アーケイド・ファイア「ザ・サバーブス」について

カナダはモントリオール出身のインディー・ロック・バンド、アーケイド・ファイアの3作目のアルバム「ザ・サバーブス」は2010年8月2日にリリースされ、全米、全英いずれのアルバム・チャートでも1位に輝き、第53回グラミー賞においては主要部門の1つである最優秀アルバム賞を受賞してもいる。その他のノミネート作品はエミネム「リカヴァリー」、レディ・アンテベラム「ニード・ユーナウ~いま君を愛してる」、レディー・ガガ「モンスター」、ケイティ・ペリー「ティーンエイジ・ドリーム」であった。最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞にも「フューネラル」「ネオン・バイブル」に続いてノミネートされていたが、こちらはザ・ブラック・キーズ「ブラザーズ」が受賞している。

2010年代にリリースされたアルバムとしてはケンドリック・ラマー「トゥ・ピンプ・ア・バタフライ」「グッド・キッド、マッド・シティー」、カニエ・ウェスト「マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー」、フランク・オーシャン「オレンジ・チャンネル」「ブロンド」、ビヨンセ「レモネード」、デヴィッド・ボウイ「★(ブラックスター)」などと共に、様々なメディアのベスト・アルバム的なリストでは上位に挙げられがちである。

アーケイド・ファイアは2004年にリリースしたデビュー・アルバム「フューネラル」で大きく注目され、様々なメディアが発表する年間ベスト・アルバムの上位に選ばれたり、デヴィッド・ボウイが絶賛していることなどが話題になった。大所帯で様々な楽器を用いたバロック・ポップ的でもある音楽性が特徴であった。2007年には2作目のアルバム「ネオン・バイブル」をリリースするが、全米、全英アルバム・チャートでいずれも最高2位の大ヒットを記録し、評価も概ね好評であった。

そして、この「ザ・サバーブス」だが、よりオーセンティックなロック寄りになったのではないかと1曲目などを聴くと思わなくもないのだが、ダンス・ビートやシンセサイザーを強調した楽曲もあるなど、バラエティーにはとんでいる。ウィン・バトラーはこのアルバムについて、ニール・ヤングとデペッシュ・モードをミックスしたようなもの、とも語っているのだが、確かにオーセンティックなロックにニュー・ウェイヴ的な要素を付け加え、エモーショナルにどんどん盛り上げていく、という感じではある。テーマはアルバムタイトルがあらわしているように、「郊外」である。中心メンバーのウィン・バトラーが弟のウィルと幼少期を過ごしたテキサス州ヒューストン郊外での体験の記憶がベースになっているという。そこにウィン・バトラーが構想していたというSF映画の要素も入っている。このフィクション化されたノスタルジーとでもいうべき感覚が、なかなかおもしろい。

スパイク・ジョーンズが監督したショート・フィルム的でもあるミュージック・ビデオが、作品が持つフィーリングをより理解しやすくしてくれる。当時のポップ・ミュージック界のトレンドを取り入れていたかというとそうでもなかったような気もするのだが、そこが純粋に楽曲の強さによって、このアルバムをモダン・クラシックと呼ぶにふさわしいものにしているように思える。