1985年の洋楽ロック&ポップス名曲ベスト20
阪神タイガースが21年ぶりの優勝、日本航空123便墜落事故、豊田商事会長刺殺事件、「夕やけニャンニャン」放送開始、「8時だョ!全員集合」放送終了、「ビックリハウス」休刊などといったトピックの他に、9月22日にはプラザ合意が発表され、これが日本にバブル景気をもたらすことになった、というのが1985年の印象である。
ポップ・ミュージック界においては、アフリカ飢饉救済を目的としたチャリティーイベント「ライヴ・エイド」がアメリカとイギリスで開催され、日本を含む全世界に生放送された。そんな年にリリースされたポップ・ソングの中から、特に重要だと思われる20曲を選んでいきたい。
20. Perfect Way – Scritti Politti
1984年のシングル「ウッド・ビーズ」「ヒプノタイズ」などが好評だったスクリッティ・ポリッティが、これらの楽曲をも収録したアルバム「キューピッド&サイケ85」をリリースして、やはり高評価を得た。中心メンバーであるグリーン・ガーサイドの天才ぶりに加え、美しいルックスと甘いボーカルが大いに受けて、「ミュージック・マガジン」の裏表紙などに掲載された広告のコピーは「この美しい生き物は一体誰?」であった。
この曲はアルバムからシングル・カットされるとアメリカでヒットして、全米シングル・チャートで最高11位を記録した。
19. There Must Be An Angel (Playing With My Heart) – Eurythmics
シンセ・ポップの印象がひじょうに強かったユーリズミックスだが、この年にリリースしたアルバム「ビー・ユアセルフ・トゥナイト」では、よりナチュラルでオーガニックなサウンドになっていた。
アルバムから2曲目のシングル・カットとなったこの曲は、全英シングル・チャートにおいてユーリズミックスにとって初めてとなる1位に輝いていた(アメリカで1位になった「スウィート・ドリームス」はイギリスでは最高2位であった)。ハーモニカでスティーヴィー・ワンダーがゲスト参加している。ユニセックス的なイメージが強かったアニー・レノックスが、この曲のビデオではひじょうにフェミニンな感じであることも印象的であった。
18. Holding Back The Years Simply Red
シンプリー・レッドのデビュー・アルバム「ピクチャー・ブック」からシングル・カットされ、全米シングル・チャートで1位に輝いた。中心メンバーであるミック・ハックネルが17歳の頃に書いた曲だという。ブルー・アイド・ソウル的なとても良い曲であり、もしも当時にJ-WAVEがすでに開局していたとするならば、ヘビーローテーションは必至だったと思われる(実際の開局は1988年である)。
17. Saving All My Love For You – Whitney Houston
実力派シンガーとして注目をあつめたホイットニー・ヒューストンは、「そよ風の贈りもの」が全米シングル・チャートで3位を記録した後、「すべてをあなたに」という邦題もついたこの曲で初の1位に輝いた。1978年にマリリン・マックー&ビリー・デイヴィス・Jrによってリリースされた曲のカバーであり、既婚者との恋愛関係について歌われている。この曲も収録したデビュー・アルバム「そよ風の贈りもの(原題:Whitney Houston)」だが、日本盤ではジャケットに海辺での水着写真が使われていた。このアルバムからは、「恋は手さぐり」「グレイテスト・ラヴ・オブ・オール」も続けて全米シングル・チャートで1位を記録し、一気に人気アーティストの仲間入りを果たした。
16. The Power Of Love – Huey Lewis & The News
80年代にヒット曲を連発して、当時のポップスファンの心には深く刻まれているにもかかわらず、ロック批評的な文脈からは高く評価されてはいなく、そんなところも愛おしく思えるのがヒューイ・ルイス&ザ・ニュースである。確かにとても売れていたのだが、一体どういった層の人たちがメインのファンであったかがいま一つつかみにくいというところもある。この曲は大ヒットした映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の主題歌であり、全米シングル・チャートで1位を記録したのだが、マイケル・J・フォックスが演じたマーティ・マクフライがヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのファンという設定であった。
15. The Perfect Kiss – New Order
ニュー・オーダーのアルバム「ロウ・ライフ」からシングル・カットされ、全英インディー・チャートでは1位になるものの、全英シングル・チャートでの最高位は46位にとどまっている。ダンス・ミュージック色がより色濃くなっていて、当時のディスコでもハイ・エナジーのヒット曲に混じってかかったりしていた。バーナード・サムナーのボーカルが一般的な基準としてはそれほど上手くはないと見なされてもやむを得ないのだが、それが素晴らしい個性であり魅力でもあることが特に感じられる切実なラヴ・ソングになっている。
14. Crazy For You – Madonna
「ライク・ア・ヴァージン」のアルバムからタイトル曲と「マテリアル・ガール」が立て続けにヒットして、レーベルとしてはさらにシングル・カットをしたいところだったのだが、その前に映画「ビジョン・クエスト/青春の賭け」のサウンドトラックからこの曲がシングルとしてリリースされ、全米シングル・チャートで1位に輝いた。マドンナはダンス・ポップだけではなく、バラードもいけるということを知らしめた楽曲にもなった。
13. Money For Nothing – Dire Straits
ダイアー・ストレイツのアルバム「ブラザーズ・イン・アームズ」は、当時、普及している最中であったCDでよく売れているということが話題になっていたような気がする。要は経済的にゆとりがある人々によく聴かれていたということでもあるが、とにかくよく売れて、シングル・カットされたこの曲は全米シングル・チャートで1位に輝いた。
中心メンバーでソングライターであるマーク・ノップラーが家電を扱っている店に行ったところ、テレビに映るロックスターを見て店員が悪口を言っていたらしく、歌詞はそれにインスパイアされたものだという。「I want my MTV」というコーラスを歌っているのはスティングである。アニメーションと実写とを組み合わせたミュージックビデオも印象的であった。
12. Close To Me – The Cure
ザ・キュアーのアルバム「ザ・ヘッド・オン・ドアー」からシングル・カットされ、全英シングル・チャートで最高24位を記録した。シングル・バージョンではブラス・セクションがフィーチャーされ、ダークな個性を保ちつつもポップでキャッチーな音楽性を実現している。
11. Manic Monday – Bangles
プリンスがクリストファー名義で提供した楽曲で、全米、全英ともにシングル・チャートで最高2位のヒットを記録した。月曜の朝に目を覚まし、仕事に行かなければならず憂鬱で、今日が日曜日だったら良いのにと思うという身も蓋もないのだが、共感できる内容が歌われている。プリンスによるセルフ・カバー・バージョンも、後に公開された。
10. Addicted To Love – Robert Palmer
ロバート・パーマーのアルバム「リップタイド」からシングル・カットされ、全米シングル・チャートで1位に輝いた。通好みのアーティストという印象であったロバート・パーマーだが、この年にデュラン・デュランのメンバーらと組んだユニット、パワー・ステーションのボーカリストとして「サム・ライク・イット・ホット」をヒットさせ、より広く知られるようになった。
「恋におぼれて」の邦題でも知られるこの曲は、同じような服装とメイクをした女性たちによるバンドが無表情で演奏をするミュージックビデオもひじょうに印象的であった。
9. Take On Me – a-ha
ノルウェー出身のバンド、a-haの楽曲で、オリジナルのバージョンは1984年にリリースされていたが、デビュー・アルバム「ハンティング・ハイ・アンド・ロウ」のために再レコーディングされたバージョンが、ひじょうにユニークなミュージックビデオの効果もあって、全米シングル・チャートで1位に輝いた。
アニメーションと実写とを合体させたようなミュージックビデオはひじょうに評価が高く、MTVビデオ・ミュージック・アワードで6部門を受賞したりもしている。
8. Inbetween Days – The Cure
アルバム「ザ・ヘッド・オン・ドアー」からの先行シングルで、全英シングル・チャートで最高15位を記録した。全米シングル・チャートにも、最高99位ではあるがこの曲で初めてランクインを果たしている。ひじょうにポップでキャッチーな楽曲であり、シンセサイザーとアコースティックなサウンドのバランスも絶妙である。それでいて、歌詞では年老いることの不安など暗い内容が歌われているところもとても良い。
7. Raspberry Beret – Prince & The Revolution
1984年に「パープル・レイン」が大ヒットして、一気にポップ・アイコン化したプリンスが、前作から1年も経たずにリリースしたニュー・アルバム「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」からの先行シングルで、全米シングル・チャートで最高2位を記録した。「パープル・レイン」とは打って変わって、サイケデリック色が濃くなったサウンドが特徴的である。この年にはファッションでもペイズリー柄が流行したりと、ネオサイケなムードが漂っていたりもした。
6. Don’t You (Forget About Me) – Simple Minds
80年代のポップ・カルチャーについて考える上で、わりと重要でもあるのがジョン・ヒューズ監督による青春映画である。その中でも特に評価が高いのが「ブレックファスト・クラブ」であり、シンプル・マインズが歌ったこの曲も全米シングル・チャートで1位に輝く大ヒットとなった。80年代らしいダイナミックなサウンドとアンセミックなパフォーマンスが、ひじょうに印象的である。
5. West End Girls – Pet Shop Boys
80年代前半に流行したシンセ・ポップに比べ、よりクールでスタイリッシュであり、どこか皮肉っぽくも感じられた、いかにもイギリス的なユニットによる最初のヒット曲である。それほど派手な印象も受けないのだが、聴いているうちにどんどん気になっていき、気がつくと夢中になっているという、そんなタイプの楽曲のように思えた。これがイギリスのみならず、アメリカでもシングル・チャートの1位に輝くのであった。
4. Everybody Wants To Rule The World – Tears For Fears
デビュー当時にはより繊細なタイプの音楽をやっていたような印象があるイギリスのニュー・ウェイヴ・バンド、ティアーズ・フォー・フィアーズが「シャウト」では80年代的なダイナミズムを感じさせるサウンドに変貌していて、その次のシングルとしてリリースされたこの曲においてはさらにそれが強く感じられた。全英シングル・チャートでは最高2位、そして、デビュー以来、「チェンジ」で記録した73位が最高位であったアメリカでは全米シングル・チャートで1位に輝き、さらにその後で「シャウト」でも続けて1位を記録することになる。
3. Into The Groove – Madonna
イギリスでは映画「マドンナのスーザンを探して」の主題歌として発売され、全英シングル・チャートで1位に輝いた。アメリカでは「ライク・ア・ヴァージン」のアルバムからシングル・カットされた「エンジェル」のB面に収録されていた。シンセサイザーとドラムマシンによるサウンドがいかにも80年代らしいダンス・ポップであり、「ライヴ・エイド」のステージでもパフォーマンスされていた。
2. Running Up That Hill – Kate Bush
ケイト・ブッシュのアルバム「愛のかたち」からシングル・カットされ、全英シングル・チャートで最高3位を記録した。邦題は「神秘の丘」で、サブタイトルは「Deal With God」である。タイトルに「God」と入っているといろいろとややこしいことになる可能性があるということで、「Runnning Up That Hill」になったようである。
多層的なサウンドとエモーショナルなボーカルが絶妙なマッチングを見せ、ポップ・ミュージックの新たな可能性を切り拓いたようにも感じられる楽曲である。全米シングル・チャートでも最高30位を記録し、初のトップ40入りを果たしている。
1. Just Like honey – The Jesus & Mary Chain
スコットランド出身のインディー・ロック・バンド、ジーザス&メリー・チェインについては、とにかくギターの轟音がすごいとか、ライブ会場で暴動が起きるというような話題が伝わってきていたのだが、デビュー・アルバム「サイコ・キャンディ」は、サーフ・ロックやガールズ・ポップ的なポップス黄金時代のような感覚を、インディー・ロック的な手法でアップデートしているようにも感じられる、実に画期的なレコードであった。
全英アルバム・チャートで最高31位、アルバムの1曲目に収録され、3枚目のシングルとしてカットされたこの曲は全英シングル・チャートで最高45位という順位ではあったが、それ以上の衝撃と影響は確実にあたえたと思われる。フィル・スペクターのガールズ・ポップにも通じるような曲調であり、ギターの轟音はウォール・オブ・サウンドのインディー・ロック的解釈のようにも感じられた。ドラマーのボビー・ギレスピーはバンドを脱退し、プライマル・スクリームを結成することになる。