佐野元春の名曲ベスト30(10-1)

10. CHRISTMAS TIME IN BLUE -聖なる夜に口笛吹いて- (1985)

1985年11月21日に12インチシングルでリリースされたクリスマスソングで、オリコン週間シングルランキングで最高7位を記録した。この年の秋にニューヨークでプラザ合意が発表され、日本がバブル景気に入るきっかけとなるが、他には「ビックリハウス」が休刊になったり阪神タイガースが21年ぶりに優勝したりしていた。秋葉原の石丸電気で陳列されているのを見て、巣鴨のDISC510(後藤楽器店)で買った記憶がある。

レゲエ的な曲調に乗せて、恋人たちのクリスマスではなくラヴ&ピース的なことが歌われているという点で、ワム!「ラスト・クリスマス」などよりもジョン・レノン「ハッピー・クリスマス」の方にかなり近いといえる。

9. Happy Man (1982)

アルバム「SOMEDAY」のA面2曲目に収録され、後にシングルカットもされた。かなりうろ覚えなのだが、夏休みにいとこの家に遊びにいった時に「明星」か「平凡」の歌本があって、近田春夫のポップス時評のようなものでこの曲をシングルカットしたことが高評価されているような記憶があるし、実はそんなことはまったく無かったのかもしれない。

「アスピリン片手のジェットマシーン」は後にかせきさいだぁ「冬へと走りだそう」で引用されるのだが、「仕事も適当にみんなが待ってる店まで Hurry up, hurry up!」的なものが憧れのオトナ像の1つとして刷り込まれもした。「ただのスクラップにはなりたくないんだ」というところもとても良い。「インチキ」という単語の用い方には、J.D.サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」を連想させるところもある。

8. スターダスト・キッズ (1982)

1981年のシングル「ダウンタウン・ボーイ」のB面に元々は収録されていた曲なのだが、「SOMEDAY」のアルバムでブレイクした後の1982年11月21日に新しくレコーディングされバージョンを表題曲とするシングルがリリースされた。オリコン週間シングルランキングでの最高位は58位だったが、それまでの佐野元春のシングルの中では最も高い順位であり、スマッシュヒット感も感じられた。翌年にリリースされ、オリコン週間アルバムランキングで1位に輝いたベストアルバム「No Damage(14のありふれたチャイム達」では、A面の1曲目に収録されていた。「本当の真実」というのが、1つのキーワードでもあったように思える。

7. COMPLICATION SHAKEDOWN (1984)

アルバム「VISITORS」のA面1曲目に収録され、後にシングルカットもされた。先行シングル「TONIGHT」よりも、この曲がニューヨークでヒップホップの洗礼を受け、まったく新しいタイプの日本語のポップスをつくり上げることに成功したこのアルバムの特徴を端的にあらわしているように思える。

「システムの中のディスコティック」というフレーズが、皮肉も効いていてとても良い。それまでの佐野元春の音楽性からかなり変化していたこともあり、ファンの間でも賛否両論があって、すぐには受け入れることができなかったり、離れていってしまった人達も少なくはなかったのだが、個人的には最高にカッコいいアルバムだと感じていた。この年の冬、旭川市民文化会館で見たライブでは、このアルバムに収録された楽曲がバンドサウンドで再構築されていて、それにもかなり感激した。

6. Young Bloods (1985)

1985年2月1日にリリースされたシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高7位と、佐野元春にとって初めてのトップ10シングルとなった。この年の正月に代々木公園で撮影されたミュージックビデオには、この頃の気分が真空パックされているかのような良さがある。2022年3月現在、YouTubeでは公式的に公開されていないが、Apple Musicでは視聴することができる。

「VISITORS」以降、最初のシングルということだったのだが、もちろんそれを通過した後ならではというところはあったものの、音楽的にはややそれ以前に回帰したようなところもあり、安心したファンも少なくはなかったような気がする。とはいえ、この年には打ち込みのトラックをバックに、ポエトリーリーディングを収録したカセットブック「エレクトリック・ガーデン」などというとんでもないものをリリースしたりもするのだが。

5. レインボー・イン・マイ・ソウル (1992)

世間一般的な評価や知名度からすると、この順位は高すぎるのではないかとも思えるのだが、個人的には妥当なのではないかとも感じる。アルバム「Sweet16」に収録され、「彼女の隣人」とのカップリングでシングルもリリースされた。2000年にリリースされたベストアルバム「The 20th Anniversary Edition 1980-1999 his words and music」で聴いていて、これはかなり良いのではないかと思ってから、すっと大好きな曲になっている。

イントロからしてとても切なげで素晴らしいのだが、「失くしてしまうことは 悲しいことじゃない」というフレーズが象徴しているような、苦みばしった大人のロックである。

4. 約束の橋 (1989)

1989年のアルバム「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」からの先行シングルとしてリリースされ、オリコン週間シングルランキングで最高20位を記録したが、1992年にはテレビドラマ「二十歳の約束」の主題歌に起用され、ボーカルなどを録りなおしたバージョンをリリースしたところ、オリコン週間シングルランキングで最高4位、70万枚以上を売り上げる大ヒットとなった。

「今までの君はまちがいじゃない」というフレーズが印象的なこの曲は、スランプに陥ってもいた佐野元春が自らを励ますつくったともいわれている。

3. アンジェリーナ (1980)

1980年3月21日にリリースされた、佐野元春の記念すべきデビューシングルである。この曲におけるシャイなボーカルスタイルにも、それ以降とはまた違った良さがある。NHK-FMの「元春レディオショー」こと「サウンドストリート」のオープニングで、この曲のインストゥルメンタルが使われていたことでも印象深い。

なんといっても歌詞にオリジナリティーが感じられたのだが、都会の景色や若者の心象風景を独自の言語感覚で切り取っていながらも、「今晩 誰かの車が来るまで 闇にくるまっているだけ」のような身も蓋もなさがとても良い。

2. ガラスのジェネレーション (1981)

佐野元春の2枚目のシングルで、アルバム「Heart Beat」のA面1曲目にも収録された。この曲はなんといっても「つまらない大人にはなりたくない」というフレーズに尽きるのだが、ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドにも通じるサックスも最高なバンドサウンドとスタイリッシュな魂の叫びとでもいうものが、ティーンエイジャーのシャイなハートにフィットした。当時はまったくヒットしなかったのだが、間違いなく代表曲の1つである。

1. SOMEDAY (1981)

この曲のCMスポットはリリースされた1981年の初夏にラジオでよく耳にした記憶があるが、オリコン週間シングルランキングの記録を見る限り、それほどヒットはしていなかったようだ。オールディーズでエバーグリーンなポップスのエッセンスを80年代の感覚で甦らせたような音楽は当時トレンディーだったような記憶があり、たとえばエルヴィス・コステロやブルース・スプリングスティーン、大滝詠一などにもそれはいえることであった。そして、フィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドをもスタイルとして取り入れながら、10代の苦悩というポップミュージックらしいテーマを、また独特の切り口で取り上げているのがとても良い。

「まごころがつかめるその時まで」「ステキなことはステキだと無邪気に笑える心がスキさ」というような直球すぎるフレーズを恥ずかしげもなく、むしろ切実でリアルな表現として感じさせるところがとにかくすごく、かと思えば、「オー・ダーリン こんな気持に揺れてしまうのは 君のせいかもしれないんだぜ」と瞬時にしてシャイにしてロマンティックなモードに切り替わるところなどもたまらない。当時、ファンの男女比が絶妙だった印象もひじょうに強くて、この曲も収録した1983年のベストアルバム「No Damage(14のありふれたチャイム達)」はA面がBoy’s Life Side、B面がGirl’s Life Sideとなっていた。