ビートルズ「アビイ・ロード」について。
ビートルズの14作目のアルバム「アビイ・ロード」は1969年9月26日にイギリスで発売されたということなのだが、当時、2歳11ヶ月だったのでリアルタイムでの記憶はまったくない。「アビイ・ロード」はビートルズの最後のオリジナル・アルバム「レット・イット・ビー」の元となったゲット・バック・セッションよりも後に録音されたため、実質的にはこちらの方がラスト・アルバムだという説があったと思うのだが、「レット・イット・ビー」の一部は「アビイ・ロード」よりも後に録音されていたことなどが後に発覚し、現在では「レット・イット・ビー」が名実共にラスト・アルバムとされているようだ。
あとは、ビートルズのメンバー4人が横断歩道を渡っているジャケットアートワークだが、数多くのパロディーの対象になったり、撮影場所が観光名所になったり、写っているポール・マッカートニーが裸足であったり、いくつかの手がかりから死亡説が流れたりといった話題も提供した。
80年代あたりにはビートルズの最も優れたアルバムといえば、ロックを芸術の域にまで高めたともいわれる「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」なのではないかとする説が有力だった気がするのだが、90年代には実は「リヴォルヴァー」が最も良くて、その次は「ホワイト・アルバム」こと「ザ・ビートルズ」なのではないかというような風潮がなんとなくあり、2020年に更新された「ローリング・ストーン」誌が選ぶ歴代アルバム・ベスト500的な企画では、マーヴィン・ゲイ「ホワッツ・ゴーイング・オン」、ビーチ・ボーイズ「ペット・サウンズ」、ジョニ・ミッチェル「ブルー」、スティーヴィー・ワンダー「キー・オブ・ライフ」に続く5位に選ばれた「アビイ・ロード」が、ビートルズの作品では最も高い順位になっている。
個人的には後期にリリースされたまあまあ良いアルバムで、「カム・トゥゲザー」「サムシング」「ヒア・カムズ・ザ・サン」が収録されている、というような印象だったのだが、久しぶりに通して聴いてみるとかなり良くて、昨夜から何度もリピートしているような状態である。同時期にヒットしていたアルバムとして、ザ・バンド「ザ・バンド」、ローリング・ストーンズ「レット・イット・ブリード」などがあり、地に足のついたタイプのルーツ音楽に対するリスペクトが感じられる音楽が流行りだったのだろうか、などと考えなくもないのだが、何せ当時、2歳11ヶ月だったので推測の域を出ない。
「カム・トゥゲザー」は1980年代後半に桑田佳祐が明石家さんまや忌野清志郎、泉谷しげる、松任谷由実などとやっていて、BOØWYなども出演していた「メリー・クリスマス・ショー」というテレビ番組のオープニングで演奏されていた。あの番組では、泉谷しげると渡辺美里のデュエット曲がとても良かった。「サムシング」はジョージ・ハリスンの曲だが、ジョン・レノンもポール・マッカートニーもとても良いと認めている。フランク・シナトラもこの曲をとても気に入っていたようなのだが、ジョン・レノンとポール・マッカートニーによる曲だと勘違いをしていたらしい。ラヴ・ソングなのだが、彼女には独特の雰囲気がある、というようなことを歌っていて、好きになった人に対してはそういったことを思いがちだよな、と時を超えて大いに共感した記憶がある。
とはいえ、私が初めてこの曲を聴いたのは、「11PM」か「TV海賊チャンネル」のような番組で、ポルノ女優かAVギャルがストリップティーズする時のBGMとしてであった。アナログレコードではB面の1曲目に収録された「ヒア・カムズ・ザ・サン」もジョージ・ハリスンによって書かれた曲で、このアルバムにおいては無双状態といえる。この曲は1986年にリリースされた「ナウ・ザッツ・ホワット・アイ・コール・ミュージック」シリーズの「ザ・サマー・アルバム」にも、「愛こそすべて」と共に収録されていた。とはいえ、これはジョージ・ハリスンが日常から逃れ、エリック・クラプトンの自宅に遊びにいった春の日に、その解放感から書き上げた曲らしい。リンゴ・スターによる「オクトパス・ガーデン」も、80年代のサザンオールスターズの充実したアルバムにおける関口和之作品のような、絶妙なアクセントになっているようにも思える。
サザンオールスターズといえば、2005年のアルバム「キラーストリート」のジャケットアートワークもまた、「アビイ・ロード」のパロディーの一つとされていたわけだが、個人的に「アビイ・ロード」のパロディージャケットといえば、所ジョージが1979年にリリースした「Revenge of Hong Kong ホング・コングの逆襲」の印象が強い。とはいえ、共感を得ることははじめからあきらめている。
「アビイ・ロード」といえば定評があるのがアナログレコードではB面に収録されたメドレーなのだが、個人的にはずっとこれがまったくハマらず、さらにA面で「サムシング」と「オー!ダーリン」の間に収録された「マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー」のような、ズンチャッ、ズンチャッみたいなリズムの曲にまったくロックを感じられず、とても苦手だったのだが、久しぶりに聴いてみると、これもわりと楽しめたので大人になれたような気がした。
それにしても、「マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー」はあのような牧歌的な曲調でありながら、人をどんどん殺していく曲なので、やはりよく分からない不気味さがあるし、作者であるポール・マッカートニーがレコーディングにかなりのこだわりを発揮したために、他のメンバーからは忌み嫌われていて、この曲のレコーディングがビートルズ解散の一因だったのではないかという説まであるのだという。
A面の最後に収録された「アイ・ウォント・ユー」はジョン・レノンによって書かれていて、ビートルズが4人でレコーディングした最後の曲だといわれている。とにかくヘヴィーで長い曲ではあるのだが、ジョン・レノンによる小野洋子に対するピュアなラヴ・ソングであり、この生々しい感じこそが個人的にはとても好きであり、結局のところジョン・レノンの表現こそが体質に合うな、と再認識させられたのであった。最後が唐突に終わるのも、録音ではもっと先まであったようなのだが、ジョン・レノンがここで切るようにと指示をしたらしく、そのタイミングたるや絶妙であり、シビれまくる以外にないのである。
「ビコーズ」は以前からとても良い曲だと思っていて、特にコーラスが美しくて最高だなと感じていた。2007年の秋に会社のお金でラスベガスに連れていってもらったのだが、シルク・ド・ソレイユがビートルズの音楽を使った「ラヴ」というパフォーマンスをやっていて、確かその冒頭でこの曲が流れた。その時の様々な思い出と共に、さらに忘れがたい曲となったのであった。
「カム・トゥゲザー」はチャック・ベリーのユー・キャント・キャッチ・ミー」に似ているということで訴訟沙汰になるのだが、ジョン・レノンがソロでチャック・ベリーや同じ著作権者が権利を有するリー・ドーシーの曲をカバーすることによって和解となった。
ビートルズの他のアルバムと同様に、個人的に好きな曲はジョン・レノンによって書かれたものが多いのだが、このアルバムについてはジョージ・ハリスンによる2曲が素晴らしいので、さらに良い。世間一般的には評価がとても高いアナログレコードではB面のメドレーにまったくハマっていなかったので、通して聴くことがあまりなかったのだが、全体的にもかなり良いのではないかと思えるようになっていた。そして、「サムシング」はピュアなラヴ・ソングであると同時に、セクシーな場面にもハマるのだという認識を得ることができた点において、初めて聴いたのが「11PM」か「TV海賊チャンネル」のポルノ女優かAVギャルのストリップティーズというのはそれほど悪くはない、というかむしろとても良かったのではないかと感じたりはするのだ。