大ヒットさせていたコーラスグループ、ハイ・ファイ・セットがレーベルをCBS・ソニーに移籍してから最初のシングルで、オリコン週間シングルランキングでは最高19位を記録した。
大滝詠一、佐野元春と共に「ナイアガラ・トライアングルVol.2」に参加したことなどによりブレイクした杉真理が作詞・作曲を手がけた春らしいポップチューンである。
19. ハートのイアリング – 松田聖子
松田聖子には「ナイアガラ・トライアングルVol.2」に参加していた大滝詠一、杉真理がすでに楽曲を提供していたが、佐野元春がHolland Roseのペンネームで提供したのが、19枚目のシングルにあたるこの曲である。
このペンネームは佐野元春のラジオ番組のリスナーがホール&オーツの曲をリクエストする際に、間違えてホーランド・ローズと書いていて、オランダのバラというのはなかなか良いのではないかと思ったのと、モータウンの売れっ子ソングライターチーム、ホーランド=ドジャー=ホーランドを連想させもするということで採用したのだという。
オリコン週間シングルランキングでは1980年の「風は秋色/Eighteen」から17作連続となる1位を記録し、デビュー以来のシングル総売上枚数もピンク・レディー、森進一、山口百恵、沢田研二、西城秀樹、郷ひろみ、五木ひろしに次いで通算1000万枚を達成した。
18. ラーメンたべたい – 矢野顕子
矢野顕子の7作目のアルバム「オーエス・オーエス」からシングルカットされ、明星食品のCMにも使われた。オリコン週間シングルランキングでは圏外だったが評価はひじょうに高く、歌詞が高校の国語の教科書に採用されたりもしている。
仕事や育児に追われ、深夜についラーメンが食べたいと漏らしてしまった実体験がベースになっているという。奥田民生や木梨憲武、サニーデイ・サービスの田中貴などによってカバーもされている。
17. 真夜中すぎの恋 – 安全地帯
旭川市出身のロックバンド、安全地帯は井上陽水のバックバンドを経てデビューの後、1983年にリリースしたシングル「ワインレッドの心」でブレイクを果たした。次の大ヒットはバラードの「恋の予感」だが、その間にこの曲と「マスカレード/置き手紙」をシングルとしてリリースしている。この曲のオリコン週間シングルランキングでの最高位は20位である。
玉置浩二のボーカリストとしてのヤバさはバラードではもちろん、このようなアップテンポめな曲において、より効果を発揮してくるようにも感じられる。
16. ト・レ・モ・ロ – 柏原芳恵
1980年に「No.1」でデビューし、松田聖子、河合奈保子らと共にアイドルポップスの復権に寄与したが、70年代ポップスのカバー「ハロー・グッバイ」や中島みゆきが提供した卒業ソング「春なのに」のなどの印象が強い。
YMOを中心とするテクノブームはわりと早めに終息したのだが、ポップミュージック全般にあたえた影響はひじょうに大きく、メインストリームの歌謡ポップスにも電子楽器が効果的に用いられるようになった。これらは後にテクノ歌謡とも呼ばれるようになる。
柏原芳恵にとって17枚目のシングルとなり、オリコン週間シングルランキングで最高8位を記録したこの曲は、松本隆と筒美京平のゴールデンコンビによって書かれているが、注目すべきは電子楽器のフェアライトCMIを駆使した船山基紀のアレンジであろう。
「想い出がいっぱい」のヒットで知られるポップデュオ、H2Oがコーラスで参加している。
15. 風の谷のナウシカ – 安田成美
安田成美のデビューシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高10位を記録した。
宮崎駿監督のアニメ映画「風の谷のナウシカ」の主題歌を想定したが、歌詞が映画の内容に合っていないと反対され、シンボルテーマソングという扱いに落ち着いた。
前年でYMOを解散ならぬ散開した細野晴臣が作曲したテクノ歌謡だが、アレンジは荻田光雄によるものである。
14. 哀しくてジェラシー – チェッカーズ
チェッカーズは1980年に福岡県久留米市で結成されたロックバンドで、ヤマハ・ライトミュージックコンテストのジュニア部門で最優秀賞を受賞したのをきっかけに1983年に上京した。
職業作家によって提供された楽曲はバンドが本来やりたかった音楽性とは異なっていたが、楽曲やルックスのキャッチーさもあって、この年に大ブレイクを果たした。
この曲はバンドにとって3枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングでは初の1位に輝いた。「ザ・ベストテン」にデビューシングル「ギザギザハートの子守唄」、2枚目の「涙のリクエスト」と共に3曲同時にランクインしていたことが人気の盛り上がりを象徴していた。
13. 海 – サザンオールスターズ
この頃のサザンオールスターズはアルバムを出せば必ず1位になり、シングルもヒットする上に批評家からの評価も高いという、まさに無双状態を体現していた。とはいえ、前年のアルバム「綺麗」からシングルカットされた「EMANON」とその次の「東京シャッフル」では続けてトップ20入りを逃がしていた。
この年のオリコンアルバムランキングでマイケル・ジャクソン「スリラー」、映画「フットルース」のサウンドトラックに次いで年間3位を記録した「人気者で行こう」からは当初この曲がシングルカットされる予定だったが、回避されたといわれていて、その判断は賢明だったのではないかと思える。
元々はジューシィ・フルーツに提供し、シングル「萎えて女も意思を持て」のB面としてリリースされていたこの曲のサザンオールスターズによるセルフカバーは、「人気者で行こう」のB面に収録された。サザンオールスターズのAOR/シティ・ポップ的な側面を象徴するような曲としてクオリティーがひじょうに高く、ファンは大満足だが外部に向けてはまた別のアプローチがあるようにも思えた。
12. もう一度 – 竹内まりや
竹内まりやが音楽活動を休止し、山下達郎と結婚してからレーベルも移籍して久々にリリースする新作としてアルバム「VARIETY」はひじょうに話題になっていて、その先行シングルがこの曲と「本気でオンリーユー(Let’s Get Married)」とのカップリングであった。
イントロから編曲とプロデュースを手がけた山下達郎のコーラスが聴かれ、オールディーズ的でもある楽曲はアルバムへの期待を高めるにじゅうぶんであった。そして、ついに発売されるとオリコン週間アルバムランキングで1980年の「LOVE SONGS」以来となる1位に輝いたのであった。
「VARIETY」はそのタイトルがあらわしているように、文字通りバラエティーにとんだアルバムではあったのだが、ジャケットに使われているモノクロのポートレートから想像できるように、全体的にノスタルジックでエバーグリーンなイメージが強い作品として認識されていた。もちろんそうではない曲も収録されていたのだが。
11. ファーストデイト – 岡田有希子
岡田有希子は愛知県内でもトップクラスの学力を誇る優等生だったといわれていて、本人の強い希望であった芸能界入りも家族から猛反対されていたという。それでも意志はひじょうに強く、母親は条件として普通の努力では難しい目標をあたえるが、これも猛勉強によってクリアしたのだという。
竹内まりやによって作詞・作曲されたこのデビューシングルは、岡田有希子の優等生的なキャラクターが生かされた上で、キャッチーなキャンパスポップとしても成立しているのだが、驚くべきなのは初めてのデートに誘われた「クラスで一ばん目立たない」女の子の不安と期待を歌詞だけではなく曲調でもあらわし、それをこの新人アイドルが歌いこなしているという点である。
オリコン週間シングルランキングでは最高20位とアイドルのデビューシングルとしては上々の結果だったが、その後、「リトルプリンセス」「-Dreaming Girl- 恋、はじめまして」と同じく竹内まりやが提供したシングルをリリースする度に順位を上げていき、年末には日本レコード大賞の最優秀新人賞も受賞した。
10. 北ウィング – 中森明菜
中森明菜の7枚目のシングルとしてこの年の元旦にリリースされ、オリコン週間シングルランキングでは最高2位を記録した。
作曲の林哲司は杉山清貴&オメガトライブの曲を気に入っていた中森明菜自身のリクエストによって実現したのだという。また、空港を頻繁に利用する人以外にはそれほど馴染みがなかったと思われる「北ウィング」というタイトルも中森明菜の提案によるものであり、荒井由実「中央フリーウェイ」から着想を得たといわれている。
9. ヤマトナデシコ七変化 – 小泉今日子
小泉今日子はこの年にリリースしたシングル「渚のはいから人魚」でデビュー3年目にして、オリコン週間シングルランキングで初の1位に輝いた。その後も好セールスは続いて、いわゆる「花の82年組」では中森明菜に続いて頭一つ抜けたような印象があった。
11枚目のシングルとしてリリースされ、やはりオリコン週間シングルランキングで1位を記録したこの曲は、タイトルからして何を言っているのかよく分からないのだが、「純情・愛情・過剰に異常」というフレーズがあらわすようなものになっていて、ボーカルからも明るいエロティシズムとでもいうようなものが感じられとても良い。
8. Rock’n Rouge – 松田聖子
松田聖子の16枚目のシングルで、カネボウ化粧品のCMソングに使われオリコン週間シングルランキングでは順当に1位であった。
シングルではバラードが続きがちだったのだが、この曲は久しぶりに快活にポップで春らしくてとても良かった。作曲の呉田軽穂は松任谷由実のペンネームで、作詞の松本隆、編曲の松任谷正隆、歌うのが松田聖子と全員が「松」ではじまる苗字であった。
「Kissはいやといやと言っても反対の意味よ」は「小麦色のマーメイド」における「好きよ 嫌いよ」と同様に、絶妙に微妙で面倒くさくて最高な心理描写となっている。
7. 飾りじゃないのよ涙は – 中森明菜
林哲司が作曲をした「北ウィング」からはじまった中森明菜の1984年は「サザン・ウインド」が玉置浩二、「十戒(1984)」が高中正義で「飾りじゃないのよ涙は」が井上陽水とすべてのシングルで別々の作曲者による曲を歌い分けていた。
この曲は特に新境地を感じさせるものであり、シンセドラム的なサウンドも含めひじょうに聴きごたえがある。
井上陽水が年末にリリースしたアルバム「9.5カラット」にはこの曲のセルフカバーバージョンも収録され、翌年のオリコンアルバムランキングではワム!「メイク・イット・ビッグ」を抑えて年間1位に輝いた。
6. Woman “Wの悲劇より” – 薬師丸ひろ子
薬師丸ひろ子の主演映画「Wの悲劇」は作品としても評価が高いのだが主題歌がまた素晴らしく、オリコン週間シングルランキングでも1位に輝いている。
愛の終わりを明確に予感するにあたり、その深さゆえに生と死の間すら行き来しかねない感情が表現されているようにも感じられる。しかも必要以上に重厚になりすぎていないところに逆に迫力を感じたりもするのだが、それも薬師丸ひろ子の個性的なボーカルと演技力によるものであろう。
作曲者の呉田軽穂こと松任谷由実は、後にこの曲が薬師丸ひろ子のためのオートクチュールだと語ったという。
5. ペパーミント・ブルー – 大滝詠一
大ヒットした「A LONG VACATION」から3年後に大滝詠一がリリースしたアルバム「EACH TIME」の収録曲で、シングルカットはされていないが、プロモーション盤が制作されていたらしく、ラジオではよくかかっていた。
「A LONG VACATION」はあれだけ売れたにもかかわらずオリコン週間アルバムランキングでの最高位は2位だったのだが、「EACH TIME」は1位に輝いた。
4. そして僕は途方に暮れる – 大沢誉志幸
大沢誉志幸は1981年にロックバンド、クラウディ・スカイの中心メンバーとしてデビューするものの間もなく解散、ニューヨークで暮らしながらアイドルなどに楽曲を提供するという独特な活動を行っていたが、1983年にはEPICソニーからソロアーティストとして再デビューし、新進気鋭の実力派として話題にもなっていた。
この年にリリースされたアルバム「CONFUSION」からは資生堂のCMにも使われた「その気xxx (mistake)」がオリコン週間シングルランキングで最高23位のスマッシュヒットを記録していたが、次にシングルカットされたこの曲が日清カップヌードルのCMの効果もあってロングセラーとなり、オリコン週間シングルランキングでは最高6位を記録した。
3. COMPLICATION SHAKEDOWN – 佐野元春
1980年に「アンジェリーナ」でデビューした佐野元春は翌年には代表曲となる「SOMEDAY」をリリースしたものの、この時点ではオリコン週間シングルランキングにランクインすらしていなかった。その後、大滝詠一のナイアガラ・トライアングルに抜擢されると知名度を上げ、1983年のベストアルバム「No Damage」はオリコン週間アルバムランキングで初の1位に輝いた。
そのタイミングで単身でニューヨークに移り住み、現地のミュージシャンたちと新しい音楽をつくりはじめた。そして、約1年後に届けられたアルバム「VISITORS」は当時のニューヨークで盛り上がっていたラップミュージックから影響を受けたもので、シティ・ポップ的でもあったそれまでの佐野元春の音楽とはかなりテイストが異なるものであった。
ファンの間でも賛否両論あり、佐野元春自身の発言によると泣き出してしまう女性ファンもいたらしい。オリコン週間アルバムランキングでは1位に輝き、ヒップホップを早くから取り入れた日本のポップミュージックとして高く評価されることになる。
アルバムからの先行シングルはより以前の作風に近い「TONIGHT」だったが、2枚目のシングルとしてカットされ、アルバムでは1曲目に収録されたこの曲が本質をより正確に伝えているような気がする。
2. ミス・ブランニュー・デイ – サザンオールスターズ
サザンオールスターズのアルバム「人気者で行こう」からは当初、「海」がシングルカットされる予定だったというのだが、途中でこの曲に替わったのだという。この直前の2枚のシングル、「EMANON」「東京シャッフル」はいずれもオリコン週間シングルランキングでトップ20入りを逃がしていたが、この曲はロングセラーとなって最高6位を記録した。
シンセサイザーやシンセベースなどによるデジタルなサウンドが特徴的で、ひじょうに攻めているように感じられる。歌詞は軽薄短小な世相を斬っているようにも感じられるが、実はそれほど深い意味はなく、そういういまどきの女の子たちが素敵だということが歌われているように思える。
子供の落書きのようなアニメーションが使われたミュージックビデオが制作されたが、あまりによく分からない上に放送コードに抵触する可能性もあるからか、ほとんど日の目を見ていない(後に商品化はされている)。
1. プラスティック・ラヴ – 竹内まりや
竹内まりやの大ヒットアルバム「VARIETY」の2曲目に収録されていた曲で、翌年にリミックスバージョンが12インチシングルで発売されるが、オリコン週間シングルランキングでの当時の最高位は86位であった。
全体的にノスタルジックでエバーグリーンな印象が強いアルバムの中ではやや異色ともいえる楽曲だったが、代表曲ではけしてなかったような気がする。それでも、プロデューサーで夫の山下達郎が自身のライブでカバーする(1989年のライブアルバム「JOY」に収録)するなど人気はそれなりにあった。
2010年後半にYouTubeにアップロードされた音源がきっかけで海外の音楽ファンから注目され、ジャパニーズ・シティ・ポップのシグネチャー的楽曲として再評価される。これを受けて2019年にはミュージックビデオが新たに制作され、2021年に再発されたシングルはオリコン週間シングルランキングで最高5位を記録した。